メキシコのプライド健在!
モラレス、強打のパッキャオに判定勝ち!
会場のMGMグランドは、
数々の大勝負にも負けないくらいの熱気に包まれた。
私が経験した中(ヘビー級も含む)でも
最も激しい部類に入る。
本場ラスべガスのボクシングイベントも
上手く変わりつつある。
この日のメインイベントはフィリピンの英雄、
マニー・パッキャオと
メキシコの英雄エリック・モラレス。
モラレスはアメリカで人気があるとはいえ、
アメリカが第3国としての開催地となった形で
この熱狂ぶり。
モラレス(左)、パッキャオ(右)
パッキャオはバレラをTKOで倒し、
マルケスにも3度のダウンを味あわせた
現在のメキシカンキラー。
パックマンの愛称と笑顔からは想像もつかない
強烈な左ストレートが持ち味の
完全なるファイターだ。
アジア人として本場アメリカで成功を収めた
初めてのスター選手でもある。
モラレスはチャベス以来の3階級制覇を成し遂げた
メキシコの至宝。
この試合は両選手ともに
さらにかなりのリスクを賭けて臨んだ。
パッキャオは初めてのS.フェザーでの試合。
体格に劣る部分が必ず出てくる。
モラレスは昨年11月にバレラとの激闘で判定負けを喫し、
復帰戦となる。
ここ数年、世界戦や激しい打ち合いを行ってきただけに
体のダメージと強打のサウスポーとの経験が浅く、
いきなりのパッキャオ戦に危惧を抱く関係者も多かった。
しかし打ち合いでファンを魅了してきた両選手だけに
リスクを賭けた試合が実現した。
ファンにとってはフィリピンとメキシコの英雄同士が
雌雄を決する国と国との戦争、
ワールドカップサッカーにも近い
国民感情を反映させる土壌がベースにあった。
入場が最大の緊張に包まれた瞬間だった。
ボクシングの最大の魅力の一つは
相撲でいう初顔合わせにあるだろう。
世界中の膨大な選手が王者を目指し切磋琢磨するため、
他の格闘技にみられるような
同一選手による試合がほとんどない。
はじけるような笑顔で入場するパッキャオ、
モラレスは集中力を削がないように緊張した表情だ。
リング上でパッキャオがシャドーボクシングをおこなう。
もの凄いキレと踏み込みの速さだ。
見た瞬間、モラレスが倒れてしまうシーンが
頭に浮かんだほどだった。
14,000人の大観衆の注目は第1ラウンド。
何も恐れないパッキャオの怒濤の攻撃と
モラレスの強打の接触だった。
ゴング後しばらくは様子見だったが
やはりパッキャオがいきなり静から動へ転じた。
得意のワンツーでモラレスを攻めたてる。
モラレスも動じずファイティングポーズをとり
パッキャオを呼び込む。
観衆も呼応して大歓声をおくる。
試合の焦点は打ち合いをどちらが制するか、
小柄なパッキャオの速い踏み込みか、
体格に勝るモラレスの長いパンチに絞られた。
前半の攻防は互角。
当たれば倒れるパンチをお互いに交わし合う
迫力あるシーン満載だった。
その激しさの中で中盤からペースを明確につかんだのは
モラレスだった。
その原動力となったのが左ジャブだった。
パッキャオの踏み込みとキレを見据えて、
的確で威力のあるジャブを
もの凄いタイミングで当てる。
パッキャオの持ち味を一転してダメージに変えてしまう。
しかし試合はこれでは終わらない。
モラレスが一瞬でも隙を見せると
パッキャオは鋭い踏み込みで突進する。
さらに後半になるとモラレスは
なんとも危険な距離で敢て打ち合いにも応じた。
10Rにはスタミナが落ちたモラレスを
パッキャオが攻め立てる、
さらにモラレスはこれまでにない
サウスポーにスイッチしての打ち合いにも応じた。
終盤ではポイント勝負というより、
ファンを、自分を、全てをぶつけ
打ち合いでは負けないという気迫と精神、
そしてボクサーとしての誇りと本能のみで
両選手が打ち合いを続けた。
最終ラウンドモラレスがふらつくという
危険な場面もあったが
結果は33−0でモラレス勝利となった。
しかしジャッジ全員が2ポイント差という
僅差での勝利だった。
モラレス恐怖の右アッパー
後で冷静に振り返れば、
やはりモラレスの大試合での経験、
ボクサーとしてのスキルの高さがものをいった試合だった。
パッキャオの大振りや粗い部分を容赦なく突き、
紙一重の攻防を制したのは
偶然ではなく全ては必然だった。
あの激しい試合中に全てを調整し
ペースを作っていくモラレスは
ボクシングの申し子だともいえる。
試合後パッキャオはモラレスの打たれ強さと
アッパーの強さを素直に認めた。
英雄のまさかの敗戦に
フィリピン観衆やメディアは意気消沈していた。
しかし経験、技術、パワーで上回るモラレスを
最終回まで苦しめたパッキャオの実力もまた
改めて評価されることは間違いない。
現時点で日本で誰も敵う選手はいないだろう。
しかしパッキャオが出てきたように
日本でも本場ラスべガスで大観衆を集めて
本物のチャンピオンと戦える選手を輩出してほしい。
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