体温のある指導者・番外篇。
藤田元司さんと、チーム論や石の話など。

4 石と禅のことなど。
 

糸井 藤田さんは、趣味の「石」を、
やってらっしゃったんですか?
藤田 ええ。ぼくは、石、
やりはじめるの、早かったんです。
糸井 石って、最後に
行き着く趣味だっていうじゃないですか。
今もやってらっしゃるんですか?
藤田 石はもうね、床が抜けそうになって、
みんなあげました。少し残ってますけどね。
糸井 あれって、そもそも、
どういう趣味なんですか?
藤田 あれはね、あの、
もともとの石の形を変えて
削りだしていろいろかたちを作るのは、
あんまり、ぼくは好きじゃなくて、自然に、
いろんな姿になっている石が、好きですね。

例えば、自然にできた石が
富士山の形をしていたりね……。
それから、崖がこうあって、
そっから白い滝がダーッと落ちてる形の
いい石が、そのままあったり。
それから、険しい海の波が
かぶるような岩になってるようなものが
スッとあったり。

そういうものの、なんか、その姿を見る……。
糸井 見立てるんですか?
藤田 ええ。見立てていくんですよね。
自然にできてるわけ。
極端なのは、崖があって、白い滝があって、
その滝に橋が架かっていたりする。
糸井 自然石で。
藤田 はい。
「養老の滝」っていう名前で、
これは有名な石ですけど。
自然でそうなってるのがあるんですよ。
これが、おもしろいんです。

一日中じーっとこうやって、
霧吹きでシュッシュッて吹いて。
で、水を吹いてやると、
石が生きてくるんですよね。
ぬらしてやると。
糸井 ふーん。
藤田 それをね、全国歩いて集めるんですよ。
糸井 移動するのは、野球の仕事があるから、
逆にいいですね。
藤田 うん、行けるんです。
土地土地に、
そういう石の好きな人がいましてね(笑)。
その家に行ってね。
糸井 趣味多いですね、藤田さん(笑)。
藤田 いや、ぼくは、いろんなもんやって、
長続きしないですけどね。
それで、石をいちばん持ってたのは、
名古屋の人だったですけど。
旅館をひとつ潰して、部屋に
ぜんぶ、石をずーっと飾っておいて……。
あれを見ると、見事なもんですよ。
糸井 禅とか、
そういうのに繋がるような?
藤田 禅……ぼくは、川上さんに、
もう何回も、毎年誘われましたけど。
糸井 それは、ダメなんですか?
藤田 ああいうね、じーっとしてね、
座禅組むっていうのはねぇ(笑)。
ちょっと教わりましたけどね、座禅もね。
とてもじゃないけど、腰が持たないです。
糸井 そうですか。
藤田 あれは大変ですよ。
糸井 座禅って、
ものすごい長い時間、組むんですか?
藤田 朝、3時に起きるでしょう?
それから2時間、5時まで禅を組んで。
それから、6時に食事をするんですよね。
お粥で、お新香2枚ぐらいかなぁ?

音を立てて
お新香食べちゃいけないっていうんですよね。
で、それでこう、きれいに掃除をして。
それからまた、午前中2時間、座禅組んで。
それから、掃除したり運動したりとかして。
で、確か、1日の自由時間が
2時間ぐらいしかないんですよ。

あとは座禅。
それはまあ、座禅を組む修行の1ヶ月ですけども。
糸井 それで1ヶ月なんですか!
藤田 1ヶ月やるんです。
それも真冬にね、岐阜の山ん中の、
正眼寺っていうところでね、1ヶ月(笑)。
糸井 藤田さん、やられたんですか?
藤田 ちょっと行ったんです。
もう、アゴ出して帰ってきましたけどね。
糸井 え、1ヶ月のうちの……。
藤田 1ヶ月のうちの2、3日、行ってきました。
だから、禅とは言えないんですけど。
それで、終わると精進落としって言って、
郷へ行って、ドンチャン騒ぎして
帰ってくるんですけどねぇ。
糸井 よく精進落としっていう言いわけをしながら、
騒いでるのは、そっからきてるんですね。
藤田 もう、あれは、
あんな苦痛なところから解放された喜びでね、
やるんですよ(笑)。
糸井 現世に戻る、と。
藤田 そうです。
川上さんはもう、毎年、冬に
10年ぐらいは行きましたかね。
1ヶ月の修行の期間。冬場で……。

そこへ行って、それはもう痩せ細って、
厳しい顔して帰ってきますよね。
糸井 それは、
川上さんを変えたんでしょうかねぇ。
藤田 うん、やっぱり、変えたことは確かですね。
相当なナマグサだったですからね、あの人もね。
もうしたい放題ね、言いたい放題で、身勝手で、
ひどかったけど、そういうのは、消えましたから。
糸井 ふーん。
藤田 やっぱり、あれが効いてるんでしょう。
それと、物事のなんていうか、結論っていうか、
これが正しい正しくないっていう分かれ道を、
はっきり知ってくるんですね、禅を組むと……。
糸井 禅っていうのは、1回こう、
飢餓状態に置くってことですよね、
大きい意味ではね。
藤田 「こういう問題はどうか」
って持ちだされたときに、これが正しいよ、
っていう方向づけ、川上さんは早いですよね。
即座にできますから。
糸井 藤田さんは生臭いまんまでいられたんですか?
藤田 もう、ナマグサの頂点だったですね。わはははは。
  (日曜に、つづきます!)

2003-07-04-FRI


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