BOXING
私をリングサイドに連れてって。

世界の壁は高く・・・。日本人3連敗。


3月6日さいたまスーパーアリーナで行われた
世界3大タイトルマッチ。
日本陣営にとっては非常につらい日となった。

WBC世界バンタム級タイトルマッチ
「ウィラポン・ナコンルアンプロモーション×西岡利晃」
WBC世界S.バンタム級タイトルマッチ
「オスカー・ラリオス×仲里繁」
WBA暫定世界バンタム級タイトルマッチ
「戸高秀樹×フリオ・サラテ」
会場に集まった観衆の期待とは裏腹に
3選手とも敗北した。

西岡流血で奪取ならず。ウィラポン×西岡

世界戦で4回目となる異例の顔合わせ。
戦績はウィラポンの1勝2分。
実力は拮抗しており、今回こそはと期待された
西岡だったが、結果は完敗だった。
背水の陣で臨んだこの試合、西岡の立ち上がりは
これまでで最高だった。
踏み込んでのワンツーから右フック、
踏み込みやキレも素晴らしい。
距離も前回の試合の反省を活かし、
危険だが自分のパンチが当たる範囲を選択し、
「攻撃」を意識した期待が高まる立ち上がりだった。
ウィラポンも得意の右ストレートで受けて立つ構えだ。
「西岡の右対ウィラポンの左」である。

試合が意外な形で動いたのは3R。
頭が当たるような近距離での打ち合いで
西岡の頭がウィラポンの目尻に当たりカット。
しかし西岡もこの渦中の打ち合い右目上をカット。
結果的にこのカットが試合ペースを狂わせた。
ウィラポンは眉毛の切れ目の硬い部分、
西岡は目と眉毛の間の柔らかい部分をカット。
西岡のカットはプロのカットマンでも止められない
厄介な部分だった。
サウスポーの西岡にとって右目は相手に近い目となり、
流血によって距離感が狂う。

これにより接近戦での打ち合いが展開されることになる。
ここからウィラポンが一枚上手だった。
ショートパンチ、アッパー、体を上手く使い
西岡の顔面を血に染めてゆく。
西岡も必死で打ち合いを挑むが流血の影響もあり、
これまでライバルを続々と沈めてきた
左ストレートカウンターは当たらない。
終盤になると、ダメージの違いだろうか、
西岡の反応が悪くなり、
さらにウィラポンのパンチに晒される。
コールレフリーも西岡の顔面しか見ていない。
肉体的、精神的にぎりぎりのところで
最後まで攻め続けた西岡だったが勝負は明らか。
6、8、9ポイント差で判定負け。
ウィラポンはバランス、攻撃のバリエーション、
そして防御、スタミナ、試合運び全ての面で上回った。
西岡は攻めに行ってのカットであり、
リスクを取りに行っての打ち合いで
結果的に差が出てしまった試合だった。

緊張の強打対決はKO決着せず。ラリオス×仲里

この試合はリマッチ。不器用だがパンチのある仲里と
好戦的なラリオスが繰り広げた激闘は
素晴らしい内容だった。
前回ダウンを喫した仲里。
前回顎の骨を砕かれたラリオス。
勝敗とは別にお互いが闘志を爆発させ、
緊張と迫力を産み出した試合だった。

