担当編集者は知っている。 | |
世の中に「本」と名の付くものは多いが、 ある意味では、どの本だっておもしろい。 『つまらない本はない。 つまらなく読む読者がいるだけだ』 という意見だってあるくらいだ。 本を世に出すには、著者だけではどうにもならない。 どんな本にも担当編集者というパートナーがいる。 もしかしたら、その本のことを著者の次かそれ以上に 知っているのは、担当編集者かもしれない。 「ほぼ日」は、この担当編集者という人々に注目した。 この人たちの担当した「本」や「著者」への愛情を、 できるだけそのまま伝えてもらったら、 本は、もっともっと輝いて見えてくるのではないか。 ベストセラーも、古典も、学術書も、専門書も、 たった数百部しか流通していない本だって、 それの良さが愛情をもって語られたら、 もっと大勢の人たちのところに届けられるだろうし、 もっと深いところまで読みこんでもらえるにちがいない。 ここでは、いろんな本を、 いちばん熱心に読んでほしいと願っている担当編集者に、 ススメてもらいます。 担当は「空中ジーンズ工場」の担当でもあったツルミさん。 出版の世界を、企業間対立を考えずに飛び回ってもらいます。 どうか、各出版社の方々、よろしくご協力おねがいします。
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ここ最近にオススメした5冊です
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この夏、北京オリンピックに熱くなった方も多いはず。 アスリートって特別な人に見えますよね? 確かに、類稀なる才能に恵まれた、 選ばれた人ではあります。 でも、当たり前ですが、才能だけじゃない! トップアスリートが どれほどの極限状況で日々過ごしているのか。 この本を読んだ後には、 気軽に「○○選手、ロンドン目指せばいいのにねー」 なんて言えなくなります。 (ツルミ) ********************************************* 担当編集者 / 扶桑社 秋葉俊二 小生、無類のスポーツ好きにつき、 以前から小松成美さんは気になる存在でした。 著書『中田英寿 鼓動』や 『イチロー・インタビュー』などに 感銘を受けていただけに、 「いつかこの人と仕事がしたい」と切望していた、 いわば片思いの人だったわけです。 なので、たまに乗るJALで目にした 機内誌『SKYWARD』で連載していた 小松さんの「アスリートインタビュー」にも、 「俺もこういう連載の担当をしたいなあ」と 歯痒い思いをしておりました。 そんな折、運よく知人の編集者の紹介で 小松さんとお会いできることに。 そこで、件の「アスリートインタビュー」の話になり、 取材秘話やそれぞれのアスリートの魅力を 熱っぽく語る小松さんにますます興味を抱いた私。 すると小松さん、 「この連載を本にしたいと思っている」と。 で、「出版社はまだ決めていない」ときた。 「僥倖」とか「千載一遇」とか「晴天の霹靂」とか、 そんな言葉が脳裏で踊ったと思います。 勢い、「じゃあ、ウチでどうですか?」と立候補。 それからしばらくして、小松さんから“合格通知”が――。 実は私は、『週刊SPA!』の編集者で、まずは インタビュー仕事でもお願いできればと考えていたのに、 いきなり単行本の編集を担当できることになり、 えらく興奮したのを覚えています。 本書は、JAL機内誌『SKYWARD』の 2008年8月号まで3年以上にわたって連載された 「アスリートインタビュー」をまとめたものです。 登場するのは、プロ・アマ問わず、 いずれもこの時代のスポーツ史に名を残す総勢35人。 その錚々たるラインナップは以下のとおりです。 松坂大輔(野球)、吉田沙保里(レスリング)、 為末大(400mハードル)、中嶋一貴(レーサー)、 清水宏保(スピードスケート)、菅山かおる(バレーボール)、 朝青龍(相撲)、柳沢敦(サッカー)、野口みずき(マラソン)、 井口資仁(野球)、冨田洋之(体操)、 別府史之(自転車ロードレース)、北島康介(水泳)、 田臥勇太(バスケットボール)、 村主章枝(フィギュアスケート)、井上康生(柔道)、 本橋麻里(カーリング)、室伏広治(ハンマー投げ)、 五郎丸歩(ラグビー)、小笠原道大(野球)、 石川佳純(卓球)、末續慎吾(陸上短距離)、 鈴木絵美子(シンクロナイズドスイミング)、 柴田亜衣(水泳)、山本隆弘(バレーボール)、 田山寛豪(トライアスロン)、上野由岐子(ソフトボール)、 梅崎司(サッカー)、土佐礼子(マラソン)、 伊調千春・伊調馨(レスリング)、田中将大(野球)、 福士加代子(陸上)、宮本慎也(野球)、鈴木徹(走り高跳び) 肉体の表現者であるアスリートは、 だから極限まで肉体を酷使し、 常人には計り知れぬハードワークを課し、 そのパフォーマンスで観衆を魅了します。 しかし、その尋常ならざる鍛錬の過程で培われた 言葉の表現にも、心を打たれました。 