第4回 現場に行って、見つけ出す
糸井 1928年の「名機関車」を探して、
南アフリカのヨハネスブルグに。
ええ、このあたりだろうってところに
ようやくたどりついたと思ったら、
なんと800両も放置されてたんですよ。
糸井 機関車が?
そう。
糸井 機関車が800両‥‥って
だれも見たことないでしょうね、そんな景色。
途方に暮れました。
糸井 そうでしょう(笑)。
いくらね、父が若いといったって
当時、もう86歳ですから、
探しまわるのは、わたしの役目でして。
糸井 助手として(笑)。
で‥‥300両くらい見て回ったときに、
とうとう、見つけたんです。
糸井 その、1928年の機関車を?
はい。
糸井 あったんだ!

それにしても、モノクロ写真1枚から
本当に機関車を見つけ出しちゃうところが
原さん親子のすごさですよね‥‥。
そのあとはもう、大撮影大会がはじまって。

前からパチリ、うしろからパチリ、
仰向けになって車輛のお腹の部分をパチリ、
隣の機関車の屋根にのぼってパチリ‥‥。
糸井 原さんが、ですよね(笑)。
ええ、わたしが。
父は、横からいろいろ指示を出して。
糸井 エンジンの内部とか
メカニックの部分も調べるんですか?
まぁ、そうですね、可能なら。
糸井 それができない場合っていうのは、
なかの機械を類推するわけですか。
ああ‥‥それはね、たとえば
南アフリカじゃモーターなんかは作ってない。
たいてい、
スイスのメーカーのものだったりするんです。
糸井 あ、そうなんだ。
だからそのあたりは、経験と類推でなんとか。
少なくとも、型番さえわかれば大丈夫。
糸井 なるほどなぁ‥‥まるで探偵というか、
「現場に行って見つけ出す」というやりかたが、
きわめて考古学的ですよね。

将来有望な技術や才能に投資するという
ベンチャーキャピタリストとしての
原さんのお仕事にも、
そういう部分が、活きてるんでしょうね。
わたしのビジネスのスタートというのが
アメリカで立ち上げた
光ファイバーのベンチャー企業なんですけど、
思えばそれも‥‥。
糸井 鉄道模型から?
そう、父がね、模型の客車のなかに
照明として「豆電球」をつけてたんです。

でも、電球が切れちゃったら、
いちいち換えるの、めんどうくさいんですよ。

そこで、光ファイバーで代用することを
考えついたんです、大学生くらいのとき。
糸井 それで、光ファイバーのベンチャーを?
まぁ、直接的ではないにしても、
ひとつの発想のきっかけになったことは
たしかでしょうね。
糸井 ちなみに、お父さんは
そのアイディアについて、なんと‥‥?
「いいじゃないか!」と。
「やれ、やれ!」と(笑)。
糸井 でも、そのころから、
鉄道模型の経験は活かされてたんですね。
けっこう、いろんなところで便利なんです。
鉄道模型から学んだことって。
糸井 うん、原さんを見てると、そんな気がします。
モーターなんかは、もっと直接的な例ですよ。

模型に搭載する特別なモーターを
製造業者にお願いして作ってもらったんですけど、
その後、その技術が、業務用ビデオカメラなんかに
応用されるようになったんです。
糸井 いや、テクノロジーって、
そんなふうにして、発達するんでしょうね。
そういえば、1980年代ぐらいでしょうか、
ソニーの盛田会長が
芦屋の自宅に来てくださったときにも‥‥。
糸井 ええ、ええ。
父は、盛田さんに会うなり、
「模型の車輛のなかにセットできるような
 小型のビデオカメラを作ってほしい。
 まるで、わたしが運転してるかのような
 映像が撮れるようなやつ」って
いきなり初対面で、頼んでましたねぇ。
糸井 あはははは(笑)。
ま‥‥ともかくね、わたしが、
機械やらシステムやら電気やらに詳しいのは
鉄道模型のおかげなんですよ。
糸井 そういうことなんですね。
うん、だからね、
わたしは鉄道ファンではないけど‥‥。
糸井 なにを言ってるんですか(笑)。
いやいや、ほんとに。
糸井 じゃあ「鉄道模型ファン」なんですか?
やっぱり、鉄道模型についても、
考古学的な興味なのかもしれません。
糸井 やっぱりそこに、繋がってるんだ。
そう、少なくともわたしの意識としては、
鉄道ファンでも
鉄道模型ファンでも、ないんですよ。
糸井 だから、こんなに模型の話を聞いていても
ラクなのかもしれないですね。

何というか、ある「距離感」を感じるんで。
ただし、そこらへんの鉄道ファンよりは
詳しいかもしれない、鉄道に。
糸井 やっぱり(笑)。
たとえば、パンタグラフを見ただけで
どの国のどんな鉄道なのか、
百発百中で、当てられると思いますよ。
糸井 それだけ「見てきた」という
自信があるんですね。
今でもわたし、世界の鉄道の分布図を
正確に描けますし。
糸井 ‥‥これね、原さんのことを知らないと
「なに言ってんだ、そんなのウソだろ」なんて
思っちゃうんですよ、きっと。
お望みであれば、いつでも描きます。
糸井 いやいや、ぼくは、原さんという人を
知ってますから、信じますけど‥‥。

ただね、今日これまで聞いたお話だって、
スケールがデカすぎて、
もしも、ここが「飲み屋」だったら
信じてもらえなくても
しょうがないと思うんですよね(笑)。
あははは、そうかもしれない(笑)。
<続きます!>

2008-07-29-TUE


(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN