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『家族の肖像』は、
詩と音楽のやりとりがとにかく絶妙で、
聴く側の思考や感覚が
際限なく広がっていくようなかんじです。 |
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今回は、全曲書き下ろして作曲しようって
最初に思ったんですよ。
そこからやっぱり違ったんだと思います。
先日の詩の回のときにも書いたんですが
武満徹さんの「family tree」が
頭の中に最初にあって、
あれをこえられるわけはないんだけれども、
まずは、いま、自分にできる作曲を
しっかりやろうと意気込んだんです。
前作までのぼくだったら、
朗読の分量を多くするために、きっと
曲を少なくしていったと思います。
今回は、それはなかった。
「ここまでは、いける」という
自信があったんです。
そういう意味では、
一歩も引かなかったです。
そして、
「いま」と「祖母」を
谷川俊太郎が書き下ろしてくれたということが
すごくうれしかった。 |
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最初、俊太郎さんは
詩の「書き下ろし」はやらないと言っていたと
聞いたのですが。 |
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CDの冒頭の曲を聴いて
考えを変えてくれたんです。
今回のCDの冒頭は「木管四重奏でいく」
ということを
ぼくは決めていました。
そしたら、奏者の方達のなかに
父の友人がいるということもあって
その曲の録音に、ふらっと来てくれたんです。
そして、黙って聴いていて、ぼそっと
「じゃあ、おれ、オープニングの詩を書くよ」
って、言ってくれた。
そうやって、あのすばらしい
「いま」という詩ができてきた。
その「いま」の朗読録音をしているとき、
「この詩に、音楽で応えたい」
そういう思いが
どうしようもなく沸きあがってきて、
「どこへでもいけるよ」ができた。
あの詩と音楽の呼応が、
このCDが生まれる
大切な瞬間だったと思います。 |
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冒頭、ほんとにすごいですよね。
CDを試聴しだしたときは、正直、
最初の5つぐらいまでしか聴けませんでした。
その先に行くのがなんだか怖くて。 |
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そうなの? ははは。
今回のCDは、このことをはじめ、
ぼくの意識の変化が大きく出ました。
「詩の朗読が終わったときの
余韻に切れ込んで行く」
そういうことを意識したんです。
その切れ込みがすごくうまくいっているのが、
書き下ろしの詩「いま」と
「どこへでもいけるよ」という曲、
それから、
「おっかさん」と「おねえちゃんのはつこい」
のつながり。
ここは、すごいです。聴きどころ。
相変わらず自画自賛。恥ずかしい、、、 |
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「ほぼ日」乗組員のなかでは、とくに
男性が切り込まれていましたね。
自分から子どもが出てきたり老人が出てきたり、
父親を思ったり、
いろいろしてしまったみたいです。 |
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「おうおう、寿司食いねえ、
もっと食いねえ」(笑)
それは意外なことでうれしいなあ。
ぼくと同年代のおやじ、お父さんたちにも、
ぜひ聴いてほしい。 |
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曲のタイトルも、すべてすてきですね。
これも賢作さんが考えるんですよね?
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ありがとう。じつは、
インストの曲のタイトルは、
いつもはなかなかできないんですよ。
だけど今回はね、どの曲もなぜか、
自然に降りてきたかんじがします。 |
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「いもうととリスのぬいぐるみ」。 |
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あ、それ、ほんとうはライオンなんですよ。
うちの妹が持っていた「ノッシー」
(妹の名前は志野、そのうらがえし)
というライオンのぬいぐるみ。
ぼくが10歳で妹が7つのとき、
家族で大阪万博に行ったんです。
そのとき泊まったホテルのお店にあった
1m50cmくらいある
ライオンの大きなぬいぐるみに
妹がひとめぼれしちゃってね。
ぼくは子供心に
「こんなでっかいもん妹に買っちゃって、
うちの親、おかしいんじゃないの?
どうすんだよ」
って思ってました。
あとで、むちゃむちゃかわいがったんだけど。 |
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じゃあ、ほんとはライオンなんですね。 |
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ええ。でも、曲のタイトルには
なぜか、かわいいリスを採用しました。
でも、そういう具体的なエピソードがあって
曲を書いているわけではないんですけれどもね。
できあがって、なんとなくそのときのことが
降ってきたんです。
それをもう一回、フィルターとおして
できあがった 。 |
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ところで、今回は
アカペラのテーマをいれて歌が3曲
入っていますね。 |
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歌をうたってくれた村上ゆきさんは、
ほんとうに積極的に取り組んでくれました。
それで彼女がスタジオに来て
ポロンとピアノを引いた瞬間、
「あれ?」って思ったんですよ。
ちがう楽器だったらバンド組んだだろうな、
と思うくらい、
サウンド感に共感したんです。
「さようなら」にしても「ひとり」にしても、
何にも説明してないんですよ。
メロディラインとコードネームだけ渡して、
ぼくがこんなかんじでって、
少し弾いたら
もう通じあってた。音楽ってすごい!
「ひとり」の譜面を前に、
打ち合わせをする村上さんと賢作さん。 |
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「さようなら」は、ぼく、って
アカペラで出てくるのが
すごくいいですね。 |
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あの曲は、じつはイントロがついていたんです。
でも、朗読の「おじいさん」と並ぶという配列が
ちらっと頭にあったんで、
声つながりにしてみたらいきるだろうなあと、
出だしはアカペラでうたっていただきました。 |
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最後の余韻がほんとに長く続きますね。
CDを聴き終えて見る風景が
ちょっとかわったようになりました。 |
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糸井さんにも言葉をたくさんいただいて、
ほんとうにありがとうございます。
作り手として、やっぱり届くとうれしい。
できるだけ多くの人に届きますように。 |
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俊太郎さん、賢作さんのほかに
歌の村上ゆきさん、朗読に覚和歌子さん、
その他多くのミュージシャンの方々が
参加していらっしゃいます。
このCDができた秘密は、
いったい何だったんでしょう? |
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うーん。
‥‥ビギナーズラックかな。 |
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もうみんな、ビギナーじゃないのに? |
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そうそう。
ビギナーじゃない人たちが
集まっているのに、
みんながビギナーの感覚を持って、
というかんじかなあ。
それで家族というテーマの
谷川俊太郎の詩のいくつもが
モチベーションを高めたのかも?
だけど、こんな快心作を出しちゃって、
この(俊太郎&賢作の)
ふたりの今後のライブ活動って‥‥
どうしていったらいいんでしょうね?
ふたりとも、再現とか苦手だからなあ。
なにかいつも新しいこと
やりたいほうだし。
「家族の焦燥」なんちゃって〜(笑)
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‥‥いや、もしかしたら
「焦燥」もアリかもしれませんが、
ぜひ、いろんなところで
さらに精力的な活動を
展開していただきたいです。
たのしみにしています。
今日はありがとうございました。
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