質問:
小説の
「自由さ」や「独創性」について
どう考えていますか。
「独自の考え」なんて、
あんまりないものですよね。
「あなたの考えを言いなさい」
と言われた高校生がついつい
「未来のある人なのに」
と自分の考えでもなんでもないことを
答えてしまうわけですけど
「考え」なんか言いだしたら、
そもそも独自のものでは
なくなるというふうに
考えたほうがいいのではないでしょうか。
ぼく自身にも
オリジナリティなんてものは
ほんとにないし、
一般企業にいてよくわかったんだけど、
オリジナリティに
苦痛を感じている人の方が多いんですね。
会社というものや近代人というものは
「雑巾がけひとつも
 昨日と同じやり方ではなくて
 毎日少しでもよくなる方法を考えなさい」
と言いたがるんだけど、
「独自性なんて出せと言われても困る。
 型どおりのことをしてほめられたい」
という人の方が多いんです。
だいたいそこからしても、
一般的な人間理解は不十分といいますか、
オリジナリティがいいと思うような
育ち方をしている人は
ひとにぎりの少数派なんですよね。
それなのに公立の小学校でまで
個性とか言いだすから
なおさらおかしくなるんだけど……。
 

オリジナリティなんて、
そんなにはないものですよね。
ぼく自身にしても、
ヴァージニア・ウルフや
トルストイというような
偉大な小説家にかなうとは思っていないもんね。
それはえらい違いがありますよ。

そんな大リーグで
五百本以上ホームランを打った人とか、
ブラジル代表の不動のレギュラーみたいな人と
自分を比べようなんておかしいと思う。

 

「能力」ってすごく誤解されていて、
見た目だったら美人か不美人かの生まれを
受けいれるのに、頭脳の話になると
努力で何とかなると思われがちだけど……
ほんとは「能力」ってはっきりしているわけで、
ウルフやトルストイはそういう小説家なんです。

まずはそういう
ほんとにおもしろい小説があったから
小説というジャンルがあるわけで、
そういう人たちのすばらしい小説は
古くから読みきれないほど沢山あって
それを読みたいと思うから、
ぼくは小説家なんです。

書くことより読むことを愛するから
自分が小説家でいられると思うんです。
つまらない小説なんて
読んでいる場合じゃないなぁとは思います。

 

保坂さんの談話は、今日で終わりです。
ご愛読いただいて、ありがとうございました。
感想などを、ぜひ、お送りくださると幸いです。

 
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2005-07-29 

Photo : Yasuo Yamaguchi All rights reserved by Hobo Nikkan Itoi Shinbun 2005