海馬。
頭は、もっといい感じで使える。

第3回 三〇歳を超えると脳の機能がよくなる?






こんにちは!

近日発売の『海馬/脳は疲れない』という単行本には、

いくつかの、人を驚かせる内容が書かれているんですよ。

この本の完成にたずさわった人たちの中には、

「あぁ、脳ってそうだったの!」

と思うあまり、生活態度をかなり変えたというケースも登場。



そういった「驚くなぁ」という内容のごく一部には、

「脳は、三〇歳を超えた頃から機能がよくなる」

という、池谷裕二さんによる説明も、あるのです。



実験データや科学的根拠など、

ほんとうに詳しい内容は単行本できちんとお届けしますが、

今回は、池谷裕二さんと糸井重里による会話の抜き書きで、

その端緒だけでも、まずはお伝えしたいと思います。



では、ふたりの対談の一部を、どうぞお楽しみください。









池谷 おとなと子どもとでは、

記憶の種類が変わるだけなんですよ。

かつて、ある企業の企画で、

さまざまな年齢の人を対象に、

ある図を憶えてもらう実験をしました。



見て憶える場合と、

描いて憶える場合の二通りの実験です。

そうしたら、一六歳ぐらいまでの若いグループは、

見て憶えようが描いて憶えようが

ほとんど結果に変わりがないのですが、

おとなは、描いて憶えると

飛躍的に成績がよくなりました。



見て憶えるだけだと、

おとなと子どもの間の成績に

ほとんど差はありません。

だけど、おとなが描いて憶えると

成績は百点に近くなるのです。

おとなのほうがよくできた。



この結果は、

おとなになってから手を動かすことが、

いかに重要かを示している
のです。

絵に描くということは、つまり

「一度得た情報を

 そのまま丸暗記せず、自分の手で描く」


という自発的な経験になる。

そうすると、受け手ではなく

送り手の立場
に立つことになり、

ただ単に見た図も、

自分の経験した記憶になります。

 

描きながら自分の知っているかたちに結びつけたり

連想を膨らませたりしているので、

実際に描いてみるとわかるのですが、

案外おとなは手を動かすと、

すぐに何かを憶えられるものなんです。

子どもは脳の機能からいって、

まだ経験を下敷きにして

憶えるということを行いにくい
ので、

絵を描いて憶えたとしても

見て憶えた時と

同じ結果しか残すことができません。



つまり、「経験してわかる」ことに関しては、

おとなになってからのほうが発達しているのです。

厳密に言えば、三〇歳以上の人のほうが

経験した内容を縦横に駆使できますし、

年を重ねるほどに脳のはたらきを

うまく利用できるという現象も起こります。



あとで理由を詳しく述べますが、

少なくとも脳の大切な機能のうちのいくつかは、

三〇歳を超えてからのほうが

活発になることがわかっています。




糸井 年を重ねるほどに脳をうまく利用できる?

三〇歳を超えたほうが脳が活発になる?

って、それは一般常識で言われている

「脳はどんどん細胞が壊れていって

 頭は悪くなっていく」

ということの逆に聞こえますよね。

それはぜひともくわしく伺いたいです。



「手を実際に動かしてみることで、

 自分の経験になる」
のですね。

手を動かすことって重要だなぁ。

実験科学者の方って、よく

「実際に手を動かして実験をすることが、

 いかにアイデアを生むことにつながっているか」

を力説しますよね。




池谷 ええ。

手を動かすことは脳にとってとても大切ですし、

実際に科学者は実験の現場を離れると、

もうアイデアが浮かばなくなっちゃうんです。

つまり、

「手を動かすことが、いかにたくさん

 脳を使うことにつながっているか」

ということなのです。

大脳全体と手の細胞とは非常にリンクしています。



身体のそれぞれの部分を支配している

「神経細胞の量」の割合を調べてみますと、

手や舌に関係した神経細胞が

非常に多いということがわかります。

指をたくさん使えば使うほど、

指先の豊富な神経細胞と脳とが連動して、

脳の神経細胞もたくさん働かせる結果になる。




指や舌を動かしながら何かをやるほうが、

考えが進みやすかったり、

憶えやすくなったり、ということです。

英単語を憶える時でも、目で見るだけよりも

書いたりしゃべったりしたほうが、

よく憶えられるということは、

誰もが経験のあることでしょう。


 
糸井 手や口を動かすと脳も動くんですね。

脳に発火させるための導火線みたい。








(※「脳は三〇歳以上のほうが機能がよくなる」
  とは、いったい何でしょうか?
  次回は5月14日(火)におとどけ。おたのしみに!)

2002-05-09-THU
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