糸井 |
身体のほうの調子はどうですか?
……まあぼくも、自分の
タバコを止めるのが先なんですけど。 |
藤田 |
(タバコを吸いながら)
ねぇ?
これ、ほんと不思議なものを
ご先祖様が作りやがって……
余計なものを作りやがって(笑)。 |
糸井 |
藤田さんも、だんだん、
タバコが細くなったりしてますけど、
止めてないんですね。 |
藤田 |
せめてもの、たのしみ。 |
糸井 |
お線香みたいになって(笑)。 |
藤田 |
糸井さんが今吸ってるやつを
くわえると、葉巻みたいでねぇ。 |
糸井 |
もうずいぶん経つんですか?それにして。 |
藤田 |
もう、5〜6年かな。
味は、変わらないんです。
かえってキツイぐらいですよ、
マイルドセブンとか、ああいうのより。 |
糸井 |
でもぼくも、いつかやめますよー。 |
藤田 |
いやぁ、若いうちに止めて下さい。 |
糸井 |
藤田さん、大病しててもまだ吸ってる(笑)。 |
藤田 |
もうね、先が大したことないからと思ってね。 |
糸井 |
まあ、実際にもう、
今から止めるとか止めないのって
あまり、関係ないんでしょうね。 |
藤田 |
うん、だからもう、
ぼくは医者にも言うんですよ。
「もうなんやかんやいって苦労して
痛い思いなんかしてやったってね、
先はもう、10年も20年も
生きられるわけじゃないんだから、
好きにさせてくれ」ってね。 |
糸井 |
藤田さんは、
長く生きたいタイプですか?
それとも、ポンといきたいタイプですか? |
藤田 |
もう、長くは生きたくないですねぇ。 |
糸井 |
あ、そういうタイプですか。
2種類に、分かれますよね。 |
藤田 |
はい、分かれます。
ぼくはだって、あれですよ、
病気して、去年、一昨年と……。 |
糸井 |
ほんとに死ぬかと思ったんですか。 |
藤田 |
なんかもう、死にたいと思ったですね。
はい。
だから、問題は、
死ぬ時がどういうことかということでね。
やたらと苦しんで死ぬのはイヤだなと。
スッと死ねるものなら、そのほうがいい。
それぐらい、毎日辛かったですね。 |
糸井 |
でしょうねぇ‥‥。 |
藤田 |
ええ、体の調子が悪かったし。
いまはずいぶん戻ったけれども、
ほんとにね、死ぬ生きるに直面すると、
案外人間って、
淡々としてるもんだと思いましたね。
「悪あがきしないな」と思った。 |
糸井 |
それは藤田さんだからじゃないですか? |
藤田 |
いやぁ、どうですかね。 |
糸井 |
「ああ、そうか」みたいになるんですか? |
藤田 |
うん。
「あ、これでいくんなら、まあいいや」です。 |
糸井 |
すごいなぁ。 |
藤田 |
死ぬのは平気なんだけど、
ただ、自分が死んだあと、
どこかから、見ていたいですよね。
後がどうなるか、家族はどうしてるかとか。
そういうのが、見れたらなぁと思うだけです。 |
糸井 |
それは、ちょっと、ありますねぇ。 |
藤田 |
うん。
自分だけが逝っちゃうことには、
別に、どうってことはないんですけど。 |
糸井 |
ぼくは、1年くらい前に、
「さあ寝ようか」と思って寝る時に、
かみさんは、もうこっちで寝ていて、
ベッドがもうひとつあって。
そこに、自分のいないベッドをみたんですよ。 |
藤田 |
はい。 |
糸井 |
それがね、
「あ、死ぬってそういうことだ」
と思ったんですよ。 |
藤田 |
うん、そうですよね。 |
糸井 |
「自分のいない世界」
っていうのが急に見えたんです。 |
藤田 |
うん。 |
糸井 |
キューンと寂しいような。 |
藤田 |
うん、寂しいんですよ。
ぼくの具合が悪くてね、ぜんぜん違う部屋に、
いつもいる部屋、ベッドの部屋があって、
中二階に一部屋あって、そこへこもろうと思って。
ベッド持ってってこもって。
……これが、まぁー、寂しいんですよ。
ちょっと、ほんの5メートルか6メートル離れた、
階段を隔てた違う部屋に行って、
ひとりでポンとこうなった時にね。 |
糸井 |
ひとりでも
生きられるようなつもりでいたのに(笑)。 |
藤田 |
この寂しさっていうのは、ビックリしました。 |
糸井 |
いや、年取っても、
ぜんぜん、変わらないんですねぇ、それは。 |
藤田 |
変わらないですよね。
みんな、そうだと思いますよ。 |
糸井 |
自分がいない世界が
もうひとつあると思うと……。 |
藤田 |
そうなんですよ。
こわい。ゾーッとしました(笑)。 |
糸井 |
ぼくも思った時、ビックリしました。
自分がそういうふうに感じる人間だと思わなくて。
例えば、いろんな人のことを思うんですよ。
俺がいない状態でみんな生きてるんだって。 |
藤田 |
ええ。 |
糸井 |
だから……これはちょっと、
なんか「がんばろう」と思ったんです(笑)。 |
藤田 |
うん、そうなんですよね。
ヘンな話になっちゃうけど、
自分が死んで葬式をしてくれる。
みんな、どんな顔をして来てくれるかな、
「逝きやがった逝きやがった、やあやあ」
って来てくれるのかなぁ、って。 |
糸井 |
ええ。
葬式のことは思いますよー。
ぼくはだから、賑やかにしてくれって、
遺言書いとこうかと思って。 |
藤田 |
はい。 |
糸井 |
大笑いしても構わないんだけど、
来たくなるような葬式。 |
藤田 |
いいですね。 |
糸井 |
ねぇー?
泣かないで来てほしいんです。 |
藤田 |
葬式というのは、
若くしてなくなると、悲しみが多いんですよね。
年寄りのときはもうね、
まっとうしたみたいになって、
わりあいほがらかに。 |
糸井 |
それが、いいですね、やっぱり。 |
藤田 |
ねぇ。 |
糸井 |
こんな話が、
普通にできるようになっちゃって、
困ったもんです(笑)。
若い時、藤田さんとは、
こんな話、絶対しなかったですもん。 |
藤田 |
病気になるとか死ぬとかって、
考えたこともなかったですからね。 |
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(明日に、つづきます!) |