フランコさんのイタリア通信。
アズーリにいちばん近いイタリア人の生活と意見。

ミラノの恥。


サッカーファンのみなさんは、もうご存じでしょうが、
4月12日にミラノのサン・シーロ競技場で、
とんでもない事件が起きてしまいました。
このことについては、ぼくはイタリア人として、
ひとりの人間として、恥かしいとしか言い表せません。

事件の当事者であるインテルの
ティフォーゾたちだけの恥ではありません、
ミラノという街の、
そしてイタリア・サッカー全体の恥です。

4月12日火曜日に行われた
UEFAチャンピオンズ・リーグの準々決勝戦は、
ミラノのチームどうしが闘うダービーの第2回戦で、
だれもが楽しい興奮の中にいました。
いわば「お祭り」のようなものです。
それなのに、まさにこの試合の最中に、
ミラノのサッカー史に刻まれるほどの、
おそろしい事件が起きてしまったのです。

発火物が投げ込まれた!


それは、いよいよ闘いも盛り上がる
後半戦の半ばすぎに起きました。
フィールドに発煙筒が雨あられと投げ込まれ、
選手たちが危険にさらされる中で、
ACミランのキーパーのディーダの肩から首のあたりに、
発煙筒が当ったのでした。
騒ぎを起こしたのはインテルの、それも
「ウルトラス」と呼ばれる超過激なティフォーゾたちです。
彼らは3年前にも競技場の3階席から、
あろうことかバイクを投げ込んだメンバーと、
同じ顔ぶれだそうです。

この夜の恥ずべき映像は、
世界の半分にテレビで中継されていました。
そして、事を重大視したUEFAは、
すでにインテルに対して大変に厳しい判決を下しています。

この試合はメルクス審判よって中止された時点では
ACミランが1:0で勝っていたのですが、
記録上はインテルが3:0で負けという結果です。
来期のUEFA主催ヨーロピアン
チャンピオンズリーグにおいて
サン・シーロ競技場で行われる
インテルのホームゲームについては
4試合の無観客試合という
ペナルティーが課せられました。

試合は中断されるまでは
実にフェアーであるように見えましたが、
水面下では、騒乱の準備が着々と進められていました。
何人ものインテルのティフォーゾたちが、
前日すでにサン・シーロに発煙筒を2ケース運び込み、
トイレに隠しておいたということです。

ミラノ警察署長の後の発表によると、
総ての行動が前もって計画されていて、
目的はインテルの組織に打撃を与え、
ACミランの優勢を阻止できないとみなされている
マッシモ・モラッティに
抗議するものだったということです。

10人ほどの無法者が、
(彼らをティフォーゾと呼ぶには、
 本当のティフォーゾに対して無礼です)
インテルのカンビアッソがゴールを
取り消されたのをきっかけに、発煙筒や、
満杯のミネラルウォーターのビンを
ACミランのゴールにむけて投げ始めました。

地面にくずおれたディーダのシャツの
右肩のあたりが燃えており、
彼が顔を手で守っているのが見えました。
 
発煙筒が彼に当ったのです。
もしこれが真正面から命中していたら、
顔が変形していたでしょう。
失明の恐れもあったに違いありません。
とんでもないことです。


観客たちは恐怖心におそわれ、
つぎつぎと競技場から出て行きました。
インテルのオーナーであるマッシモ・モラッティも、
彼のボディガードたちに囲まれて引き上げました。
そしてサン・シーロのACミランのゴールのあたりは、
サッカー競技場というよりは、
まるで燃えあがる戦場のようでした。

イタリア政府の対応は?


これを知ったヨーロッパのサッカー界全体が激怒しました。
秋にもローマでUEFAチャンピオンズ・リーグの試合中に、
フリスク審判がコインで傷つけられた事件がありました。
またしても、イタリアで、ことは起こったのです。
彼らは今回のインテルに対して、厳罰を要求しました。

UEFAの審判会議は4月15日に
スイスのニヨンで行われました。
事前の感触では、インテルがヨーロッパの総ての行事に
1年間の出場停止処分を受けるかもしれないほど
厳しい気配でした。

その金曜日はインテルの本社にとって、
長い長い激動の一日になりました。
失望したモラッティが、もうインテルを売ると
言い出すおそれもあったのです。

しかし判決が届く前に、
モラッティ自身が口を開きました。
「私はインテルを売らない。
 インテルのイメージを、ダービーの最中に
 サン・シーロで著しく傷つけられた
 インテルのイメージを立て直す」
と、彼は明言しました。

この事件を受けてイタリア政府も動きました。
しかも素早く。
UEFAの判決が出る数日前に、
試合の前や最中に何であれ
発火物をフィールドに投げ込んだり、
事件をひき起こす者は厳罰に処すという条例を、
イタリア政府は発表していたのです。

普通の礼儀正しい観客にまぎれ込んだ
無法者たちのせいで、
世界でいちばん豊かで美しいと言われた
イタリアのサッカーは、
最も危険で、つぎつぎと「恥」が湧き出る泉にでも
なってしまったかのようです。
堕落の時は、坂道をころげ落ちるのに似ています。
時間は、そんなにかかりません。


訳者のひとこと
ミラノ・ダービーの結果が来たわけですが‥‥
イタリア勢はユベントスも敗退しましたから、
ACミランだけが4強に残ったということですね。

う〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん。
残念です。どちらが残っても、
勝っても負けても拍手の送れる試合であって
欲しかった。
翻訳/イラスト=酒井うらら

2005-04-18-MON

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