フランコさんのイタリア通信。
アズーリにいちばん近いイタリア人の生活と意見。

ユベントス快進撃の裏に「モッジ総監督」あり!


イタリアのアニェッリという、
たいそうお金持ちの一族に
まるで宝石のひとつのように、
大切に大切にされてきた
貴婦人(ラ・シニョーラ)がいました。
ところが、あるとき、彼女は、いとも簡単に捨てられ、
ひとりぼっちになってしまいました。
それでも彼女は、捨てられたなどとは
感じていませんでした。

‥‥今週はイタリア民話?
いえ、ちゃんとサッカーの話題です。
実は「ラ・シニョーラ」とは
ユベントスの渾名なんです。
そして、このチームは本当にいつでも、
アニェッリ一族の持つ宝石のひとつでした。



アニェッリ兄弟なきあと、
財閥の支援を失ったユベントス。

アニェッリ一族といえば、
カルチョ(サッカー)だけでなく、
イタリアの歴史をも作ってきた人たちです。
イタリアの個人の企業としては最大のFIATや、
その他、世界に知られる名前をざっと挙げただけでも、
フェラーリ、アルファロメオ、ランチアなどを持つ
アニェッリ一族は、
ずっとユベントスのオーナーでもありました。

戦後、ジャンニとウンベルトのアニェッリ兄弟は、
栄光をほめたたえたり、
負けの時には力付けたりしながら、
いつもチームに寄り添ってきました。
彼らはユベントスのティフォーゾだけでなく、
サッカーとは無縁な人々もふくめた
全イタリアから、愛されていました。

ところが、
9月12日に始まったカンピオナートの今シーズン、
ユベントスの近くに
アニェッリ一族の影はありませんでした。
ふたりの兄弟はすでに亡くなり、
彼らの後継者たちはだれも、
イタリアのサッカーチームの中でも
最も栄光に満ちたこのチームを、
手の内におさめておこうとはしなかったのです。

いまやユベントスはFIATグループの一員ではなく、
ミラノの株式市場に上場されている
一企業でしかありません。
その会長の座についたのは、
かつてアニェッリ一族のために働いていた有名な弁護士、
つまり株主代理人である
フランツォ・グランデ・スティーブンスです。

ジャンニ・アニェッリは弟ウンベルトよりも
高貴な魂の人であり、
ユベントスの精神そのものでした。
必要とあれば、たとえば
シヴォリ、プラティニ、デル・ピエロなど、
チャンピオンたちのために私財を投じました。

しかし彼がなきあと、今やユベントスは、
他の多くの株式会社と同じく予算を公示し、
スポーツの活動によって手に入れるお金で
生き抜かなければなりません。

もしインテルやACミランが借金をかかえた場合、
年度末には彼らのオーナーである
マッシモ・モラッティや
シルヴィオ・ベルルスコーニがいて、
彼らが私財で経済的赤字を埋めてくれます。
ところがユベントスは
自己資金でまかなわなければならず、
たくさん稼ぐためには
たくさん勝たなくてはなりません。

そのためにユーべは、
ACミランやレアル・マドリードやローマに
勝利したキャリアを持つ
ファビオ・カペッロ監督を雇いました。
エメルソン、カンナバーロ、イブラヒモビッチなどの
世界的レベルの選手たちもやって来ました。

アニェッリ一族の物心両面での支えなしには、
ユベントスは困難を乗り切れないだろうと考えた人も
少なからずいましたが、
彼らの言い分は、事実によってくつがえされました。

辣腕モッジ、ユベントスをみちびく。

ユベントスは
UEFAチャンピオンズ・リーグの立ち上がりを、
順調に勝ち進んでいます。
この大会では、世界のどの選手権よりも
多くを稼げるチャンスがあります。
イタリア全国リーグのカンピオナートにおいては、
数ゲームの後に単独第1位におどり出ています。
ミラノの裕福なチームである
インテルやACミランをしり目に、
孤独な未亡人ともいうべき「ラ・シニョーラ」が
先頭を走っているのです。
功績はもちろんスティーブンス会長ではなく、
カペッリ監督と選手たちのものです。
そしてもうひとり、はずせない人物がいます。
サッカーにおいて
イタリアでは最も力を持つと目される
ルチアーノ・モッジ、その人です。


モッジ氏(左)と僕(フランコ)。

ルチアーノ・モッジはユベントスの総監督で、
アニェッリ一族の信頼を得ていた人物です。
そして現在では、
事実上は会社をつかんでいるのは彼で、
実際のオーナー社長より
自由な権力を持っていると言われます。

ルチアーノ・モッジは近年、
サッカーマーケットの正真正銘の「王」であるとも
みなされています。
もしユベントスが今年度に、
初めてアニェッリ一族との経済的関係を抜きに、
競争力のあるチームとして再生するなら、
その功績は彼のものです。

選手たちを適格に移籍させたのは彼でした。
ディ・ヴァイオをバレンシアに、
ミッコリをフィオレンティーナにと、
売り方をまちがえませんでした。
そしてエメルソン、カンナバーロ、イブラヒモビッチなど、
買い方も心得ていました。
サッカーにおいて、
偉大なレベルのチームが勝利する現場は
ピッチの上ですが、
そのためにはピッチ以外の場での計画が
じゅうぶんに練られていなくてはなりません。
彼の手腕が、
そのことを証明してくれるでしょう。


訳者のひとこと
ジャンニ・アニェッリについては
2003年3月10日の記事もご参照ください。
彼の後を継いた弟のウンベルトでしたが、
今年の5月29日に亡くなってしまいました。
まだ69才でした。
たて続けにアニェッリ兄弟を失ったイタリアは、
たいへんにショックを受けたようでした。
後継者の力量によっては、
イタリア経済そのものが
影響をうけるほどの財閥ですからね。
翻訳/イラスト=酒井うらら

2004-09-27-MON

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