糸井 計算とか暗記とか、
そんなの、苦手だしつまらない、
と決めつけすぎていたおかげで、
ぼくはもしかしたら、
「何に困っているか知らず、
 ぜんぶに困っている状態」
に陥っていたのかもしれない、
と最近思うようになりました。

イヤなことから逃げすぎていたというか、
それで、今までやれていたものですから。

だけど、
筋力があればできることがあるように、
基礎体力をナメてはいけないというか。
暗算も、できないよりはできるほうが、
次の問題をサッと探しにいけるはずです。
何でも最初から困ってしまっていては、
「筋力のない、
 しかし遺伝的には速く走れる人」
みたいな状態で夢を語る人になっちゃう。

暗記や計算を
こわがらない力を身につけなければと、
ぼくは五十六歳にして思ったところなんです。
池谷 なるほどなぁ。
糸井さんはおそらく、ちいさいころから
先のことを考える人だったんじゃないですか。
「こんなのを覚えて何になるんだろう?」
確かに、直接には役に立たないような作業が、
勉強の大半を占めますよね。

ただ、一方で、暗記や計算から
逃げることすら思いつかない人がいますよね。
ぼくはおそらく
優等生的な子供だったと思うのですが、
優等生は、言ってみれば馬鹿なんです。

与えられたから、やらなければいけないとか、
最初は、まず、言われたとおりに覚えるとか、
そういうのは明らかに「馬鹿」だと思います。
その「馬鹿」という言葉を、今、
ぼくは、とてもいい意味で使っているんです。

アントニオ猪木さんが、
いつかの格闘技の大会の標語に
「馬鹿になれ、夢を持て」と掲げましたが、
そもそも馬鹿にならないと夢って持てません。
夢を持つことがどれほどいいことかは
わかりませんが、先のことを考えすぎない
馬鹿さかげんというのは、もしかしたら、
ステップアップのアクセルになるのではないか、
とぼくは思うのです。

(つづく)
2005-07-12-TUE
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