対抗意識むき出しというのは
こういう内容を指すのだろう。
1R開始と同時にいきなりラリオスが
渾身の右ストレートをヒットさせる。
長身のラリオスに小さな仲里。
仲里の強打を炸裂させるにはラリオスの懐に
潜り込まなければならない。
仲里も前回よりもしっかりと両手のガードを上げ
不器用ながらじりじりとラリオスににじり寄る。
2Rには懐で必殺の左フックを当て
ラリオスが逃げる展開。
しかしラリオスもちょっとした隙を見逃さず、
ブンブンと振り回してくる。
パンチの接点では火花が散るような激しさで
会場からもため息がもれる。
序盤をプレッシャーと強打で有利に進めた仲里だが、
ラリオスも譲らない。
展開不利とみた4R猛然と前に突進し、
真っ向からの打ち合いに出た。
仲里も受けて立つ。
しかしラリオスの正確なパンチがクリーンヒットし、
真の打ち合いが始まった。
両選手とも空振りで空気を切り裂くような迫力があり、
バランスが崩れる事など全く気にしない。
自分の得意のパワーパンチを当てることが
勝利に直結すると信じて実行している、
見ごたえのある内容だ。
中盤にさしかかると長い距離のラリオスに
一日の長が出てくる。
ジャブ、右ストレートを効果的に使い、
疲労が出てきた仲里を攻め立てる。
しかしラリオスが安全運転で足を使うと、俄然、
仲里のプレッシャーがきつくなり好打を許す、
前に出る気持ちが強い方が支配する
アップダウンの激しい展開となる。
8Rからスタミナ切れかダメージからか
仲里は急に動きが落ちる。
9Rには止まった所にパンチを集中され、
危うくダウンか、というところまで追い込まれる。
終盤の打ち合いを制し、トータルでのリズムと
勝敗の引き寄せ方でもラリオスが一枚上手だった。
仲里は良く研究し、前回よりも進化して
ラリオスを追い詰めたが
後半に肝心の打ち合いで劣勢に回り戴冠を逃した。
4、9、13ポイント差での判定負け。
それほどの差を全く感じない
切迫した素晴らしい内容だった。

戸高完敗!
 世界10位のランニングボクシングに敗れる


世界はやはり広い。
日本人2連敗を受けて最後の砦になるはずの
暫定王者戸高までもが、あっさりと陥落した。
相手のサラテはメキシコには珍しい完全なボクサータイプ。
10位でもあり戸高有利と思われたが、
蓋を開けると全く逆の展開となってしまった。
サラテは最終ラウンドまで全く足を止めず、
軽いパンチと隙を突いて見せるカウンターで
戸高を完封してしまった。
ある意味で難解な試合ではあった。
言葉を変えると最後までかみ合わない試合。
12Rまでリング上を走り回るサラテに何も
できなかったチャンピオン。
恐らく調整が失敗、もしくは故障があったとしか
思えない内容だった。
足を頻繁に使う選手は、100%打たれ弱い選手である。
サラテも例外ではない。
距離が詰まると両手を頻繁に動かし防御に使い、
クリンチ、ホールディングなどを徹底的に繰り返す。
そして離れたところから自分の距離を足を使って守り、
ポイント獲得に全力を注ぐ戦術だった。
スピードもあり、パンチも力こそないが
そこそこのキレはあるサラテに対し、
終始戸高は受けに回ってしまった。
結果論を述べても仕方が無いが、
戸高は初回から飛ばしてボディを攻撃していれば
展開は少しは違ったものになっていただろう。
もちろん出来ない状況だとすれば
仕方がない結果ではあるが・・・・。

西岡、仲里は自分の力を出したが、
相手が一枚上だった。
戸高は噛み合わせが悪かった。
表現としてはこの通りだ。
しかしこの日は世界のレベルの高さを改めて
見せつけられる結果だった。
パンチ、攻撃、防御、バリエーション、
バランス、スタミナ、精神力、そして
勝負どころで見せる集中力。
どの試合でも全てとはいわないが
ある部分で外国人選手が確実に勝っていた。
各選手の名誉のために書くが、この3選手は
日本でも素質が図抜けて高い選手たちが
血みどろになって、必死にトレーニングして
戦った結果である。
西岡はウィラポンと4戦目、仲里は再戦だ。
屈辱をバネに徹底的に研究し、
練習を積んで全てを賭けた結果だ。
だからといって確実に報われるわけがないのが
勝負の世界である。
そんなことは分かっているが、この日はつくづく
「世界」は近くて遠いと思い知らされた1日であった。


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2004-03-08-MON

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