とんでもない、原丈人さん。 次の時代のヒントは、この人のなかに?  第2部 「コンピュータ以上に便利な道具」と 「新しい株式市場」をつくるという話

第6回 グッバイ・ロンドングッバイ・ニューヨーク

今、主流の理論経済学派が説明するのは
「会社は株主のものだ」ということ。
糸井 でも、原さんは、そうは思わない。
そう、会社がなすべきこととは、
株主の利益を最大化することじゃない。

会社というのは、従業員、顧客、
取引先、地域社会など、
関係する人すべてのものであって、
それらの人たちの利益に貢献すべきものなんです。
糸井 その考えを、理論化していくと。
そうです。アメリカ型の「金融資本主義」の
考えかたから脱け出して、
「会社は社会の公器」とする考えかたです。

わたしは、この考えを
「公益資本主義」と名付けました。
糸井 公益資本主義。
自社の人材、技術などのリソースを使って、
自分たちのやりたいことを成し、
社会に貢献し、みんなの役に立つこと。

それが、企業の第一の使命であって、
株主がうるおうのは、
その結果にすぎないんですよ、本来は。
糸井 順番がちがうんですよね。
で、そういう「会社の使命」を
実際の場面で果たしていくのは?

会社の従業員と、役員をふくめた社員ですよね。

だから、彼らこそ、会社にとって
もっとも大切な資産なんだってこともふくめて、
理論体系化しようと。
糸井 具体的には、研究所みたいなものを
つくるんですか?
アライアンス・フォーラム財団という
財団法人があるので、そこに研究チームを。
糸井 ほう。
しかも、かれらアングロ・サクソンの
ロジックを用いて、
対抗理論を構築しますから‥‥。
糸井 ああ、なるほど‥‥。

「自分たちの言葉」でやられちゃったら
無視しておくことができないわけですね。
そのとおりです。

そして、この公益資本主義という考えかたを、
学会や産業界で発表して、
賛同してくれる人たちの流れをつくる。
糸井 どのくらい、いそうなんですか?
耳を傾けてくれそうな人は。
アメリカ産業界のリーダーのなかには、
かなりいるでしょうね。

本当は、日本の産業界のリーダーが賛同し、
これを世界に広めるくらいに
持っていきたいのですが。
糸井 そうですか。
繰り返しになりますけれど、
わたしの考える「公益資本主義」では、
短期的な株主利益を最大化するんじゃなくて、
中・長期的な視野で
会社の事業や研究開発をとらえ、
会社は思いっきり儲けることに精を出し、
これを実現させてくれた社員全員に報い、
社会に貢献するということを重要視します。
糸井 はい。
でも、これまでの証券市場、つまり
ニューヨークやロンドンの証券取引所というのは
短期的な株価を上げるための場所。

つまり、
「今日投資したら、今日儲けたい人」のための
マーケットなんですよ。
糸井 アメリカ型の経済思想のもとでは、
そういう人が圧倒的多数ですよね。
他方で、世界全体に目を向けてみると
全資金量の2割ぐらいは、
10年後、20年後のリターンを想定した
投資のしかたを考えている。
糸井 つまり、短期的な利益を追っかけるんじゃなく。
そう、長期的な視野を持った人たちが
無視できない割合で、いるんです。

なのに、
そういう長期資金を取引できる市場って、
今はまだ、ないんですよ。
糸井 ‥‥まだ? つまり‥‥。
そう。

ニューヨークやロンドンが放棄した
2割の長期資金。

それを取り扱う金融市場を日本につくる。
糸井 原さんが‥‥ですか?
わたし。わたしの考えで、つくりたい。
糸井 まったく新しい市場を、つくる。
まぁ、自分で証券市場を創業するという意味では
ないですけどね。

でも今、ほとんどの人、つまり全世界の8割が
短期的な利益を最大化すべく、
ニューヨークやロンドンで過当競争してるんです。
糸井 ええ。
だからこそ、
長期的な視野を持った資金を扱う
市場をつくれば、
それはきわめて、ユニークなものになるでしょう。
糸井 しかも、この日本に。
そう、この日本に、世界の将来をつくるんです。

そして、この日本を、
アメリカやヨーロッパ、世界にとって
なくてはならない国に、したいんです。
糸井 いや‥‥原さんならやりかねないな。
たしかに今、アメリカやヨーロッパは
あらゆる場面で、成功しています。

でも、彼らの「ものマネ」をするんじゃなく、
彼らが目を向けないようなところで、
もっと、地球や人類にとって
意義あることをやりたいんですよ、わたしは。

‥‥大げさな言いかたをすれば、ね。
糸井 原さんの話って、
いつも、人に希望を抱かせますね。
それは、うれしいな。
糸井 原さんの考えでつくる「マーケット」か‥‥。

今、ジャスダックやら、東証マザーズやら、
ヘラクレスやらって、
新興市場が、どんどんできてる時代ですし、
不可能なことじゃないですよね。
今までの新興市場は、
アメリカの「ものマネ」が多かったんですが、
こんどは違います。
アメリカにまねてもらうものを、つくるんです。

‥‥実現可能性、ありそうだと思うでしょ?
糸井 あるコンセプトに基づいたマーケットを
つくるってことですもんね。
そのとおりです。

そして、そのマーケットは
「公益資本主義」という理論でつくるから、
そのマーケットで決められる「株価」も
「公益資本主義」の理論に基づく。
糸井 ということは‥‥。
つまり、そこは
「社会貢献度が高い企業であればあるほど
 株価が高くなる」という市場なんです。
糸井 なるほど。
そのようにして
資本主義の根本原理も進化させていかないと
サブプライムの次は排出権取引、
そしてその次も‥‥と、
金融バブルは延々と続いていくでしょう。
糸井 ‥‥うまくいきそうですか?
アメリカの産業界で話をしていても、
そんなマーケットをつくったら
乗り換えるよって人、たくさんいますね。
糸井 そうですか。
ええ。
糸井 ロンドンやニューヨークをあとにして。
そう、グッバイ・ロンドン、
グッバイ・ニューヨーク‥‥ってね。
<続きます!>

2008-09-16-TUE

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