「アテネでは走っていて死を意識した。 それでもマラソンはやめられない。 命を懸けることも厭わない」(野口みずき/マラソン) 「長野で金メダルを獲れたのは嬉しかった。 でも、笑っていられたのは、あの1日だけだった」 (清水宏保/スピードスケート) 「どんな成績を手に入れようと『課題』が残る。 それをクリアしたいから体操を続けている」 (冨田洋之/体操) 「大好きな水泳が 自分を痛める競技であることを認めたうえで、 付き合っていきたい」(北島康介/水泳) 合理的であることが最優先される現代において、 自分の弱さと向き合い、理不尽なまでに “究極の自分”を追求する彼らの言葉は鮮烈すぎます。 これを読むと、彼らが残した記録や栄冠よりも そこに至る過程、すなわち彼らの“生き方”のほうが 素晴らしいのだと感じるはずです。 そしてつまるところ、 よくぞこれらの言葉をアスリートから引き出したものだと、 小松さんのノンフィクション作家としての力に 感服しました。 小松さんは取材を通して、 “強者”の象徴であるトップアスリートが、 実は普通の若者と同じように孤独に苛まれ、 人知れず涙していることを知り、 「彼らは、弱い――。 彼らの弱き姿、儚き心にこそ真実がある」と記しました。 思うに、小松さんは「自分が何を主張したいか」よりも 「この魅力的な人物をいかに世に伝えるべきか?」 にプライオリティがある。 取材前には膨大な資料を読み込み、 そのアスリートや競技について学習し、 取材に臨むと聞きました。 当たり前といえばそれまでですが、 その真摯な姿勢や熱の深さがアスリートにも伝わり、 だからこそ彼らは胸襟を開き、 自分の弱さすらさらけ出したのでしょう。 制作を開始すると、 「私もこの言葉を多くの人に聞かせねばならん」と、 自分にプレッシャーをかけて奔走し (朝青龍の記事の再録許可を得るために 徹夜明けで高砂部屋に伺い、朝稽古を見ながら ご担当者を1時間半以上待っていたのは 正直ツラかった)、 ギリギリまで推敲を重ね (夏の暑い日に、浦和にある印刷所の工場まで 小松さんと出張校正に行ったのはいい思い出)、 北京五輪直前に発刊しました。 編集作業が進むにつれ、これは老若男女問わず 幅広い層に響くはずだと、確信めいたものはありました。 で、その頃から、「高校生ぐらいの若者に読んでほしい。 学校の教科書にならないかなあ」と仰っていた小松さん。 確かに、トップアスリートの生き方は、 情操教育の素材としてはうってつけ。 ただ、「教科書」はハードルが高いなあ というのが率直な感想でした。 ところが、北京五輪が終わった9月。 愛知県立犬山高校の大野芳樹教頭から、 「『トップアスリート』を授業の教材として使用したい」 という連絡が! 聞けば、 大野教頭は全日本女子レスリングのヘッドコーチである 栄和人氏と大学時代の同期で、 北京五輪では現地に駆け付け、栄氏が監督を務める 中京女子大学の教え子の吉田沙保里選手、 伊調千春・馨選手に声援を送っていたとか。 その3人は『トップアスリート』にも登場しており、 大野教頭が本書の内容にいたく感動。 そして、県の教育委員会にも掛け合って 授業の教材として採用することが決定。 保健体育(2年生)、国語表現 ll(3年生)、 総合学習の読書会などで使用されたのです。 これには、さすがにたまげました。 一般の書籍が授業の教材になるのは異例なことでしょう。 しかも、この“ニュース”は拡大し、 実は来年1月に東京都内の私立高校でも、 教材として採用されることが(ほぼ)決まりました。 ちょっとしたミラクルが起きたわけです。 で、今後もさらなるミラクルに (かなり)期待しておるところです。 ▲ 3刷りでは帯も変更して“教科書仕様”に。 ▲ 報知新聞、中日新聞でも紹介されました。 本の背帯は 「情熱が限界の壁を突き破っていく」にしました。 これは、自転車ロードレースで 本場ヨーロッパを中心に活躍する 別府史之選手の言葉なんですが、 トップアスリートを象徴する言葉ですし、 読者へのメッセージにもなりえると感じたからです。 同時に、この言葉は、 まさに小松さんのことも端的に表しています。 これだけのアスリートのラインナップが実現したのも、 教材として採用されるミラクルが起きたのも、 “小松さんの情熱”のなせる業といえば、納得できます。 思えば、私も小松さんの情熱に 突き動かされていたようなものですから。 この本を担当できてよかった。 来年で3歳になる息子にも自慢できそうです。 あ、決して『SPA!』が自慢できない ってわけではございませんが‥‥。 *********************************************
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2008-11-21-FRI
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