ほぼ日刊イトイ新聞 フランコさんのイタリア通信。アーズリにいちばん近いイタリア人の生活と意見。

2009-04-07-TUE

ミラノにやってきた捨て犬たち。

franco

みなさんもご存知のように、
イタリアの首都はローマです。
そして、ぼくの住んでいるミラノは、
イタリアの商工業の中心地です。

話は1950年代初頭にさかのぼりますが、
第2次世界大戦で何もかもをなくし、
疲れ切っていたイタリアも、
復興を目指して大きく動き始めていました。
ミラノがイタリア商工業の中心地になるまで、
さほど時間はかかりませんでした。
イタリアの中でも貧しい地域である南部から、
数百数千の労働者たちが職を求めて
ミラノに来てくれたおかげでもあります。
新しい参入者たちへの歓待ぶりと、おおらかさから、
当時のミラノは「手にハートのある街」、
つまり「真心のある街」と言われました。

その時代から半世紀以上が過ぎた今、
南部から職を求めて来る人たちは激減しました。
今や、どこであっても
仕事が減り続けているという事情も原因しています。
状況は変わったとは言え、ミラノは今でも、
ずっと変らず「手にハートを持つ街」であることを、
再確認できるような出来事が起こりました。

シチリアでおきた悲しい出来事。

先週のこと、ミラノの街は、
遠い南のシチリアで捨てられた犬たちを、
大量に迎え入れたのです。

シチリアにある
個性的な街のひとつであるモディカは、
職人技で作られる特別なチョコレートを
生産することで有名な街です。
スペインがメキシコを制圧した時代に作られた、
古いレシピをそのまま引き継いで作られるチョコです。

franco

このモディカの名前が、残念なことに先月、
イタリア国民たちを震撼させる記事で、
新聞の第1面に載りました。

モディカの街の路地には、
たくさんの捨て犬たちが暮らしているのですが、
その中の野生化した数匹が、
ジュゼッペ・ビアフラという10歳の少年に襲いかかり、
噛み殺したというのです。

こうして、モディカの街でもモラルの退廃が進み、
犬を虐待したり捨てたりすることを
なんとも思わない人々が少なからずいる事実が、
明るみに出されました。

イタリアのテレビ局は
カメラマンをモディカに送り、
路地にも近くの浜にも沢山の野良犬たちが
なかば野生化し、まるでオオカミのように
誰かれ構わず食いつこうとしている
映像を流しました。
これを見た視聴者たち、
特にミラネーゼたちは仰天しました。

イタリア人は犬が大好きで、
哀れで可哀想な犬にこそ
愛情を注がなくては、
という気持になります。

OIPA(国際動物愛護団体のひとつ)からは
数名のボランティアたちがモディカに行き、
里子に出せそうな犬を探しました。

野性的な環境で暮らしてはいるものの
健康そうな犬を数十匹ほど見つけ、
病気を持っていないかどうか診察した後、
OIPAのメンバーは
その犬たちをミラノ近くの
パウッロと言う街に連れて来ました。
そこでもシャンプーなど、いろいろなケアをして、
里子に出せる状態に整えたのです。

franco

すこしでも救いたいという気持ちで。

その犬飼育施設の名前は
il Ponticello(小さな橋)と言いますが、
その犬たちが特別チャーター便の飛行機で
ミラノのリナーテ空港に到着した映像を見て、
すぐに人々の動きが起こりました。
映像の放映直後には、何十件もの家族から、
モディカの地獄から救われた犬を
引き取りたいとの連絡が来たそうです。

モディカの犬たちは、
希望者たちにあずけられる前に、
子どもたちのそばでも危険なく
おだやかに暮らせるかどうか、
特殊なテストを通過しなければなりません。

でも、連れて来られたのは、
とりわけ従順でおだやかな、
生後数ヶ月内の子犬たちがほとんどですから、
空腹や虐待にさらされて
やむなく野生をむき出しにした
成犬とは、違います。

この子犬たちはすぐに
平和とおだやかさをとりもどすでしょうし、
里親たちもそういう環境を、
子犬たちに与えられるレベルの家庭でしょう。

franco

そんな、モディカの地獄から救われた犬の話題、
数週間はもつとしても、
いずれきれいに忘れ去られてしまうのかもしれませんが。


訳者のひとこと

イタリア人が好むのは中〜大型犬のような
印象があります。
街の中心街を、ほれぼれとするような、
まちがいなく血統書付きの犬を連れて歩く人と、
この子犬たちを引き取る人とは、
ちょっと住む世界が違うでしょうね
とも思います。

ちなみに、
ヴェネツィアには猫がいっぱいいますが、
それはペストが流行った時代の名残もあるそうです。
猫は病原菌を運ぶネズミをつかまえますからね。

うららさんイラスト

翻訳/イラスト=酒井うらら



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