糸井 |
会社というのものは
少なくとも「株主のものだけではない」と。 |
原 |
そうです。
たとえば、従業員の家族の健康まで
企業がケアするということと、
企業の業績とのあいだに、どんな関係があるのか、
数学的には説明しづらいですよね。 |
糸井 |
ええ、はい。 |
原 |
で、数学的にモデル化できるところだけを
取り出すのが、アメリカ型の理論経済学。
ですから、数式で説明できないような部分は、
「サイエンスじゃない」といって、
すべて、切り落としてしまうんですよ。 |
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糸井 |
なるほど。 |
原 |
そして「会社は株主のものである」ことだけは
しっかりとロジカルに説明する。
それが、
現在のアメリカの主流を占める経済学なんです。 |
糸井 |
逆に言うと、そういった説明しづらい部分を
ロジックでカバーできるところまで、
学問のほうが追いついてないとも言えますね。 |
原 |
そうそう、まさしくそのとおりなんです。
でも、アメリカという国では、
アメリカンドリームを成し遂げること、
つまり
「無一文からでも、
どれくらいのお金を稼げるか」が
ほとんど唯一の成功の証になっちゃってるから。 |
糸井 |
しかも、日本にいてさえも、
そういうアメリカ式の考えかたに対して、
「オレは納得しないぞ」って気分が、
なんだか押さえつけられちゃってますよね。 |
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原 |
ええ、残念ですけど、たしかにそうです。
ただね、たとえば『ビジネスウィーク』みたいな
アメリカのビジネス誌に登場してくるCEOの
トップ20人くらいの平均退職金って
たぶん、百何十億円くらいだと思いますけど‥‥。 |
糸井 |
平均で? |
原 |
ええ。
CEOの平均年収だって
一般社員の平均給与の400倍以上になります。 |
糸井 |
‥‥はぁ。 |
原 |
お金って、そんなに、要りますか? |
糸井 |
意味ないですよね。 |
原 |
そのとおり、意味がない。
もちろん、まったくなかったら困るけれど、
ある一定量を超えて持ってる意味などない。
でも、アメリカンドリームという価値観の
まっただ中にいる人には、そうは思えないんですよ。 |
糸井 |
そうなんでしょうけど‥‥。 |
原 |
今やアメリカでは「収入上位1%」の層によって、
「全収入の22%」が、占められています。 |
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糸井 |
つまり、ものすごい貧富の差だと。 |
原 |
そんな社会、どう考えても、ふつうじゃない。
そればかりか「会社は株主のものである」と
信じられているおかげで、
儲かったら儲かったで、
「株主をもっと儲けさせるため」に、
「従業員をクビ」にしたりしてるんですよ。 |
糸井 |
それって、短期的には
そういう結果をもたらすのかもしれませんけど‥‥
長期的に見たら、絶対まちがってますよね。 |
原 |
あるいはね、在庫リスクを抱えたり、
研究開発に時間がかかるような業種じゃなく、
そういうものの必要ない
「お金そのもの」で商売をやっている。 |
糸井 |
つまり「金融」ですね。 |
原 |
それがいちばん儲かる職業とされてる。 |
糸井 |
うん。 |
原 |
アメリカでは、金融こそがもっとも効率よく、
もっとも魅力のある商売。
そこで、ハーバードやスタンフォードの
ビジネススクールを出たら、
お金を稼ぐことだけに生きがいを感じるやつは
みんな、金融の世界へ入っていくんです。 |
糸井 |
なるほどなぁ。 |
原 |
アメリカ型の経済体制を指して
「金融資本主義」と呼ばれるゆえんです。
でもその結果、アメリカに何が起こったか?
世界に迷惑をかけたサブプライム問題、
そして金融バブルの崩壊という出来事。
その次は
排出権取引というバブルも待っているでしょう。
地球環境保護の流れを活用して
儲けのねたを作るのだから頭はいいですよね。
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糸井 |
うん、うん。 |
原 |
だから、21世紀のアメリカンドリームとは
「病」であると
ことあるごとに、主張していたんですけど‥‥。 |
糸井 |
聞く耳を持たない? |
原 |
いや、アタマにくるんでしょうね。
「おまえは共産主義者か!」と
言わんばかりに、怒りだすんです。 |
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糸井 |
はぁ‥‥。 |
原 |
イデオロギーの善し悪しは別にして、
アメリカで「共産主義者」と呼ばれることって、
ビジネスをやっていく上で、致命的。
もう、たいへんなハンデを背負わされる。 |
糸井 |
そうやって追放されていった人たちが
山ほどいますもんね。 |
原 |
だからわたしは、
共和党のつくった組織の名誉共同議長を
やってるんですよ。 |
糸井 |
ええ、はい、はい‥‥ああ、なるほど! |
原 |
つまり、反共保守派の政党である
アメリカ共和党の議長が
共産主義者であるわけないからね。 |
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糸井 |
‥‥すごいな。
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原 |
そういう効果がなかったら
別に要らないんですよ、あんな役職は。 |
糸井 |
そうか、そうか‥‥。
いくつもある原さんの肩書きを眺めながらね、
「なんだこれ?」って思ってたんですよ。
うーん、見事すぎて、気持ちいいくらいです。 |
原 |
わたし、共産主義者じゃないんですけどね‥‥って
いちいち説明するのも、めんどくさいでしょう。 |
糸井 |
アメリカ共和党
ビジネス・アドバイザリー・ボード評議会
名誉共同議長‥‥原丈人。 |
原 |
社会主義者、共産主義者のレッテルを
貼られないようにするため。
ただ、それだけの理由で、やってます。 |
糸井 |
恐れ入ったなぁ。 |
原 |
でもね、こうやって批判ばかりしていても
これもまた虚しいんで。 |
糸井 |
ええ。 |
原 |
株価の「時価総額」に汲々とするってことが
「どれだけ意味のないことか」を、
経済学的に証明してやろうと思ってるんです。 |
糸井 |
これから? |
原 |
若手の学者を集めて、研究資金を与えてね。 |
糸井 |
攻勢に転じるわけですね。 |
原 |
現在の主流経済学派が
理論のよりどころにしている数学を使って、
「時価総額」を至上とする経済思想が
どれだけまちがっているのかを、証明する。 |
糸井 |
それができたら、一変しますよね。 |
原 |
その仕事に、着手したんです。 |
糸井 |
おもしろい。 |
原 |
パラダイムがシフトしますよ。 |
糸井 |
最高。 |
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|
<続きます!> |