糸井 池谷さんがおっしゃった
集中力の落とし穴も、わかるんです。
集中力というものを大事にしすぎて、
精密機械の部品だけを作ったけども、
何に役に立てたらいいのかわからない、
みたいなことが起きがちですからね。
池谷 なんとなく、
コンピュータを理想とするような
人間像が出てきてしまっています。

何でも記憶できて、ミスをせずに、
何でも効率よく、速くやるという……
しかしその理想化はやりすぎといいますか、
そもそも人間にない能力を代用させるのが
コンピュータなんだから、
そこに劣等感を抱く必要はないと思います。

人間はいつも揺らぐわけですよね。
人間にとって揺らぎというのは重要ですし、
それこそが、コンピューターでは
絶対置きかえられない部分だから、
大事にしたい、と思うんですよね。

羽生名人の本にも、
「理由はわからないけど、
 この手がいいというのがわかる」
というのが書いてあるんですけど、
そういうところと通じるかなと思うんです。
糸井 単純な話で言うと、自信がある時って、
ものを思いつきやすいですよね。
池谷 はい。
そして自信がない時もあるわけですよね。
ぼくは自信のない時や
アイデアが浮かばない時には学生に言うんです。
「今、ぼくは非常に『ロー』にいるからだめだ」
「ハイ」の時には、いちいち伝えないんですよ。
糸井 ぼくもそれをやります。
「ロー」で先が見えない状態を、
いやがっているわけでもないんですよね。
池谷 そのうちよくなりますから。
糸井 いつも、
「ロー」があってから、
いいことがあったもんなぁとか、
そこは経験則になるんですけど。
池谷 ずっとハイでいるはずもないから、
ずっとローでいるはずもないという……
ローでありつづけることに飽きますから。
ぼくの場合は、楽観視で対応しています。

(つづく)
2005-07-22-FRI
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