池谷 |
神経細胞をのぞいている瞬間は、
ぼくにとっては
けっこういい時間なんです。
たとえ
すごくつらいことがあっても、
顕微鏡をのぞくと
シャーレのなかで、何の迷いもなく、
神経細胞はすくすく育っているわけです。
そんなとき、
ぼくは心でふと思うんです。
自分はこんなに悩んでいるのに、
なんでおまえはそんなに元気なんだよと。
だけど、よくよく考えると、
ぼくがこんなにつらい思いをしている
その感情を作りだしているのも、
「すくすく育つ神経細胞」なんですね。
そう思うと、急にラクになるんですよ。
ぼくはこれで何度か救われていますね。
糸井さんは自分の脳を
ごらんになったことがありますか? |
糸井 |
あります。 |
池谷 |
あれも不思議な感覚になりますよね。 |
糸井 |
あまり見ないようにしています。
見ちゃいけないような気がして……。
「ここが、ふくらんでいますね」
とか言われたらコワイですから。 |
池谷 |
ぼく、けっこう
まじまじと見ちゃうんです。
自分の脳の写真も持っているんです。
「この脳というものを通して
自分は考えたり意識を持ったり、
心とかを生みだしているんだな」
と思いながら眺めてるそのときが、
不思議な感覚というか……。
前に『海馬』の感想で
裸でいることよりも、
脳の中身を見られるほうが
はずかしいかもしれません、
という女性の意見があった気がするんですが、
やはり脳の中身というものは、
見てはいけないものというか。
もちろん、脳はシステムだし、
システムが動いてナンボの世界であるかぎり、
脳を物体として見ていてもまちがいですけど、
それにしても、
脳の写真を眺めると不思議な気持ちになります。 |