糸井 |
藤田さんの石のお話は、はじめて聞きました。 |
藤田 |
ぼく、石は、長かったですよー。 |
糸井 |
長かったですか。 |
藤田 |
ええ。
六本木に住んでるころは、
ほんとに集めに集めてね……。
これぐらいの石、昭和30年や40年で
何十万とするものを買ってくるんですから。
相手だって、石好きで、売りたくないものを。 |
糸井 |
他人から見てたら、
何してんだろうと思うようなやりとり(笑)。 |
藤田 |
名古屋なんか遠征に行くと、
3日間、石を集めたその家に
通ってるんですから。 |
糸井 |
それは、出番があってもですか? |
藤田 |
はい。
朝起きたら行って、試合前に帰ってくるんですよ。
その間、ずーっとその家の部屋を見てまわってね。 |
糸井 |
「あれはいいな」とか? |
藤田 |
はい。
その前に座って離れなかったりね。 |
糸井 |
よっぽど欲しいんだな、と思わせるわけ? |
藤田 |
はい。
それがね、またね、見事な石があって。
こう、ワラの家がありますでしょ。
ああいうふうなこうポッコリした屋根があって、
その下に灯籠のように舞台があって、
下にこう、台がついてましてね。
……という形の石が、自然にできてるんです。
ワラ葺きの屋根の上に
雪が積もったように白くなってましてね。
その下に、ちゃんとこう、
人が住んでるように窓枠がこうついて。
で、その下に土台があるっていう。
自然にそんなもん、できてるんですよ。 |
糸井 |
はぁー。 |
藤田 |
川上さんは削り出して、
いい形を作るのをやりたがるんですよ。 |
糸井 |
川上さんらしいですねぇ〜。 |
藤田 |
ぼくは、自然なままがいいから、
川行って、そういう石を探してみたりね。 |
糸井 |
ってことは、藤田さんは、
ピッチャーだった時代に、河原をフラフラしてた? |
藤田 |
ウロつきましたよ。うん。 |
糸井 |
誰か見てて、あれ藤田じゃないか?とか。 |
藤田 |
そういう人は、あんまりいなかったですけどね。
だから、選手時代は、
上を向いて歩いたことなかったです、ぼくは。
石ばっかり見て歩いてまして(笑)。 |
糸井 |
(笑)そんなことしてたんですか。
飽きずにそれを続けて……? |
藤田 |
やってました。
10年以上、やってましたね。
溜まって溜まって、当時住んでいた
麻布十番のところへ、鉄屋さんに頼んで、
鉄の棚を作ってもらっていたほどです。
普通の棚じゃあ、石が重くて崩れるものですから。 |
糸井 |
置けないんだ。石だから(笑)。 |
藤田 |
マンションなもんですからね、
床抜けたら大変ですよ。
それで、少しずつ人に、貰ってもらいましてね。 |
糸井 |
手放す時は、もう、平気になるんですか? |
藤田 |
もう、あの、飽きてくるんですね、だんだん。 |
糸井 |
その景色に(笑)。 |
藤田 |
ええ。
それでまた、新しい石が欲しくなるんですね。 |
糸井 |
石に入った、きっかけがあるんですか? |
藤田 |
あるとき、偶然ね、石の本を見たんですよ。
そしたらもう、いろんな石があるんですよね。
山の景色、海の景色、川上の景色。
みんな、見事にあるんです……。
石の前には、ちょっと盆栽やりましたけど。 |
糸井 |
よく、植物にいって、石にいって、
趣味はおしまい、っていう話を聞きますけど。 |
藤田 |
ぼくは釣りまでいきましたけど。 |
糸井 |
え? 石の後が釣りなんですか。 |
藤田 |
ええ、そうなんですよ。 |
糸井 |
じゃ、ずいぶん釣りは、遅く始めたんですね。 |
藤田 |
そうですね、
現役辞めてからじゃないと、
できなかったですから。
子どもの頃からずっと離れてたですからね。 |
糸井 |
あの、試合の途中、
遠征の途中で釣りに行った話とかは? |
藤田 |
あれは高知キャンプの時。
だからもう、肉体労働派じゃなくなって……。 |
糸井 |
藤田さん、ひどいんだよ。
途中関係ないとこで降りて、釣りして(笑)。
信じられない。 |
藤田 |
遠征のバッグの中には必ずね、
これぐらいの竿を、入れとくんですよ。
伸ばしてもこれぐらいにしかなりませんけどね。
それでも、それを持っていって。
で、旅先では必ず土地の釣り道具屋行って、
そこの名物を探すんですよね。 |
糸井 |
あれ、釣りやってる間っていうのは、
水を見ただけでもう、ダメですよねー。 |
藤田 |
あれね、おかしなもんですねぇ。 |
糸井 |
今でも残ってますか?それは。 |
藤田 |
僕は、思い出してますよ。
さすがに水たまりには
竿出さなくなりましたけどね(笑)。 |
糸井 |
でも、ハマってる時には、
もう、水たまり見ただけでもう、なんか‥‥。 |
藤田 |
もう、燃えてくる。 |
糸井 |
(笑)「何がどういそうか?」って、見えますよねぇ。
どんな釣りでも、取り柄があるんですよね。 |
藤田 |
そうですね。ほんと。
台風の時にね、
川上さんが近所なもんだから、
雨がどしゃ降りなのに、
「オーイ」って声かけてきて。
「オイ、ちょっと川行こうか」っていって。 |
糸井 |
台風のときに(笑)。 |
藤田 |
山入っていったんですよ。
そしたら、ガンガン流れてんですよね。
釣っても釣れるわけない。
次の日に同じとこ行ったら、川じゃなかった。
溢れた水が、そこを流れていただけなんです。
特に、ぼくの場合は、メジナはよく釣りました。
よーく引きますから、鯛やなんかよりおもしろい。
グッグッグッグッ引きますよね……。
当たりでグーン!ときたときはね、
ちょっとやっぱり、ドキドキっとしますよ。 |
糸井 |
ぼくが釣りの中でいちばん好きなのは、
まぁ、いろいろな場面が好きなんですけど、
「当たり」なんですよ。 |
藤田 |
ええ。食いつく瞬間。いいもんですよ(笑)。 |
糸井 |
当たりのうれしさと言ったら……。
あの、ぼくは湖が多かったんですけども、
ひとりで誰もいないところに行って、
まわり誰もいないところでひとりで釣っている。
人間は僕しかいないですよね。
鳥が、まあ、チュンチュンいってて。
……それで、やってるときに、
最初に「プッ」てアタリが来た時に、
「もうひとり生き物がいた!」
っていう感じがするんですよねぇ。 |
藤田 |
(笑)あはははは。 |
糸井 |
「オレとおまえ」って(笑)。
もう、なんだろう?
友情ですよね、一種の(笑)。 |
藤田 |
そうなんです(笑)。 |
糸井 |
ねぇ……。
魚にとっては、悪いことしてんのにね。
なのに、ありがとう!って気分になんですよ。 |
|
(こんなように、ふたりの会話は続いていきました。
ここ数日の対談は、今回で、いったん終わりにします。
秋のイベントでの藤田さんの言葉を、おたのしみにね!) |