原丈人さんと初対面。 考古学から『21世紀の国富論』へ。ベンチャーキャピタリストの原丈人さんと 糸井重里が会いました。 最初、コンテンツにしようなんて 考えてなかったのですが そのときの話が、とにかくおもしろかったのでした。 考古学者のたまごから 世界が舞台のベンチャーキャピタリストへ。 一歩一歩、「現場」をたしかめながら歩んできた 原さんの「これまで」と「これから」。 そこにつらぬかれている「怒り」と「希望」。  ぜひどうぞ、というおすすめの気持ちで おとどけしたいと思います。 ぜんぶで10回、まるごと吸いこんでください。 あなたなら、どんな感想を持つでしょう。


第4回 20億円で、600億円を上回る効果を。
糸井 バングラデシュの教育・医療の改善事業を
非営利でやらない、というのは、
つまり、会社組織でやるということですか?

ええ、その事業に関しては、
ブラック・ネットという会社をつくりました。
糸井 それ、原さんの本(『21世紀の国富論』)のなかにも
ちょっと、出てきますね。
これ、株式会社とNGOのハイブリッドなんです。

で、事業をすすめるにあたっては、
安定はしてるんだけれど
値段が高くて性能の悪い大手企業の設備じゃなく、
小型で電力消費量も少ない
中小企業のつくっている先端技術を採用しているんです。
糸井 さっき、おっしゃっていた
学校と学校をつなぐブロードバンドに?

はい、そうです。

株式会社とNGOのハイブリッドという会社の形態と
その安価な先端技術のおかげで、
20億円以下でできるんですよ、そのプロジェクト。

日本のODA(政府開発援助)とか
UNDP(国連開発計画)で試算をしたら
だいたい600億円ぐらいかかるものが。
糸井 それは、安い‥‥というか、
効率的にお金を使っている、ということですね。
ええ、20億円で、600億円を使った場合と
同等以上の効果を出そうと。
糸井 それって、可能なんですか?
可能にするんです。

600億円を出せる慈善団体なんて、
どこにもないじゃないですか。
糸井 ええ、そうでしょうね。
だから、みんな
国の対外援助というかたちでやっている。

でも、腐敗しているバングラデシュの政権に
ODAなんかをやったら‥‥。
糸井 どれだけ、
政治家の私腹を肥やすことになるか、と。
そう。そこで、先端のテクノロジーを使うことによって、
プロジェクト全体のコストを下げ、
しかも、
対政府だと賄賂なんかで効率が悪いですから、
ぜんぶ、民間でやるというしくみにしたんです。
糸井 なるほど‥‥なるほど。
わたしたちは
このプロジェクトに実際に取り組んでいますが、
2015年には、20億円ぐらいの税引前利益を
出せる試算があるんです。

これをふつうの株式会社でやったら、
この20億円のうち、
法人税やら株主配当やらで
2億円ぐらいが内部留保になるわけですけど、
そこから
教育や医療の事業に使えるのは、せいぜい25%。
糸井 せいぜいといっても、
かなり高い率ですよね、それ。

利益の四分の一なわけですから。
おそらく、ふつうの企業だったら5%、
がんばっても、せいぜい8%でしょう。

25%も使うぞと言ったら、
もう「社長、大丈夫ですか!」ってくらい。

でも、2億円の25%ですから、5,000万円‥‥。
糸井 つまり、それじゃ少ないと。
そこで、さっき言った「ハイブリッド」なんです。

このブラック・ネット社の資本のうち、
6割をわれわれを含めた投資家、
あとの4割を「BRAC」っていう
バングラデシュのNGOに拠出してもらう。
糸井 つまり、合弁というかたちですよね。
BRACはNGOですから、株主がいない。

株主がいないってことは、
どれだけ利益を上げても、株式配当は必要ない。

で、NGOというのは、
その組織の理念のために利益を使うんだと、
定款に書かれてるわけです。
糸井 ああ‥‥。
で、この合弁会社が、2015年に
同じく20億円の利益を上げたとしたら?

BRAC側の持株比率が4割ですから、
20億×0.4で8億円のお金を
教育と医療に使えるんですよ、ぜんぶ。
糸井 さっきの5,000万円と比べたら
ぜんぜん、数字が変わってきますね。
だから、慈善活動では、やらないんです。

それは、その活動自体で利益を上げて、
その資金をつぎ込んで、
慈善活動がやってること以上のことを
やろうと思っているからです。

糸井 ほお‥‥。
ちなみに、このBRACというのは
「マイクロクレジット」を開発したNGOなんです。
糸井 ああ、あれは興味ありますね。

貧しい人びとに少額のお金を無担保で融資して、
自立を支援する金融のやりかたですよね。
貧しい人たちが自立するには、
ごくわずかな資金があればいいのです。
しかし、そういう人たちに
無担保で少額のお金を貸すような金融は
既存の考えではありえませんでした。

ところが、BRACの人たちは
その仕組みを考え、事業化し、
担保もないのに100%近い回収を可能にしました。

このマイクロクレジットと言えば、
バングラデシュの「グラミン銀行」が有名ですが、
彼らは、BRACからこのクレジットの方法を教わって
それを専業としただけなんですよ。
糸井 ああ、そうなんですか?
たしかノーベル賞、とりましたよね。
ええ、グラミン銀行がノーベル賞をもらって
BRACがもらわないのは、
さっきの「しゃべりかた教室」に行った人と
行ってない人のちがいですね。
糸井 なるほど‥‥。
でも、まったく新しい事業モデルですよね。
日本には、アメリカの「二番煎じ」をやってる人が
あまりにも多いでしょう。

でも、きちんとあたまで考えて、
その先のアイディアを出していかなければ
ダメだと思うんですよね。
糸井 なまじ、勉強しちゃってる人が多いんですね。
日本には。
アメリカの「二番煎じ」で
ビジネスをやっているような人は、
二流だよね、はっきり言って。
糸井 ‥‥なんか、途中から、
とつぜん、
怒ったように見えるところが、おもしろいですね。
だれ? わたし?
糸井 うん(笑)。

2007-11-23-FRI

(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN