質問:
いい監督とは、どんな人のことを言うのですか?
監督の言葉というのは、
ある日のある瞬間のひとことだけでは
伝わらないんですよね。
新しい監督がどんなにすばらしい言葉で
メッセージを伝えても伝わるとは限りませんし。
言葉のひとつひとつが
選手の心に響くようになるには、
そのための環境が要るんですね。
日々の会話であったり、示して見せる態度であったり、
そういうことが言葉の響き方に直接関わると思います。
他の監督から学べることは多いんです。
少年サッカーを教えているグラウンドでも
「あ、今のいただき」というような
いい言葉のかけ方があったりしますからね。
「イングランドのプレミアのさぁ」というところにしか
目を向けない指導者は所詮それまでで、
身の丈にあうところから
盗ませてもらう方がいいかなぁと思いますし。

私がいつも選手が来る前に
ピッチにいるのは意図的に見せていることで、
だから選手は、練習場の門をくぐった瞬間に
「監督はもう来てるな」と思うわけですよね。
その状況を毎日作ることで
私は「言葉が届きやすい環境づくり」を
しっかりやっておきたいのです。
ただ、これまでに名将と呼ばれてきた
「タイトルを獲れる監督」は、なぜか
人間的に問題がある人が多かったわけです。
お金にきたなかったり、
選手に練習をさせている間に
お姉ちゃんとゴルフに行ったり……
むしろまじめで人間的な監督というのは
「あの人はいい人だからダメだよね」
とか言われてきたわけです。
しかし、ラファ・ベニテスさんという
スペイン人の監督が地道な努力をずっと積み重ねて
バレンシアを優勝させて、
海外(リバプール)にポンと移籍して
しかもUEFAチャンピオンズを獲ったということで
「いい人でもいい監督になれるんだ」
という希望になっていると言いますか……
人間的に問題があっても
勝っちゃう監督というのはいるわけです。
モウリーニョ(チェルシー監督)のように、
ポルトガルリーグチャンピオンになった後、
きちんと英語も覚えて
プレミアリーグで優勝させてしまう……
問題ありと言われようと
優勝させられる監督というのはすごいですね。
私は今までチームを優勝させた経験がありません。
どんなにいいチームであってもケガ人が出たり
選手を抜かれたりという
深刻な事情がいつでも来るわけだから、
優勝させることのむずかしさは特別です。
カペーロ(レアル・マドリッド監督)も
就任したその年に
レアル・マドリッドを優勝させたわけで、
そこには絶対に何かがあるわけです。
勝てるチームを作ろうと思ったら、
彼らから学ぼうとする姿勢を
忘れてはいけないと思います。
「なんであの人たちは勝てるんだ」
という謎の追求はしていきたいとは思います。
たとえば彼らには
クラブを動かすだけの力がやはりあったわけですよね。
与えられたチームで
工夫して努力して勝たせたのではなくて、
レアル・マドリッドに就任する契約書の中に
「この選手とこの選手は採ってください。
 そうでなければ契約しません」と記す……
ここまでいくと自分流のチームができますし、
そこで連れてきたからといって
ほんとに優勝しちゃうところがやはりすごいわけです。
だからそのあたりは謎だらけで、
「やっぱり監督はいい人ではダメなのか?」
という言葉が出てきてしまうわけですけど……。
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2005-07-28
Photo : Yasuo Yamaguchi
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