ぼくの住むミラノは、
世界中から到着する観光客が
ごく普通に想像するように、
美しくて興味深い街です。
冬は寒くて暗いこの街も
4月になれば春が訪れ、
公園の木々は芽吹き、野バラが咲き、
民家のバルコニーは
ゼラニウムやミモザなどの鉢植えに彩られ、
何もかもが蘇ったようになります。
今年は特に、
ミラノのドゥオーモ(大聖堂)も、
カンドリアの大理石で作られた135の尖塔や
3600の彫像とともに、
いちだんと花開いているように見えます。
というのもLa Veneranda Fabbrica di Duomoという、
ドゥオーモの保存維持のために
1387年に創設された組織が、
ミラノで最も重要で世界に二つとない
このすべて大理石の大聖堂の修繕作業を、
このほど終了し、
大理石がピカピカに輝いているからです。
まったく新しく生まれ変わったように
磨き上げられた大聖堂は、
太陽の光の中で輝き、観光客たちは、
ブロンズの扉や尖塔や彫像、そして
地上110メートルほどの天辺にそびえる
「ラ・マドンニーナ」と呼ばれるマリア像を、
魔法にかかったようにうっとりと眺めます。
「ラ・マドンニーナ」はミラノのシンボルのひとつで、
下から見ると大きさが良く分かりませんが、
じつは彼女の身長は4メートル以上。
周囲の大理石が磨かれたおかげで
太陽の光を反射し、
まるで雪のように白い金色に輝やかせ、
いっそう魅力的にしています。
ミラネーゼたちも観光客たちも
ドゥオーモ広場にあふれていますが、
この素晴らしい大理石の尖塔や彫像を
夢心地で眺めるだけでは終わりません。
なぜって、今年は右側にある王宮(Palazzo Reale)で、
今年の一大イベントとしての
「サムライ展」が開かれており、
イタリアではかつて見たこともない
日本の武具の数々が展示されているからです。
日本の文化──たとえば文学、
折り紙や生け花、
盆栽、寿司、刺身などは、
すでにイタリア人たちも賞賛し、
ブームにすらなっていますが、
ジョルジョ・ナポリターノ大統領の
後援を受けて開かれているこの「サムライ展」は、
予想以上の大好評を博しています。
(ちなみに開催は2月25日から、
6月2日までとなっています。)
王宮にある膨大な数の
とても美しい部屋には、
何人かの武将の武器や衣装が展示され、
彼らの名前は伝説のサムライたちとして、
イタリア人の記憶に残ることでしょう。
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もちろん、多くの一般的な西洋人と同じく
イタリア人たちも、
日本文化を徹底的に評価するには至っておりません。
でも、アンティークな盆栽の美しさの前では、
(王宮は100鉢を超える盆栽を私有しており、
展示したことも何回かあります)
驚きのあまり開いた口がふさがらなくなります。
イタリアにも古木はありますから、
その樹齢に驚くと言うよりは、
育てるプロセスで注がれた手入れや
心配りに感激するのです。
つまり「評価できない」のではなくて、
「評価するほどには知らない」というのが、
一般的なイタリア人たちの現状なのですね。
そして、由緒正しいジュエリーが賞賛を呼ぶように、
侍の武具や武器の信じられないほどの素晴らしさが、
今、多くの賞賛を呼んでいます。
本当にたくさんの人々が、
この展覧会を訪れています。
たとえば多くの子どもたちも。
マジンガーZなど、日本のアニメの主人公が
大好きな子どもたちにとって、
昔のサムライは超モダンなロボット戦士の
再来に思えるのかもしれませんね。
兜(かぶと)、佩楯(はいだて)、
涎掛(よだれかけ)などの日本語の単語が、
賞賛のため息とともに
会場内でささやかれています。
磨きなおされて、春の日差しに
輝きを取りもどしたドゥオーモの大理石と、
そこから100メートルと離れていない王宮での
サムライ展が、
それぞれの素晴らしさで
多くの訪問者を惹き付けています。
イタリアと日本という
二つの遠く離れた国の文化が、
その芸術性の素晴らしさで歩みより、
理想的な橋を築いたというところですね。 |