期待に違わない壮絶な打ち合い!
因縁の第3戦を制したのはバレラ。
歓喜のバレラと田中トレーナー(右)
◆ボクシングの原点を見た
ボクシング、格闘の原点を見た試合だった。
12Rという過酷な時間をフルに打ち合う試合は
滅多に見ることはできない。
鍛え上げられらた世界頂点の二人だからこそ出来る、
そして殴り合っての決着以外には
何も残らないことをお互い覚悟した、
激しさの中に清清しささえ見れた試合だった。
WBC世界S.フェザー級タイトルマッチ
「エリック・モラレス対マルコ・アントニオ・バレラ」は
ラスベガスMGMグランドで開催された。
◆異常に盛り上がるMGM
3回目となるこの対決についての因縁は前回述べたが、
この日会場はこれまでの対戦になく、
ボクシング会場の雰囲気としても異常な雰囲気だった。
ラスベガスではお目にかかれないウェーブが起こるなど
観衆はすでに興奮を抑えきれない。
観衆は12,000人。
その7〜8割がヒスパニック系。
アメリカの関係者以外の公用語はスペイン語のようだ。
そのうち7〜8割がモラレスの応援。
95年メキシコ人として初めて
トップランク社と契約したモラレスは
デラ・ホーヤとともに
ラスベガスでのヒスパニック系ボクシングという
急成長ビジネスのなかでのトップ選手である。
バレラにとっては声援だけではなく、
判定になれば地元といえるラスベガスで
モラレスに傾く空気も大きな敵となるはずだ。
◆ボクシング史に残る壮絶な打ち合い
ゴングがなると展開は一転する。
スロースターターのモラレスに対し
バレラは一気に攻め立てる。
モラレスも遅れを見せまいとノーガードで挑発するなど
見せ場は満点だ。
序盤のバレラは徹底的に猛攻にでた。
表現するとゴツゴツと攻め立てる。
止まらないコンビネーションで
モラレスの顔面が赤みを帯びてくる。
しかし第3戦まで開催されたこの試合で
すんなりと行くはずがない。
4Rにはペースを取り返そうとモラレスが攻める。
一発のパンチ力ではモラレスが上、
ジャブでもバレラにダメージが見てとれる。
しかしバレラも徹底して
コンビネーションとフックを強振し
接点での攻防でアドバンテージを保った。
そして6Rモラレスが
これまで見たことの無いピンチに陥る。
容赦ないバレラの連打にダウン寸前となる。
バレラの、肘が体にぴたりとつくコンパクトな連打が
モラレスのガードの中へ中へと突き破った。
長いリーチが特徴のモラレスの一番の弱点が露呈した。
何とか持ちこたえたもののKO負けさえ予感させる状態。
バレラ渾身の右アッパーがモラレスを捕らえる
しかしここからがチャンピオン、モラレスの真骨頂だった。
7R、ズタズタにされながらも
スタミナを温存していたかのような攻撃を始める。
長いジャブを利用し、バレラを遠めに置いて
得意の右ストレートなど
長いパンチをことごとく当てていく。
バレラが嫌がる様子を見せると
さらにラッシュしプライドを見せる。
時に両者が見せる静かなフェイントも
殴り合うための殺気が立つものであり、
息をつかせない。
最終ラウンド、開始ゴングと同時に
バレラが気持ちでラッシュ。
世界的な選手は絶対見せないリスクのある戦術だ。
案の定、モラレスのカウンターの餌食となり
ピンチを迎える。
恐らく立っていることもままならない状態でも
バレラは前に出てパンチを振るい続ける。
ふらふらになりながならも、
腰を屈め何とか持ちこたえて前にで続ける。
そして12R終了のゴング。
観衆もスペイン語で絶叫している。
観衆が期待した以上の試合を鼻差で制したのは
バレラだった。
判定は2−0で新チャンピオンバレラを支持した。
◆バレラを陰で支えた日本人スタッフ
今回の勝利には日本人スタッフの支えがあった。
バレラの精神的支柱ともいうべき
田中繊大トレーナー(帝拳ジム)。
メキシコ人スタッフの中で唯一の日本人、
実はモラレスもみていたことがあり、
その技術とボクサーから受ける信頼は絶大。
そして田中トレーナーとともに
今回スパーリングパートナーとして
キャンプに参加したのが、
稲田千賢(日本ライト級4位)、
ホルヘ・リナレス
(ベネズエラ、WBA世界S.バンタム級9位)。
帝拳で活躍する両選手の特徴は
長いリーチと距離を使ってのボクサータイプの攻撃だ。
スパーリングでは仮想モラレスとして
特徴的なパンチを取得、
モラレス対策に大きな役割を果たした。
大物マネージャーと別れ、衝撃的なTKO負けなどで
限界説も出たバレラを陰で支え、
文章であらわすには限界を感じたほど凄まじい今回の試合で
大仕事をした日本人関係者がいるのは喜ばしい限りだ。
◆勝負を分けた気迫
この試合劣勢を予想されたバレラは
「気迫」「執念」「魂」で勝利をもぎ取った。
技術、体力。
世界トップでは当たり前に必要だ。
しかしこの日のバレラには
世界トップを誇るハートがあった。
これも同国人の宿敵モラレスだからこそ
湧き上がってきたものだと確信できる。
真のライバルの対戦だからこそ見れた試合だった。
負けたとはいえモラレスも3階級という目標がある。
スターであり続けることもまた
モラレスのもう一つの戦いだ。
今でも口を真一文字にしてモラレスに向かっていく
バレラの表情が忘れられない。
乾坤一擲とはまさにこのことなのだろう。
その凄み、迫力は今までで一番だった。
そして試合後の祝勝会で一瞬だけ挨拶した時のバレラは
非常に穏やかで気さくな30歳のメキシカンだった。
冷と熱を持ったボクサー、バレラはまだ終わっていない。
(写真協力:福田直樹)
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