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質問:
中沢新一さんの本を作るまでの
過程は、どのようなものでしたか。 |
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やりとりをしているうち、
ある日メールが来ました。
「テーマが決まった。
偽書の話を書きたい。
パスカルに
『愛の情念論』という論文があって、
哲学者で科学者の
パスカルらしからぬところがあるのだけど、
そのテクストの存在により、
パスカルの読みに新しい議論を呼ぶ
というような力を持っている……
本物か偽物かは議論されるけど、
現実を動かす力があれば、
偽物もそれはそれで
立派なものじゃないのというものなんだけど。
その『愛の情念論』に関する
論文を調べておいてほしい」
(こんなメールと記憶しています。
間違っていたら、ごめんなさい) |
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ぼくはたまたまフランスに
通算三年ほど住んでいましたし、
たまたまその話を聞いた数週間後に
フランスに行くことになっていたので、
調べてきますといったんですね。
確かにパスカルの論文自体は
見つかったのですが、
それを論じたものは
なかなか見つかりません。 |
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だからパスカルのいた修道院を見にいって
「その修道院の絵葉書です」
と中沢さんに報告をしたのですが、
そのころには既に
「やっぱりそれ、興味なくなった」と……。
まぁそんなものなのかなぁ、と、
長期戦を覚悟していたのです。 |
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そんなこんなしているうちに、
新宿の喫茶店でお目にかかりました。
二〇〇〇年になっていたでしょうか。
「園部くんは、
どういうテーマで書いてほしい?」
「何でもいいのですが、
せっかく中沢さんが書くからには、
五万部の企画をおねがいします」
とっさのことに、いままでずっと
読書界をリードしてきた先生に、
私ごときが
テーマをぶつけても仕方がないと思い、
数でおねがいしてしまったわけです。 |
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それからまた時々メールしたり、
一度天ぷらを食べに行ったりもしました。
すると突然お電話があり、
「できあがりました。まあ読んでみてください」
ものすごくおもしろい講義録でした。
とうとう原稿をもらった興奮と、
内容の面白さに感動しながら読んだそれが、
カイエ・ソバージュ・シリーズの第一巻
『人類最古の哲学』の原稿だったんです。 |
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そして「まえがき」を
書いていただいたら、そこには
「全五冊のシリーズになります」
とあって……ものすごく
ありがたかったのですが、半信半疑でした。
しかも、夏学期と冬学期という学期ごとに
講義を一冊ずつ出して、
二年半で五冊なんて夢のような話でした。
もしかしたらそう簡単に
最後までは出ないかもしれないが、
ええ、ままよと、一冊目を出したんです。
(注:カイエ・ソバージュシリーズは、
結局二〇〇二年一月から半年ごとに
コンスタントに出され、二〇〇四年二月に完結。
五巻目の『対称性人類学』は小林秀雄賞を受賞)
(次回に続きます。) |
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Photo : 大森克己
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