質問:
おもしろい言葉って、どういうものですか?
こないだのオリンピックの前に、
室伏広治がハンマー投げのことをしゃべる
ドキュメンタリーを見たんだけど、
やっぱりヘンなことをいうんですよね。
ハンマーを回転して投げるなんていうことは
誰も経験していないから、
彼がその競技でなにが必要なのかを
伝えようとする言葉が
もう独特のものになっちゃうんだけど……
おもしろさって、「それ」なんですよね。
そこまでいってしまうと、
うまいへたと別の次元の
ヘンな言葉にならざるをえないと思うんです。
ぼくは昔カルチャーセンターで
ヨガの講師に会ったことがあって、
その人はかなりエキセントリックな人で、
講座の説明文が
「体の芯がどうのこうの」という
すごくヘンな文章だったんだけど……
それがへんちくりんではあるけど
この人にはなにかがあるし、
きっとこうとしかいえないんだろうなぁ
というのが、
すごくへんちくりんな感じで
伝わってくるんですよね。
きっと、おもしろい言葉って
そういうものなんです。
室伏のハンマー投げの
説明の次元にまでくると、
全員言葉がへたになるものなんですよ。
うまくなんか書けないところまで
言葉を積み重ねるのが
小説家なんだと思うんですね。
アウグスティヌスも、
その次元を書いているから
ヘンなことしかいわないんだよね。
昔の人は、
テレビもインターネットも
プロ野球もサッカーもないから、
けっこう時間が使えるんだなぁ、
とは思います。
ぼくは自分がそれで
時間が食われていると思うし、
娯楽の誘惑に勝てるほど意志も強くないし……
だからイヤになっちゃうところがありますけど、
まぁ世間でいえばぼくなんか
ほんとに効率の悪い人間だと思います。
父親が銀行員という女の子が
ぼくの小説を大好きで、
だけどお父さんに読ませたら
「どこがいいのかさっぱりわからない」
といったという……
やっぱり銀行とかで
一生懸命にはたらいている人が
こんな世界に入ったらこまるんだよね。
前に「ほぼ日」でもいったけど、
銀行で若くて謙虚な
男の子の窓口の人にきかれたんです。
「自営業……
この職業をもうちょっと
詳しく書いてくれますか?
小説家?
あのう、小説家って
どういう仕事なんですか?」
「みんなはたらいている間は
その日の仕事や一か月先や
一年先の仕事があって、
人生というものを
見ないようにしているけど、
定年になるといきなり
とらえどころのない人生が
目の前に開けるでしょう?
そういうのを若いうちからやってる仕事」
と、ぼくは言ったんです。
そういうことだから、
やっぱり小説家になったら
いそがしくしてちゃいけないんだと思う。
明日に続きます。
2005-07-04
Photo : Yasuo Yamaguchi All rights reserved by Hobo Nikkan Itoi Shinbun 2005