質問:
保坂さんは、
小説を書きはじめた頃から、
言葉について、
今のように考えていたのですか。
ぼくのこういう小説観が
最初からできあがっている、
なんてことはなくて、
大学一年のころから
三十年ぐらい考えて
今に至っているわけだし、
最初の十年なんて、
あっちウロウロこっちウロウロで、
なんだか非常にあやふやな
小説のイメージしかなかったわけなのね。
ただ、むしろその頃の方が
書きやすかったというか、
オリジナリティはないものなんだけど、
基盤が弱いから
「こんな小説を書きたい」
というのが割と簡単にできちゃうわけですね。
ぼくと同じ世代には
野田秀樹や鴻上尚史がいるんだけど、
それよりも上の世代は、
唐十郎や寺山修司とかいう
アングラ劇団……つまり非商業的活動を
十年以上続けた人がいて、そこから
小林薫とか根津甚八のように登場するもの、
だったんですよね。
そういうものだと思っていたら、
野田秀樹や鴻上尚史のところの劇団員たちは
割とすぐにテレビに出るようになったんです。

ぼくは同年代として
ちょっとうらやましい気持ちもあったんだけど、
同時に、うらやましさよりも強く
「それでは、まずいのではないか」
とも思っていた。
劇団が劇団として固まるのには
時間がかかるわけです。
だけど時間がかかる前に
劇団員がテレビに出ちゃったりすると、
劇団の維持はむずかしいんじゃないか、
というのがまずひとつです。

もうひとつは、
マイナーでやってた時間の積み重ねが
その人の強さになるんじゃないか
ということです。
マイナーで続けるなら金も要らないし、
やる気さえあれば他の仕事をしながら
続けられるわけです。

それに
「なぜ芝居をしたいか」
「芝居とは、何なのか」
ということもちゃんと考えないまま
すぐにメジャーになると基盤が弱いというか、
大変になるんじゃないかと思ったんです。
ただ、アングラから出ても
ダメになっちゃったような人もいるから
むずかしい話だけど。

 

明日に続きます。

 
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2005-07-25

Photo : Yasuo Yamaguchi All rights reserved by Hobo Nikkan Itoi Shinbun 2005