第3回 原信太郎さん
糸井 しかし、原さんのお父さんって、
お話を聞くだに、エネルギッシュですよね‥‥。

いま、おいくつなんですか。
ことし、89歳になります。
糸井 うわー‥‥。
このあいだなんかもね、国連の仕事で、
南アフリカに行く機会があったんです。

で、そのことを父に告げたら、
モノクロ写真を1枚、渡された。
糸井 ほう。
そこに何が写っていたかというと、
1928年くらいの南アフリカの名機関車。
糸井 へぇー、80年も前の。

‥‥もしかして「探してこい」ですか!?
そう。
糸井 すごい話だなぁ(笑)。
でね、父に、
「その機関車の何を知りたいんですか」って
聞いたんですよ、出かける前に。

そしたら、
「こんど、ぜひ模型にしたいと思っている。
 ついては、
 まず、いろいろな角度からの写真がほしい。
 そして、唯一の手がかりである
 この写真はモノクロだから
 オリジナルがどんな色だったのか知りたい」と。
糸井 なるほど(笑)。
南アフリカの鉄道会社に問い合わせたんですけど、
そんな資料、もう残ってなかった。

でもね、廃車になった車輛が放置されている
操車場が、いくつかあるとわかったんです。
糸井 機関車の「墓場」みたいなところですか。
そう、そんなようなところがあるらしいから
ちょっと探してみますよと伝えたら、
父はもう、
矢も盾もたまらなくなったのか‥‥来ちゃった。
糸井 南アフリカに?
ええ。
糸井 あはははは! はぁー‥‥(笑)。
でも、ご存知かもしれませんけれど、
南アフリカって、
あんまり治安がよろしくないんです。

機関車の写真を撮るために
カメラを持った父を
ケープタウンなんかに連れてくと、
あっちこっちから、
ちょっとね、人相の悪そうな人たちが‥‥。
糸井 集まってきちゃうんだ。
父は父で、機関車に夢中だから、
まわりの状況が見えてない。
糸井 そりゃ、危険ですね。
なんとなーくね、近づいてくるんですよ。

だから、
「お父さん、ここは危ない。
 あっちからも、こっちからも、
 6人組、8人組、3人組が近づいてきてる‥‥
 逃げましょう!」と、
父を連れて、その場から離れたんですよ。

そしたら今度は
鉄道公安警察に捕まっちゃったんです。




鉄道の世界では名が知られた信太郎さんは、
世界各地を訪問の際には、実車の運転もこなしています。
糸井 なんでですか。
南アフリカって、鉄道が軍事機密なんです。
糸井 ああ‥‥そりゃ、軍事機密をパチパチ撮ってたら、
捕まるでしょうね‥‥。
父とわたし、いっしょに連行ですよ。
糸井 それで、どうしたんですか?
しかたがないから、外交官証を見せた。

そしたら、外交官を捕まえたら
タイヘンだってことになったらしく‥‥。
糸井 その身分があってよかったですねぇ!
ええ、もう、本当に助かりました(笑)。

でね、その場の責任者の人に
「あなたたち、何がしたいの?」と聞かれたから
父は「鉄道の写真が撮りたいだけだ」と。
糸井 「なぜだ?」とは問われないんですか。
まぁ‥‥「機関車好きなもので」と。
糸井 それで済んじゃうのもすごいなぁ(笑)。
ともかくね、このあたりは危ないから
警護の人間を
4人つけましょうと申し出てくれたんです。
糸井 真逆の待遇じゃないですか(笑)。
おかげで、ひととおり機関車の見学ができて、
ついでに車輛にも乗せてもらって‥‥。

父も、ほんとうに、大喜びでね。
糸井 そりゃあ、よかったですねぇ(笑)。

鉄道模型に目覚めた小学生のころから数えると
信太郎さんが製作した模型は1000両に及ぶ。
探している機関車は、まだ見つからないけれど
よかったよかったと思っていたら、
父が、次の駅あたりで「ここで降りる!」と。
糸井 こんどは何ですか(笑)。
次の駅のホームの端っこに停まっていた
機関車を見つけて、
「あれが見たいから、ここで降りる」と。

そしたら、警護の4人が真っ青になってね。

「ここは、もっとも危険な場所だから、
 警備4人じゃ、守りきれない」。
糸井 で、あきらめたんですか?
応援を呼んでもらったんです、4人。
糸井 ははは‥‥すごい(笑)。
しかもこんどは、警備「兵」がきた。
糸井 軍人ですか(笑)。
つまり「警察4人+軍人4人」で
父とわたしを、警備してくれたんです。
糸井 そんなに昔の話じゃないですよね、それ。
おととし。
糸井 えっと、ということは、お父さんは‥‥。
86歳。

鉄道を前にしたら、
20代の青年と同じになっちゃうんです。
糸井 イキイキしちゃうんだ(笑)。
そのときもね、警察・軍人の8人の警備員に
「あなた、息子さんでしょう?
 お父さんを止めてください!」って(笑)。
糸井 すごいエネルギーだなぁ‥‥。
で、目当ての機関車はあったんですか?
結局、そのあたりには、なかったんです。

そこで、次にありそうだと踏んでいた
ヨハネスブルグへ向かったんです。
<続きます!>

2008-07-28-MON


(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN