大島のビーチで遊んだふたりは、 その晩ぐっすり熟睡したといいます。 一夜明けて、午前9時。 睡眠時間たっぷりのふたりは、 アンカーコーヒー マザーポート店にやってきました。 |
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「カッパとウサギのコーヒーさがし」の 最終回のときですよ、 ふたりでいっしょにここへ来たのは。 |
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ということは5年前。 | |
ついこの前に感じますね。 | |
おはよーございまーす。 | |
あ、やっちさん! きょうも会えました。 | |
おはようございますー! | |
昨日はどうでした? 大島でコーヒー飲めました? |
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はい! あのね、やっちさん、 すごかったんですよ! ね、福田さん。 |
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はい。ビーチを歩いてたら、 こーんなちいさな、ホヤがいたんです! ね、山下さん。 |
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うん。子どものホヤだから、 これはホヤぼーやだ! と思いました!! |
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‥‥それはよかったですねぇ。 さあ、 朝ごはんの準備ができてますよ。 |
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やったーーー! | |
おそとのテーブルで食べましょう。 | |
わーーーーい! |
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(年齢を足せば百をゆうに超える男ふたりは、 用意していただいたモーニングを、 おぎょうぎよく、のこさずにいただきました) |
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▲たっぷりの朝ごはん。これはオススメ! |
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いやー、おいしかった。 | |
やっちさん、おいしかったです。 | |
よかったです。 | |
食後のコーヒーがまたおいしい。 | |
おいしいなぁ。 ‥‥このおいしさに対して やっぱりお礼がしたいですね、福田さん。 |
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へ? | |
やっちさん、お忙しい時間にすみません、 どなたかお店のスタッフをひとり、 ここへ呼んでいただけないでしょうか。 |
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かまわないですけど何を‥‥ ああー! わかった、わかりました(笑)。 ちょっとお待ちくださいね。 |
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(やっちさんは、お店の奥へ小走りで。 山下が道具を準備していると、 かなり短時間でやっちさんは戻ってきました。 女性のスタッフをひとりつれて) |
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紹介します。 うちのスタッフで、みちこさんです。 |
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みちこさん、はじめまして。 こちらへ、お座りください。 |
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みちこ | ここに。はい(座る)。 ‥‥ええと、なんでしょうか?? |
こちら、福田利之先生です。 | |
みちこ | あー、福田さん! パッケージのすてきな絵を描かれた。 |
ありがとうございます。 | |
みちこ | それで? なんでわたしはここに座ってるんですか? |
やっぱり やめといたほうがいいと思いますよ(笑)。 |
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いやいや、お願いします福田さん。 みちこさん、あのね、 福田さんが似顔絵を描いてくれるんです。 |
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みちこ | 似顔絵? わたしの? |
そう。 ぼくも昨日描いてもらったんだけど、 なんというか、すごいの、インパクトが。 |
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みちこ | インパクト‥‥。 |
福田さん、お願いします。 | |
わかりました。 最初に言っておきます。 みちこさん、ごめんなさい(描く)。 |
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みちこ | ‥‥わたしはどうしていれば‥‥。 |
ふつうにしててください。 | |
みちこ | じっとしてなくても? |
大丈夫です。 ときどきお顔を見せてもらえれば(見る)。 |
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なるほど目はこうか‥‥(描く)。 | |
みちこ | ‥‥‥‥。 ‥‥似顔絵って描いてもらったことないので。 |
大丈夫です(グッと見る)。 | |
‥‥(描く)。 | |
みちこ | ‥‥‥‥。 時間はどのくらいかかるんでしょう。 |
大丈夫です、すぐ済みます(クワッと見る)。 | |
‥‥(描く)。 (見たり描いたりで5分ほど経過) |
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‥‥できました。こんな感じでしょうか。 | |
みちこ | ‥‥うあああああああ!(笑) |
みちこさん、見せて! | |
みちこ | ‥‥(見せる)。 |
おおおおーー! | |
ごめんなさいごめんなさい。 | |
みちこ | いえいえいえ、ありがとうございます(笑)。 |
似顔絵を一所懸命描くと どうしてもこうなってしまうんです。 ほんとにすみません。 |
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みちこ | こちらこそすみません、驚いてしまって(笑)。 パッケージのイラストと すいぶんちがうのでびっくりしました。 |
ちがいますよねぇ‥‥。 みちこさん、どんなご気分ですか? |
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みちこ | はい、ええと‥‥微妙な気持ちです(笑)。 |
(みちこさん、突然すみませんでした。 お礼としての似顔絵描でしたのに、 微妙な気持ちにさせてしまいました。 でも、このあとみちこさんが 他のスタッフさんたちに似顔絵を見せて たのしそうにしている様子を拝見して、 すこしホッとしました) |
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(軽く朝ごはんをいただいて目的地に行くつもりでしたが アンカーコーヒーの居心地がよくて すこし長居をしてしまいました。 やっちさん、お邪魔しました! また来ますね!) |
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(われわれは、この日の目的地に向かいます。 気仙沼の、山の方へ) |
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福田さん、さっきの似顔絵は危険でした。 | |
山下さんが描けって言うからですよ。 | |
反省してます。 急にあれをやるのはリスクが大きい。 |
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ぼくはもう似顔絵を封印します。 | |
いや、そうではなく。 十分に説明をしてから描けば、 よろこばれるイベントになると思うんですよ。 |
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イベントってなんですかイベントって。 | |
‥‥(ひとりごと)告知ページから‥‥ まずは応募フォームで‥‥。 |
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‥‥ぜったい、なにかたくらんでますよね。 | |
‥‥(ぶつぶつ言っている)‥‥。 | |
(サユミちゃんの運転で、車は山へ進みます。 どこへ向かっているのか、 お気づきの方もいらっしゃるかもしれません。 「徳仙丈(とくせんじょう)」という場所です。 5月の徳仙丈といえば、つつじ。 ちょうど満開と聞いたぼくらは、 つつじの花を見ながら コーヒーを飲む計画を立てていたのでした。 やがて、徳仙丈入り口に到着。 車を降りたふたりが、山道をのぼります) |
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なんでまた似顔絵を持ってきたんですか(笑)。 | |
今回の旅のシンボルだという確信を持ったので。 | |
山道を歩くのに、じゃまでしょう。 | |
大丈夫です、のぼりましょう。 | |
(十数分ほど歩いたでしょうか。 ふたりは「第1展望台」という場所まで たどりつきました。 山登りというほどではないですが、 それなりに足腰にきています) |
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ふう。 着きましたね。 |
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着きました。 ここからの眺めが最高なんですよね。 |
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展望台にのぼりましょう。 | |
あとひといき! | |
(展望台に登る) | |
‥‥‥‥わ。 | |
‥‥すばらしい。 | |
予想以上です。 | |
ほんまに。 | |
‥‥‥‥‥‥。 | |
‥‥‥‥‥‥。 | |
(ふたりはしばらく無言で、 すばらしい景色を堪能しました。 心ゆくまで眺めたところで、下山。 下山の道にも、つつじが燃えるように咲いています) |
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すごいですねぇ。 | |
ぜんぶで何本の、つつじがあるんでしょう。 | |
(立ち止まり)福田さん。 | |
(立ち止まり)なんですか? | |
やってみたいことがあります。 | |
なんでしょう。 | |
燃えるつつじの中に入って、 埋もれているような写真が撮りたいです。 |
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(撮りました↓) ▲撮影:サユミ (徳仙丈の第1展望台からすこし下ったところに、 ほんとうの目的地があります。 それは、ツリーハウスです) |
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ツリーハウスだー。 | |
ここも久しぶりですね。 | |
前にふたりでコーヒーを飲んだのは たしか6年前ですよ。 |
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行きましょう!(走る) | |
待ってーー!(似顔絵を持って走る) | |
はあはあはあ‥‥ ああーー、やっぱりいいですねえ。 |
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ここにもつつじが咲いています。 | |
入りましょう。 | |
入りましょう。 | |
(サユミちゃんに鍵をあけてもらい、 ふたりはツリーハウスに入りました) |
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そうだ、いいこと思いついた。 ここでも「展示」をやりましょう。 |
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‥‥また似顔絵を。 もう、ボロボロじゃないですか。 |
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ずっと手に持ってたから‥‥。 まあいいです。展示します。 |
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ふぉふぉふぉふぉ(←笑い声) | |
はっ(振り返る)。 その笑い声のことを忘れてた! |
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ふぉふぉふぉ(←笑い声) ぼくもすっかり忘れてました。 |
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やー、たいせつなことなのに。 | |
でも、「ふぉふぉふぉ」っていうのは、 山下さんが「ふぉふぉふぉ」って 字で書いてるだけやないですか。 そんなの山下さんのさじ加減ですよ。 |
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いいえ、たしかに福田さんは 「ふぉふぉふぉ」と笑ってるんです。 |
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ふぉふぉふぉ(←笑い声) | |
ほら、それそれ! | |
ふぉふぉふぉ(←笑い声) | |
それ! もうひとつ忘れてた。 拍手してもらっていいですか? |
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ぺちゃぺちゃぺちゃぺちゃ(←拍手) | |
それーー! | |
ふぉふぉふぉふぉ(←笑い声) | |
くー、たまらん。カッパの鳴き声! | |
いい加減にしてください。 | |
すみません、そうですね。 はやくコーヒーを淹れましょう。 |
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淹れましょう。 | |
コーヒーはぼくがやるので、 福田さんは絵を描いてください。 「展示」を増やしたいので。 |
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わかりました。 じゃあ、似顔絵じゃないのを描きます。 |
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(山下は老眼なので めがねをはずしてコーヒーを淹れました。 福田さんは似顔絵ではない絵を描きました) |
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いただきます。 | |
いただきます。 | |
んーー、おいしい。 | |
格別です。 | |
作品を見ながら飲むっていうのがまた‥‥。 | |
うーーむ。 | |
こういうギャラリーがありますよね。 絵の展示があって おいしいコーヒーも飲めるような。 |
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ありますね。 | |
「ツリーハウスギャラリー」、お茶も飲めます。 | |
でも、飾ってある絵がこれではねぇ。 | |
すてきじゃないですか。 まずはこちら、『苦悩する山下』でございます。 |
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苦悩。 たしかに。ボロボロです。 |
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非売です。 | |
誰も買いません。 | |
そしてこちら、「サユミの微笑み」。 | |
微笑み(笑)。 ほんっとに申し訳ない。 |
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非売です。 | |
当然です。 | |
そして、なんですか福田さん、 このギャラリーのために 新作を描いてくださったそうで? |
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描きました。貼ります。 | |
ああー、ツリーハウスだ。 サユミちゃんもいる。 |
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これもちょっと似顔絵入ってますけど。 | |
まわりの赤いのはつつじですね。 | |
そうです。 | |
非売? | |
非売です。 | |
(木の上の小屋のなかに、コーヒーの香りが満ちています。 四角い窓はそとの景色を切り抜いて、 そこにも1枚、つつじの絵が飾られているようで) |
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(最終話につづきます) |