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September 20142014
十一月のテーマは サフィレット

ガラスが使われたアンティークやヴィンテージのブローチを
この連載で何度か紹介してきたが、
そもそもガラスという素材は
天然のものと人工のものにまず大別される。

天然のガラスには、オブシディアンのように、
火山の地表に吹き出た溶岩のミネラルが
結晶する間もなく急速に冷えたとき形成されたもの、
テクタイトのように、小惑星あるいは彗星が地球の表面に衝突して
局所的に岩石が溶けて形成されたものなどがある。
これらはジュエリーの世界で「宝石」として扱われることがあり
英国宝石学協会の宝石学の教本にもしっかり記載されている。

かたや、人工のガラスは
基本的にはソーダ灰、珪砂(けいしゃ)、石灰石といった原料を
高温で溶かし混ぜ合わせ、それを引きのばして作られるのだが、
古代エジプトあたりが発祥と言われ、
その後、世界にガラスの製造技術が広がり発達したことによって
今やもう、簡単には説明できないほど多種多様となっている。

天然のガラスが使われたジュエリーにはロマンがあり、
私はとても魅かれる。
あくまでデザインは重要なポイントだが、
結果として小惑星がもたらした、
可憐なアンティーク・ブローチ、などと聞くと
わくわく、いてもたってもいられない。

しかし、天然に劣らず、人工のガラスによるジュエリーも
時としてなかなかに物語がある。

ヨーロッパの骨董市などで古いジュエリーを探していると
不思議な輝きを持つ「サフィレット」というガラスの品が、
ごくたまに見つかる。サフィレットは、上の写真のように、
目の覚めるような神秘的なブルーが特徴で
角度によって茶褐色にも見える人工ガラスだ。

サフィレットは、
アイリスガラスの説明のときにも触れた
ヤブロネツというチェコの小さな町で
19世紀の後半から20世紀初頭までの
非常に限られた時代に製造されていた。
そして、オリジナルの製造レシピを知る者は
残念ながら、もういないと言われている。

人工的にガラスに色をつけるには、
透明ガラスの表面に色の膜をコーティングするやり方のほかに、
ガラス原料を溶かすとき、コバルト、鉄、銅などといった
鉱物を加えて化学反応を起こさせる方法がある。
サフィレットは後者のパターンで、
ブルー・サファイア色のガラスにさらに金を加え、
特定の温度で溶解、固形化させることで
この特徴的な色と輝きをを作り出していると信じられている。
また、ピンク〜茶褐色といった暖色が強い品ほど、
金の含有率が高いとのことだ。

なぜサフィレットの生産は途絶えたのか。
イギリスやアメリカのジュエリーの専門書を読むと、
金の価格が高騰したため、ガラス生産において
コスト的に見合わなくなったから、
と解釈しているひとが多いが、第一次世界大戦以降、
チェコが政治経済的に不安定になったことを受けて、
サフィレットを製造していた一族が
意図的にレシピを封印した、
いやいや、単純に継承できる職人がいなかったのだ、
と説く者もおり、真実は謎に包まれている。

金が含まれていると想定されること、
正確に再現するのが今となっては不可能なこと、
ガラスというデリケートな素材であるがゆえに
傷みの少ない状態で見つけるのが困難なこと、
そういった、いくつもの要素が相まって
コンディションの良いサフィレットのジュエリーは、
大変貴重とされている。

数ある古いジュエリーのなかでも、
国を問わず多くのバイヤーがこぞって探している、
好奇心くすぐられるコレクターズ・アイテムである。

 
2014-11-26-WED

 
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