体温のある指導者・番外篇。
藤田元司さんと、チーム論や石の話など。

3 そのさびしさに、驚いた。
 

糸井 身体のほうの調子はどうですか?
……まあぼくも、自分の
タバコを止めるのが先なんですけど。
藤田 (タバコを吸いながら)
ねぇ?
これ、ほんと不思議なものを
ご先祖様が作りやがって……
余計なものを作りやがって(笑)。
糸井 藤田さんも、だんだん、
タバコが細くなったりしてますけど、
止めてないんですね。
藤田 せめてもの、たのしみ。
糸井 お線香みたいになって(笑)。
藤田 糸井さんが今吸ってるやつを
くわえると、葉巻みたいでねぇ。
糸井 もうずいぶん経つんですか?それにして。
藤田 もう、5〜6年かな。
味は、変わらないんです。
かえってキツイぐらいですよ、
マイルドセブンとか、ああいうのより。
糸井 でもぼくも、いつかやめますよー。
藤田 いやぁ、若いうちに止めて下さい。
糸井 藤田さん、大病しててもまだ吸ってる(笑)。
藤田 もうね、先が大したことないからと思ってね。
糸井 まあ、実際にもう、
今から止めるとか止めないのって
あまり、関係ないんでしょうね。
藤田 うん、だからもう、
ぼくは医者にも言うんですよ。
「もうなんやかんやいって苦労して
 痛い思いなんかしてやったってね、
 先はもう、10年も20年も
 生きられるわけじゃないんだから、
 好きにさせてくれ」ってね。
糸井 藤田さんは、
長く生きたいタイプですか?
それとも、ポンといきたいタイプですか?
藤田 もう、長くは生きたくないですねぇ。
糸井 あ、そういうタイプですか。
2種類に、分かれますよね。
藤田 はい、分かれます。
ぼくはだって、あれですよ、
病気して、去年、一昨年と……。
糸井 ほんとに死ぬかと思ったんですか。
藤田 なんかもう、死にたいと思ったですね。
はい。

だから、問題は、
死ぬ時がどういうことかということでね。
やたらと苦しんで死ぬのはイヤだなと。
スッと死ねるものなら、そのほうがいい。
それぐらい、毎日辛かったですね。
糸井 でしょうねぇ‥‥。
藤田 ええ、体の調子が悪かったし。
いまはずいぶん戻ったけれども、
ほんとにね、死ぬ生きるに直面すると、
案外人間って、
淡々としてるもんだと思いましたね。
「悪あがきしないな」と思った。
糸井 それは藤田さんだからじゃないですか?
藤田 いやぁ、どうですかね。
糸井 「ああ、そうか」みたいになるんですか?
藤田 うん。
「あ、これでいくんなら、まあいいや」です。
糸井 すごいなぁ。
藤田 死ぬのは平気なんだけど、
ただ、自分が死んだあと、
どこかから、見ていたいですよね。
後がどうなるか、家族はどうしてるかとか。
そういうのが、見れたらなぁと思うだけです。
糸井 それは、ちょっと、ありますねぇ。
藤田 うん。
自分だけが逝っちゃうことには、
別に、どうってことはないんですけど。
糸井 ぼくは、1年くらい前に、
「さあ寝ようか」と思って寝る時に、
かみさんは、もうこっちで寝ていて、
ベッドがもうひとつあって。
そこに、自分のいないベッドをみたんですよ。
藤田 はい。
糸井 それがね、
「あ、死ぬってそういうことだ」
と思ったんですよ。
藤田 うん、そうですよね。
糸井 「自分のいない世界」
っていうのが急に見えたんです。
藤田 うん。
糸井 キューンと寂しいような。
藤田 うん、寂しいんですよ。

ぼくの具合が悪くてね、ぜんぜん違う部屋に、
いつもいる部屋、ベッドの部屋があって、
中二階に一部屋あって、そこへこもろうと思って。
ベッド持ってってこもって。
……これが、まぁー、寂しいんですよ。

ちょっと、ほんの5メートルか6メートル離れた、
階段を隔てた違う部屋に行って、
ひとりでポンとこうなった時にね。
糸井 ひとりでも
生きられるようなつもりでいたのに(笑)。
藤田 この寂しさっていうのは、ビックリしました。
糸井 いや、年取っても、
ぜんぜん、変わらないんですねぇ、それは。
藤田 変わらないですよね。
みんな、そうだと思いますよ。
糸井 自分がいない世界が
もうひとつあると思うと……。
藤田 そうなんですよ。
こわい。ゾーッとしました(笑)。
糸井 ぼくも思った時、ビックリしました。
自分がそういうふうに感じる人間だと思わなくて。
例えば、いろんな人のことを思うんですよ。
俺がいない状態でみんな生きてるんだって。
藤田 ええ。
糸井 だから……これはちょっと、
なんか「がんばろう」と思ったんです(笑)。
藤田 うん、そうなんですよね。
ヘンな話になっちゃうけど、
自分が死んで葬式をしてくれる。
みんな、どんな顔をして来てくれるかな、
「逝きやがった逝きやがった、やあやあ」
って来てくれるのかなぁ、って。
糸井 ええ。
葬式のことは思いますよー。
ぼくはだから、賑やかにしてくれって、
遺言書いとこうかと思って。
藤田 はい。
糸井 大笑いしても構わないんだけど、
来たくなるような葬式。
藤田 いいですね。
糸井 ねぇー?
泣かないで来てほしいんです。
藤田 葬式というのは、
若くしてなくなると、悲しみが多いんですよね。
年寄りのときはもうね、
まっとうしたみたいになって、
わりあいほがらかに。
糸井 それが、いいですね、やっぱり。
藤田 ねぇ。
糸井 こんな話が、
普通にできるようになっちゃって、
困ったもんです(笑)。
若い時、藤田さんとは、
こんな話、絶対しなかったですもん。
藤田 病気になるとか死ぬとかって、
考えたこともなかったですからね。
  (明日に、つづきます!)

2003-07-03-THU


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