日野原 |
ぼくはいま、
75歳以上の人にとても注目しているんです。
いまは平均寿命が80歳を超えているわけですから、
60歳が「老人」なんて、とんでもないことでしょう? |
糸井 |
ええ。 |
日野原 |
だから、わたしは今の75歳以上を
「新老人」という名前にしたいと思っているんです。
そういうボランティアの運動をしていまして。
例えば、75歳以上の
戦争体験を持つ人たちが、孫に、
「この戦争というのはこういうことだよ」
と伝えることは、とても大切だと思います。
害のない人でも原爆では死ぬし、
日本人もどんどん人を殺していった日々です。
アメリカは
ベトナムでいろいろなことをやったし、
戦争になると、どこでもみんな、
もう気が狂ったような状態になるんだから、
どうしても戦争は中止しなきゃならない・・・。
これは、直に戦争を体験した人や、
広島の原爆を受けた家族が、自分の物語として
孫の世代に伝えていくべきだ、と
ぼくは考えています。 |
糸井 |
皮肉なもので、戦争の悲しさや
恐ろしさを知っている人というのは、
経験をさせられたということで
教育されるわけですね。 |
日野原 |
そうですよ。 |
糸井 |
嫌なことは、
これからだって味わないような
世の中になった方がいいんですけど、
それを教えるというのは、
やっぱり口伝えがいちばんなのですか? |
日野原 |
そう。
経験した人が直に話すと、本を読んだのと違うの。 |
糸井 |
直に話す……あぁ。 |
日野原 |
しっかり自分の声で。 |
糸井 |
ええ。 |
日野原 |
本を書いても、いいですね。
今新老人の会は、本を出版しているんですよ。
『遺言』という。それを子どもに読んで聞かせる。 |
糸井 |
あ、読んで、耳から聞かせる? |
日野原 |
はい。
実感を、耳から聞かせるんです。
そういうようなことをして、
失われた家庭とか家族といったものを
日本は取り戻さないと、
どうなっていくかわからないですから。
子供の犯罪ということも、
やっぱり、家庭が問題である、
ということだってあるんでね……。 |
糸井 |
ええ。 |
日野原 |
例えば、なんですけど。
今の世の中では、「殺すな」とか、
「人に迷惑をかけるな」という教育は、
お医者さんが患者に向けた言葉にも現れる。
ただ単に、「禁止」している言葉って、
おもしろくないですよね。
「肝臓悪いよ、酒なんか飲んだらとんでもない」
「心臓が悪いんだから、急に動いたら死にますよ」
「こんなもの食べたら、胃潰瘍になって出血します。
やわらかいおかゆじゃないと、ダメだよ」
すべて、「ドント・ドゥ」の話でしょう?
でもほんとは、よーく噛んだら、
クチの中でベタベタになるわけでして、
それも同じじゃないかと思うんです。
だから、「おかゆじゃなきゃダメ」じゃなくて、
「ベタベタにすれば食べられる」
ということを伝えるべきだと思うんです。 |
糸井 |
なるほどね。 |
日野原 |
「熱を出したら、お風呂に入るな」
ということにしたって、そうですよ。 |
糸井 |
え? そうなんですか? |
日野原 |
このあいだ、珍しく風邪で熱が38℃出たんです。
朝、出るときに寒いからおかしいなと思って、
そしたら熱が上がってました。
でも、500人の会合を中止することはできない。
頑張って、そして夕方帰ったんだけど、
お風呂に入りたくなってしまって。
でも、お医者さんみんなが、
「風邪をひいた時にはお風呂に入るな」
そう言うの。わたしもそう言ってきた。
でも、何でそう言うかということを考えると、
「昔からお医者さんが言ってきたから」
というだけなんです。
だったらもう、ぼくは、
風呂に入ったらいいじゃないかと思った。
自分が実験台になればいいと。 |
糸井 |
はい(笑)。 |
日野原 |
それでおふろに入ったら、
さわやかなんだよ、もう。
これからも入ろうと思った。 |
糸井 |
(笑)もともとは、なんでなんでしょうか? |
日野原 |
いや、やっぱり「ドント」なんですよ。
学校でもね、これは汚してはよくないとか、
この塀から越えてはいかないとか、あるいは
スカートがこれより短いとよくないとか、
みんな「ドント」ばかりでしょう?学校の規則は。
それを私はね、
レッツドゥーに変えようと思ったの。 |
糸井 |
いいなぁ。 |