糸井 |
見えない暗闇を
埋めてしまうというのは、
人のガンコ化と同じですね。 |
池谷 |
はい。
『海馬』で出てきた盲点そのものです。
一部が盲点で見られない時、
まわりの情報で判断した風景が
実際に目に見えてしまうわけです。
そしてまったく見えなくなれば、今度は
もっと内側から何かを生みだすわけですね。
ガンコ化かもしれませんし、もしかしたら、
一種のクリエイティブなのかもしれません。
しかしおもしろいのは、
空白を埋めるにしても、
やはり経験にないものは埋まらないという。
「既にある」からこそ、出るんですよね。 |
糸井 |
うん。 |
池谷 |
お年寄りのかたというのは、
実は、かなりふつうの人でも、
いろいろなものが見えているらしい、
という話があるんです。
糸井さんとぼくが話しているこの間に、
たとえば、子供が座っているように見える。
でも、
「ほら、ここにいるじゃないの」
と言ってしまうと、
「おばあちゃん、ボケちゃった」
とか思われるだろうから、
けっこう、お年寄りのみなさんは、
見えていても言わないらしいんです。 |
糸井 |
すごいですねぇ、そうですか。 |
池谷 |
見えないものが見えている人は、
われわれが想像している以上に
いるらしい……という話ですね。 |
糸井 |
岡本敏子さんという人は、
岡本太郎が死んだ話をすると、
「死んでないのよ」
といつも即座に返すんですよ。
「太郎さんはぜんぜん死んでないわよ」
「ほら、いるじゃない、そこに」
敏子さんがほんとにうれしそうに言うので、
聞く側もそんな気になったんですけど……。
あれはすごい迫力があったから、
もしかしたら、
もっとリアルに見えていたかもしれないね。 |
池谷 |
そうかもしれないですね。 |