池谷 『海馬』を、おおぜいの人が
たのしんでくださったこと自体が、
もしかしたら、
人間がいかに頑固かを
証明しているのかもしれませんね。

誰に言われたわけでもなく、
年を取ったら覚えられない、ということが
社会的通念として身についてしまっていて、
疑ったことすらないからこそ、
あれだけおもしろがってもらえるのだ、と。
糸井 言葉はきれいすぎるんだけど、
「『好きになる力』をのばして、
 愛情豊かな人間になることが、
 頭脳を活性化することなんだ」
ということが言えたら、
ずいぶん、うれしいですよね。
あとは、「馬鹿になる力」も
さらにつっこんでいけるといいなぁ。
池谷 ほんとですね。
「愛情」「馬鹿」
これは大事だから書いときます。
(メモする)
糸井 相手に興味を持って
いきいきと接することで、
はじめてその場がおもしろくなるし、
相手を理解できるわけですから、ね。
どの場面でもそうなったとしたら、
毎日がたのしくて仕方がないでしょ?

脳の本の中にも、
おもしろいものと
おもしろくないものがありますよね。
どうしても読みすすめられなかったり……。
池谷 実践や実験が伴っていない、
頭の中から出てきた推論だけだと
おもしろくなくなりますよね。
糸井 そうですね。
巷に出ている脳関係の一般書の中では、
あいかわらず、
「頭のよさ」についてのものが多いです。

格闘技で「強いね」と言いあうよりも、
学校で「足速いね」と言いあうよりも、
「頭がいい」という言葉には、何かその人の
行動の可能性が増えるという印象があります。

池谷さんにとって、
研究していて可能性が増えるというか、
やる気が出る瞬間は、どんな時ですか。
池谷 自由にやらせてもらえている時です。
ここの研究室はそういう点で他とちがいます。

ふつうの研究室ですと、
ぼくはいちばん下っ端の助手ですから、
「これをやれ」とタテから言われたことを
ただやるしかないという感じなのです。
だけど、ここは、自分の好きなことをやり、
教授は教授で好きなことをやり、
スタッフそれぞれが好きなことをやっていて、
おたがいがヨコで協力しあいますから、
そこはおもしろいですね。
個性が発揮できると言いますか。
実際、そのやりかたでうまくまわっています。
糸井 そのへん、興味深いですね。

(つづく)
2005-07-19-TUE
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