糸井 |
「ドント」じゃなくて
「レッツ」の教育というのは、いいですね。 |
日野原 |
ええ。
ですから、「人を傷つけるな」ではなく
「人の命を助けましょう」だとか、そういう風にね。 |
糸井 |
ちょうど駅のホームで
「白線よりお下がりください」
と言うのがよくない、という話と同じですね。 |
日野原 |
そうですよね。 |
糸井 |
みんな守っているのに。 |
日野原 |
あれを言う国はないですよ、日本だけだ。
ぼくは、恥ずかしいと思っている。 |
糸井 |
あれって変ですよね? 子供じゃないんだからね。 |
日野原 |
ドイツに行っても英国に行っても、
警報は鳴らないの、列車は。
時間が来たら動くだけなの。
なのにこちらは、
新幹線に乗っているにもかかわらず、
「駆け込みはやめてください」というでしょう? |
糸井 |
そうそうそう。(笑) |
日野原 |
乗ってる人にねぇ。 |
糸井 |
要するに、
人はバカだという前提で何かいってますね。 |
日野原 |
あれをしなければ、駅は静かですよ。 |
糸井 |
ほんとです。 |
日野原 |
ひどいのね。
それで「ドント」の教育から、
「レッツ」に切りかえることを、
私は子供にこれから運動するの。 |
糸井 |
いいですねえ。 |
日野原 |
そのために、病院というのは、
看護婦さんやら、事務や、検査室やら、
いろんな職種の人がいるでしょう?
この4月に、120人ぐらい採用したときに
1週間オリエンテーションをしました。、
技術的なことや、人との接し方や、それから
患者さんをちゃんと「様」というふうに呼ぶとか、
いろいろあるわけでしょう?
ただ、何もしていない時に、
言葉だけでザーッと1時間ぐらい
みんなからマニュアルを詰め込まれても、
それは入ってこないの。
ところが現場に入ると、自然に覚えるわけでしょう?
それを生かそうとしています。 |
糸井 |
言われるだけだと、わからないですよね。 |
日野原 |
そうそう。
ぼく自身としては、
言ったことの10分の1ぐらい理解されれば
いいと思っているんです。
だから、あとは伝え方になりますよね。
たとえば、わたしは、聖路加病院の職員には、
「あなたたちは人を助ける施設に
働いているのだから、
家を一歩出たら、人を助けるんだ。
それが聖路加病院に行かない途中であっても、
そこに倒れた人がいたら、助ける責任があるんだよ。
だから、一般的に言えば事務と呼ばれる職員にも、
蘇生術を教えましょう」
と言ってあります。
しかも、それを講義する人は、
ボランティアの婦人で、音大を出た人。
ボランティアで蘇生術や何かを勉強したり、
生理学を勉強したり、血圧をはかるのを勉強した人。
聖路加病院の看護大学の学生の2学期にも、
血圧を聴診器ではかることを、
そのボランティアの婦人のグループが
教室に行って教えるんです。
それは、やっているから教えられる。
慣れているから、教授よりも上手なんだよ。 |
糸井 |
数をこなしているわけですね。 |
日野原 |
だから、人の専門が英文学でも
音楽でも、どこでもいいんですよ、熱心ならば。
その学校でなくともね。
そういうボランティアが教えると、
看護学生は姉さんやお母さんのような人が、
こんな科学的なことを教えるといってびっくりして、
「私も、しっかりしないと!」
というモチベーションになるの。 |
糸井 |
最初にモチベーションとか理由ありきなんですね。 |
日野原 |
偉い教授が教えるからダメなんです。
1年上、2年上、3年上の研修医が教えるといい。
「ぼくも2年になったらこんなになれるのか?」
「ここで訓練を受けたら、
3年目の選手というのは、こんなにもぼくと違う」
と、興奮するわね。
教授が教えても、できて当たり前ですから。
言い方は、大切ですよ。
「君ね、これ大切なことがあるからね、
来週の土曜かならず来いよ、緊急だから」
もともと予定が入っているかもしれないのに
そんな言い方をしたら、大変な反発を受けますよ。
ところが、
「急で悪いけど、どうしても必要なんだけれどもね、
でも、諸君がどうしても
何か決めておればできないけど、
何とか出てくれないか。
この日とこの日とがあるけれども、
君はどっちの方が都合がいい?
僕もなるべく合わせるから」
上司からそう言われれば、ちゃんとやる。
上から命令で「やれよ」と言ったってきかないのに。
「君、どっちが都合がいい?」
「あ、それじゃぼくはそれに合わせる」という。
そういうようなことでも、
発想が違うと人間関係がよくなる。 |
糸井 |
先生のおっしゃっていることには、
命令形というのがほとんどないですよね。 |
日野原 |
そうそうそう。 |
糸井 |
一緒にその場をつくっていこう
という発想ですよね。 |
日野原 |
一緒に考えましょうということなんですね。
だから、レッツドゥーなんです。
ぼくはもともと、何もしないで安静にする、
ということって、よくないことのほうが
多いんじゃないかと思っていますし。 |
糸井 |
不活発ですよね。 |
日野原 |
だって、動物は寝ないよ?
ところが、マットレスやいろんな床やなんかが
できたから、人間は眠るわけでしてね。
動物はいつも備えなくちゃならないから、
寝ていたら食われちまうよ。そうでしょう?
やっぱり人間も、もともとは
動物のような形態だったと思うんです。
しかしそれが非常に便利になり、
文明ができたから過保護になってしまって
こういうふうな習慣ができた。
1日に3回食べることは
どうしていいかということも、習慣でしょう? |
糸井 |
そうですね、歴史的には浅いんですよね。 |