『海馬』が文庫になりました!

海馬
脳を困らせる旅に出る?
   
 
池谷 猿のドーパミンの神経を見ていると、
どんな気持ちかが
手に取るようにわかるというか、それで
さらに研究が進んだ背景があるんですね。

報酬をもらえるかどうかを
確率で決めたのですが……
(百%の時はいつでももらえる。
 〇%の時はいつももらえない)
いちばん快感の神経の動きが
おおきくなるのは
確率が五十%のときだったんです。

もらえるかもらえないか
よくわからないような状態って、
脳はすごく快楽を感じるんです。

おそらく、
先が決まってしまっていることって
脳はあまりうれしくないんです。
それはそうですよね。
「自分は、何月何日に誰と結婚する。
 こんな人間になって、
 こんな職業について、
 最終的には何月何日に死にますよ」
と言われたら、たぶん
生きる気力がなくなりますから。

生きていられるのは、
不確定要素があるからかもしれなくて、
さっき、おじいちゃんおばあちゃんに
「若い人というのは、そんなもんよね」
と決めつけられる話がありましたけど、
それでもやっぱり、
決まっていないと思いこむほうが、
快楽を感じるのかもしれませんからね。
糸井 ということは、
動機づけをするときには、
「できるかできないか、
 五十%ぐらい」というものを
自分で意識的に選択することは、
けっこう大事かもしれませんね。
池谷 そうですね。
どっちつかずの状況というのは、
いちばんがんばるじゃないですか。
糸井 勝つに決まっている試合は
やはり動機が失われるから、
負けやすくなるんですよね。
ディフェンディングチャンピオンの
むずかしさって、そこなんですよね。

勝ちつづけている人というのは、
ある意味、挑む人以上にたいへんで。
防衛戦をかさねている人は、
動機から組みたてなおすわけだから
いろんなところを
刺激しないとだめですよね。
池谷 そうしないと
マンネリ化してしまう。
マンネリ化は
脳のいちばんの敵ですもんね。

しかし
人間の生活って、
マンネリ化していることが
あまりにも多いんですよね。
家族や友人の存在も
ともするとあたりまえになるけど、
ほんとはものすごく
感謝しなければいけない存在で。
マンネリ化との戦いは
そういう面でもつづきますよね。
糸井 うん。
マンネリを邪魔するのが、
遊びだったり
芸術だったりするわけで。

(ご愛読、ありがとうございました。
 ふたりの対談は、つづいていまして、
 今も、たまに会っては話しています。
 みなさんを
 「脳を困らせる旅」に誘い成長させる
 具体的な方法なども語られてる最中で、
 おそらくのちに
 単行本にまとめられると思います。
 ロールプレイングゲームのような、
 読みおえると確実に脳が育つ本を、
 たのしみにしていてくださいませ。
 このページも、またいつか更新します)
2005-08-11-THU
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