CHILD
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日野原重明さんに聞く
「これでも教育の話」より。

第5回 レッツの教育


こちらは日野原先生の近著です。

生きかた上手

日野原 重明 (著)
価格:¥1,200
ユーリーグ ;
ISBN: 4946491260 ;

糸井 「ドント」じゃなくて
「レッツ」の教育というのは、いいですね。
日野原 ええ。
ですから、「人を傷つけるな」ではなく
「人の命を助けましょう」だとか、そういう風にね。
糸井 ちょうど駅のホームで
「白線よりお下がりください」
と言うのがよくない、という話と同じですね。
日野原 そうですよね。
糸井 みんな守っているのに。
日野原 あれを言う国はないですよ、日本だけだ。
ぼくは、恥ずかしいと思っている。
糸井 あれって変ですよね? 子供じゃないんだからね。
日野原 ドイツに行っても英国に行っても、
警報は鳴らないの、列車は。
時間が来たら動くだけなの。

なのにこちらは、
新幹線に乗っているにもかかわらず、
「駆け込みはやめてください」というでしょう?
糸井 そうそうそう。(笑)
日野原 乗ってる人にねぇ。
糸井 要するに、
人はバカだという前提で何かいってますね。
日野原 あれをしなければ、駅は静かですよ。
糸井 ほんとです。
日野原 ひどいのね。
それで「ドント」の教育から、
「レッツ」に切りかえることを、
私は子供にこれから運動するの。
糸井 いいですねえ。
日野原 そのために、病院というのは、
看護婦さんやら、事務や、検査室やら、
いろんな職種の人がいるでしょう?

この4月に、120人ぐらい採用したときに
1週間オリエンテーションをしました。、
技術的なことや、人との接し方や、それから
患者さんをちゃんと「様」というふうに呼ぶとか、
いろいろあるわけでしょう?

ただ、何もしていない時に、
言葉だけでザーッと1時間ぐらい
みんなからマニュアルを詰め込まれても、
それは入ってこないの。
ところが現場に入ると、自然に覚えるわけでしょう?
それを生かそうとしています。
糸井 言われるだけだと、わからないですよね。
日野原 そうそう。
ぼく自身としては、
言ったことの10分の1ぐらい理解されれば
いいと思っているんです。

だから、あとは伝え方になりますよね。
たとえば、わたしは、聖路加病院の職員には、
「あなたたちは人を助ける施設に
 働いているのだから、
 家を一歩出たら、人を助けるんだ。
 それが聖路加病院に行かない途中であっても、
 そこに倒れた人がいたら、助ける責任があるんだよ。
 だから、一般的に言えば事務と呼ばれる職員にも、
 蘇生術を教えましょう」
と言ってあります。
しかも、それを講義する人は、
ボランティアの婦人で、音大を出た人。
ボランティアで蘇生術や何かを勉強したり、
生理学を勉強したり、血圧をはかるのを勉強した人。

聖路加病院の看護大学の学生の2学期にも、
血圧を聴診器ではかることを、
そのボランティアの婦人のグループが
教室に行って教えるんです。

それは、やっているから教えられる。
慣れているから、教授よりも上手なんだよ。
糸井 数をこなしているわけですね。
日野原 だから、人の専門が英文学でも
音楽でも、どこでもいいんですよ、熱心ならば。
その学校でなくともね。
そういうボランティアが教えると、
看護学生は姉さんやお母さんのような人が、
こんな科学的なことを教えるといってびっくりして、
「私も、しっかりしないと!」
というモチベーションになるの。
糸井 最初にモチベーションとか理由ありきなんですね。
日野原 偉い教授が教えるからダメなんです。
1年上、2年上、3年上の研修医が教えるといい。
「ぼくも2年になったらこんなになれるのか?」
「ここで訓練を受けたら、
 3年目の選手というのは、こんなにもぼくと違う」
と、興奮するわね。
教授が教えても、できて当たり前ですから。

言い方は、大切ですよ。
「君ね、これ大切なことがあるからね、
 来週の土曜かならず来いよ、緊急だから」
もともと予定が入っているかもしれないのに
そんな言い方をしたら、大変な反発を受けますよ。
ところが、
「急で悪いけど、どうしても必要なんだけれどもね、
 でも、諸君がどうしても
 何か決めておればできないけど、
 何とか出てくれないか。
 この日とこの日とがあるけれども、
 君はどっちの方が都合がいい?
 僕もなるべく合わせるから」
上司からそう言われれば、ちゃんとやる。
上から命令で「やれよ」と言ったってきかないのに。
「君、どっちが都合がいい?」
「あ、それじゃぼくはそれに合わせる」という。

そういうようなことでも、
発想が違うと人間関係がよくなる。
糸井 先生のおっしゃっていることには、
命令形というのがほとんどないですよね。
日野原 そうそうそう。
糸井 一緒にその場をつくっていこう
という発想ですよね。
日野原 一緒に考えましょうということなんですね。
だから、レッツドゥーなんです。
ぼくはもともと、何もしないで安静にする、
ということって、よくないことのほうが
多いんじゃないかと思っていますし。
糸井 不活発ですよね。
日野原 だって、動物は寝ないよ?
ところが、マットレスやいろんな床やなんかが
できたから、人間は眠るわけでしてね。

動物はいつも備えなくちゃならないから、
寝ていたら食われちまうよ。そうでしょう?

やっぱり人間も、もともとは
動物のような形態だったと思うんです。
しかしそれが非常に便利になり、
文明ができたから過保護になってしまって
こういうふうな習慣ができた。

1日に3回食べることは
どうしていいかということも、習慣でしょう?
糸井 そうですね、歴史的には浅いんですよね。

(つづく)

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2002-10-02-WED


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