質問:
保坂さんは、
「はやくから何かにならないほうがいい」
と考えているんですね。
小説家になった後は、
ほとんど「しゃべる側」に立つんですよね。
小説家になっても
聞く側になるというのは特殊な時で、
それは他の専門の人の話を半分聞いて
こちらも半分話すということになるわけで、
よほどこちらがそのために
出かけないかぎりは
「聞く側」でいるのは無理なんです。
……で、「しゃべる側」に立つと、
そんなに得ることないよ。
聞く側の方が
絶対に得ることは多いと思う。
これは「読む側」と「書く側」にも
同じことが言えると思います。
「書く側」だけにいるのは
小説が好きだから
書きたいと思ったはずの気持ちを
おろそかにしているというか
「あなたはどうして小説家になったのか」
という根っこがなくなっちゃうと思うんです。
ぼくはそんなふうに
小説家になる前はどうだったかとか、
名前が知れる前に書いていた時は
どうだったかとか、
そういうことにこだわっていてさ……
あのころの自分に
軽蔑されるようなやつになっていると
ヤバイよなぁと思うんですね。
小説家もすこし名前が知れると
社会との関わりが増えちゃうんです。
そうすると
「劇団員がアングラだったころの時代に
 あったような部分がなくなって、
 つまらない小説ばかり
 書く人になるんじゃないか」
というおそれがいつもあるんですよね。

有名になったおかげで
イヤなやつになった人っているじゃない?
ぼくはそういう人がかなり嫌いだから
そこは気をつけたいんです(笑)。
 

明日に続きます。

 
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2005-07-27

Photo : Yasuo Yamaguchi All rights reserved by Hobo Nikkan Itoi Shinbun 2005