こちらの写真をごらんください。
ゴールドラッシュ? しかも、イタリアで?
そうなんです。
といっても、本当のゴールドラッシュではなく、
ちょっと風変わりな競技会のお話です。
イタリア北部、ピエモンテ州にある
エルヴォという小さな渓流で催された、
「金(ゴールド)探し世界選手権」の写真なんですよ。
1800年代終わりごろ、
カナダのユーコン準州にあるクロンダイクで、
本当のゴールドラッシュが起こり、
アメリカ大陸中から人々が押し寄せたそうですが、
世界選手権当日のエルヴォは、
伝説のクロンダイク、かくありき、と思わせる、
にぎわいを見せました。
もちろん、この世界選手権で
ほんとうにお金持ちになる人なんていません。
エルヴォの水の中にあるのは金の塊ではなく
ごくごく小さな金の粒です。
じつはこの金は、自然のものではありません、
競技の開始前に、砂がいっぱい詰められた桶の中に、
主催者側スタッフたちによって埋められているんです。
そう、これは、冒険心と勝つ意欲を競う遊び。
ピエモンテの8月の蒸し暑さの中で、
金を見つけるために世界中から集まった
情熱的な人々が、
水の流れが堆積させた金の粒を求めて、
忍耐強く砂をふるいにかけました。
参加者は、カナダ、日本、南アフリカを含む
23カ国からの約400名で、
男女比は6:4というところ。
子どもたちも40人ほどいました。
服装はそれぞれが気ままに、
色とりどりのカジュアルな服装で、
明るく元気に、この一風変わった国境なき競技の
主人公をつとめました。
色彩豊かな帽子やかぶり物をつけ、
鉱山で働く人のような
あご髭をたくわえている人もいました。
▲アラスカから参加したチームの人
参加者たちは入り口で登録し、
参加ナンバーのゼッケンと、
見つけた砂金を入れるための
空っぽの試験管をもらいます。
参加者たちは男性、女性、熟練者、16歳以下、
ナショナルチームなどのカテゴリーごとに、
30組に分けられ、
それぞれ探す場所が決められています。
埋められた金の粒は5個から12個。
カテゴリーごとに同じ数の粒が埋められた
桶が用意されています。
その先には、砂を洗い流すための水が張られた
30個の桶が待ち受けており、
専用の皿で、金探しのスタートです。
▲フィンランド・チームの人
勝負は2分以内に決着がつくようです。
全員ができる限りの速さで
皿に砂を入れ、桶の水で洗いながら、
より重たい金が表面に現われるまで、
何度も砂を補給するのです。
素早く金の粒を回収したら、
そしてすぐさま粒を試験管に入れ、
皿を頭の上に持って行って
「ストップ!!」と叫びます。
誰かがその声をかけたら競技が終了です。
決まった数の金の粒が
埋め込まれているんじゃ興ざめだなんて、
言わない言わない。
多くの観衆に見守られ、
金探し人たちは幸せいっぱいで
帰路に向かいます。
▲南アフリカ・チームの人
競技に参加していたイギリス人
ヴィンセント・サーケトルさんに
話を聞きました。
ちょっと風変わりな人に見えましたが、
53歳だそうです。
彼はロンドンから200キロのイングランド南西部
サマセット州ヨーヴィルに住んでいるそうです。
「私は少し前までヨーヴィルの公園で
監視員をしていましたが、
金探しに自分を捧げようと、
3年前から年金暮らしをしています。
貧乏でも、夢見る自由があるほうが好きなのです。
私たちの間には家族的な雰囲気がありますが、
それぞれ本業は地質学者や核エネルギーの技術者、
物理学者、歴史学者などもおり、
ほかにも工員や左官屋や主婦たちもいます。
こうした社会的な立場を超えて、
みんな同じことに情熱を注ぐ、
それが、この集まりの素晴らしいところです」と。
古い諺にいわく
「夢は腹の足しにはならないが、
生きる助けをしてくれる」
この諺の真実味が増すような競技会でした。
ちなみに、世界チャンピオンになったのは、
オランダ人の、サム・ソセフさんでした。