怪・その1

「椅子の端に」

あれは小学校3年生の、
夏休みの終わりのことです。

夏の間に遊びまくった私は、
その日、久しぶりに座った学習机で
あとまわしにしていた宿題の漢字ドリルを、
とにかく必死で埋めていました。

時刻は夕方、たそがれ時。
そろそろ薄暗い室内で、
部屋の明かりも付けず、
一心に手だけを動かしていたように思います。

と。

気付くと、短パンをはいた左ふとももに、
何か冷たいものがあたっています。

しばらくは、あまり気にせず、
ドリルに集中していたのですが、
その一点だけが、
どんどん冷えてくるのです。

そのうち、あまりの冷たさに、
左側をのぞきこみました。


椅子の端に、
白い指が一本、
下から引っかかっており、
それが私のふとももにあたっていました。


「‥‥‥!!」

声も出ず、ものすごいスピードで、
椅子から飛び離れました。

もちろん、椅子の下には誰もいません。


でも、漢字ドリルは、
今日中に仕上げないと、間に合いません。

動悸が落ち着いた頃、
再び机に戻った私は、
その後も、晩ごはんで母親に呼ばれるまで、
漢字ドリルに取り組み続けました。


その後、白い指は、
一度も現れませんでした。


この体験の不思議さよりも、
かなり怖かったはずなのに、
宿題を終わらせるために
机に戻った当時の自分を、
40代のいま思い出すと、
ちょっと泣きそうになります。

(ひろみん)

こわいね!
2016-08-02-TUE