海馬。
頭は、もっといい感じで使える。

第23回 ハードワーカーにオススメの理由


こんにちは! 「ほぼ日」の木村です!



昨日水曜日のお昼に、ご近所の六本木にでかけたら、
青山ブックセンターでは、
『海馬』『調理場』ともに店頭レジ横にバシッと展示!



ビジネスコーナーにおいてあった
『海馬』は、残り1冊でして、
「売れているみたいだぞ!」と実感していましたよ。
もうすぐ第3刷が補充される予定。



同じ六本木では、あおい書店の
2階レジ前にも丁寧に置いてありました♪

ひきつづき、感想もいただいており、
とてもうれしいです。ありがとうございます!

今日は、ここ数回とは
違うかたちでお届けいたしますね。
と言いますのも、『海馬』感想を読んでいると、
単行本の中で、睡眠について述べた所が、
いまハードワークで疲れ切っている人に、
とてもいいクスリになる、と実感しているからです。

徹夜の連続や、ギリギリの日々に
ある人にこそ読んでもらいたい部分ではあるけれど、
もしかしたら、その人たちは忙しすぎて、
まだ、海馬の中にこういう箇所があることに、
気づいていないかもしれない・・・。

そう思ったので、
今日は、『海馬』本文から、
ひさしぶりの引用をしたいと思います。
まだ、のあなたに、朗報というか、
「あ、なるほど」のような情報をお渡しします。
つづきは、単行本でお会いできるとうれしいですね。

※なお、ちなみに……。
 海馬のアマゾンでの販売は、こちらで行っております。
 調理場のアマゾンでの販売は、このページで、どうぞ。
 どちらも、アマゾンさんで買うと、送料無料ですよ!
 水曜のアマゾンも『海馬』1位!『調理場』4位でした!







池谷 すべての動物はさまざまな
バイオリズムを持っているんです。

歩調のリズムとか、心臓の鼓動リズム、
呼吸のリズム、まばたきの瞬目リズム……
果ては、飯前にお腹が空くとかも含めた
さまざまなリズムがあります。
いわゆるバイオリズムですね。

秋になると食欲が増すなどといった
長周期のリズムもたくさんありますよ。

オリンピック選手は四年に一度の大会に向けて、
自分のすべてのバイオリズムの
ピークを合わせるコツを
本能的に知っているというと言われています。

その中でもいちばん有名なのは
サーカディアンリズムという、一日の間の
「寝て起きる」みたいなリズムです。
睡眠のリズムがいかに脳にとって重要かは
ずいぶんと言われています。

海馬はもちろん起きている時にも
十分活動しているんですけど、
寝ている間にもすごく活動するのです。
だからもう四六時中働いているんですけども、
眠っている間には何をしているかと言うと、
夢を作り出しています。

糸井 海馬が夢を作り出すんですか?
池谷 厳密に言うと
海馬を含めた脳全体が関与していますが、
海馬は
「今まで見てきた記憶の断片を
 脳の中から引きだして夢を作りあげる」
という役割を担っています。

夢というとどうしても幻想的な
イメージがありますけれど、
実際はそんなことはありません。
ネズミで実験してみるとわかります。

その日にあったことが、
たいていその直後の夢の中で
思い出されているんですね。
海馬の神経に電極を埋めてネズミを眠らせると、
起きていた時に働いていた部位が、
夢の中でも反応している……
つまり、その日にあった出来事を
くりかえしているんです。

朝起きて覚えていられる夢は一%もない、
と言われるぐらいです。
もし覚えていたら
日常と現実の区別がつかなくなって、
生活が送れなくなる危険性があるのです。
しかも夢というのは、記憶の断片を
でたらめに組みあわせていく作業です。
ぜんぶを覚えていたら、
前後の区別のつかない人間になってしまう。

糸井 夢の間に起きている間の記憶を引きだして、
海馬はいったい何をしているんですか?

池谷 情報を整理しています。
睡眠は、きちんと整理整頓できた情報を
しっかりと記憶しようという、
取捨選択の重要なプロセスなのです。
だから「夢を見ない」というか
「眠らない」ということは、
海馬に情報を整理する
猶予を与えないことになります。
つまり、その日に起きた出来事を
整理して記憶できなくなってしまう。

ですから、睡眠時間は最低でも
六時間ぐらいは要ると言われています。
もちろん個人差はあるのですが、
六時間以下の睡眠だと
脳の成績がすごく落ちるということは、
ここ二年ぐらいのあいだに
科学的な証明がなされました。

糸井 睡眠が足りないということは、
海馬に情報整理の仕事をさせる時間を
与えないということかぁ。
徹夜つづきで
頭を使っているつもりになっていても、
それは長い目で見たら、
行き詰まりに向かって
突進しているようなものですね。
気をつけよう。

池谷 毎日のリズムを崩すことが
海馬に非常に悪影響を与えることも
わかってきました。
時差ボケのような状況に陥ると、
ストレスで海馬の神経細胞が
死んでしまうという実験結果が出たんです。

ある航空会社では、
その実験が報告されてから
「客室乗務員のスケジュールを一から見直そう」
という動きに出たそうですよ。
客室乗務員はそれこそ常に生活リズムを
崩すような生活になっているのだけれども、
やはりリズムを守れるようにと。

海馬を殺さず、
なおかつ海馬を眠っている間に
活動させるということは大切だと思います。

糸井 航空会社も、サービスに支障をきたすから
「スケジュールを見直す」
という判断をくだしたのですね。

池谷 ええ。
海馬がだめになっちゃったら、
活躍できませんから。

糸井 眠っている間、
海馬はどうやって記憶を整理するのですか?

池谷 海馬の神経細胞はぜんぶで
一〇〇〇万ぐらいありますが、
それに仮に一、二、三、四……と
番号を振ったとします。

今二番と五番を使っているとしますよね。
そうしたら今夜寝ている間には、
「朝は一番を使ったなぁ。
 夜中には四番を使っていたな、
 夕方には二番と五番を同時に使って
 糸井さんと話をしていたよな」
と思い出しながら、
急に二番と四番をつなげたり、
二番と一番をつなげたり……
あたらしい組みあわせを作り出してみるんです。
それで整合性が取れるかどうかを
検証しているようなのです。

その間に眠っている必要が何故あるかと言うと、
その時に外界をシャットアウトして
脳の中だけで整合性を保とうとするからです。

糸井 それって、すごく大事なことですね。
眠ること自体も大事な仕事として
位置づけるのが、これからの課題ですね。

池谷 ええ。
「どんなに忙しくても、
 睡眠を取らなければいけない」
という事実が、すごいなぁと思いますよ。
人生七五年で平均七時間睡眠だったとしても、
二二年近く眠っていることになります。

やりたいことに追われている人にとっては、
一見すごくムダな時間に見えるけれども、
睡眠がないと人間がぜんぜんだめになってしまう。
強引に睡眠を奪ったとしたら、
海馬は記憶の整理整頓を、
今度は起きている間にはじめるんです
……つまり幻覚が見えることになります。

糸井 幻覚で夢の代用をさせるほど、
夢は大事だということでしょう。
なんか、いろんなことを考え直さなきゃなぁ。

池谷 眠っている間に海馬が情報を整理することを
レミネセンス(追憶)といいます。
これはとてもおもしろい現象で、
たとえばずっと勉強していて
「わからなかったなぁ」と思っていたのに、
ある時急に目からウロコが落ちるように
わかる場合がありませんか?
それはレミネセンスが
作用している場合が多いのです。
ピアノの練習をいくらしても
弾けなかった曲を、
次の日にすらすらできてしまったり。

糸井 あれは脳が夜、情報のつなぎかえを
しているうちに、できるようになったのですか?

池谷 そうです。
糸井 眠っている間に、
ずいぶん高度なことをやっていますね。

池谷 はい。しかもそれは
脳に任せておけばいい作業なんです。
しかも、ぼくたちがしなければいけないことは、
「ただ、眠るだけ」。


だから、このレミネセンスを生かすには、
眠る前にひととおり仕事をやってみるという
工夫があるといいでしょう。
そうすると、眠っている間に
脳が無意識のうちに考えてくれるので、
仕事もよりはかどるというか。

たとえば、仕事の〆切がまだまだ先であっても、
早めに一回目を通しておくということは、
とても重要な姿勢だと思います。

ちなみに、夢を見る刺激を与える物質も、
さきほどやる気を与える物質と言った
アセチルコリンなんです。
ですから風邪薬のような
アセチルコリンを抑えるものを飲むと、
情報が整理できない睡眠になってしまいます。

糸井 自然な睡眠でないと、いわば
質の悪い睡眠ということになるわけだ。

池谷 はい。
……もちろん、
アセチルコリンを抑えるのをこわがりすぎて
風邪がひどくなっちゃったら本末転倒ですから、
薬は飲んだほうがよいのですが、
「明日は勝負だ」という時には
慎重になったほうがいい、ということですね。

糸井 みんなに教えてあげたいなぁ。眠れ、と。





(※それでは、次回のこのコーナーで、お会いしましょう!!)

2002-08-01-THU

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