糸井 | 食べものの話というのは、 文化人類学みたいにしゃべるか、 「うまいうまくない」のグルメの話になるか、 どちらかなんです。 ところが吉本さんはただの「食いもの話」として書いて、 さわちゃん(=ハルノさんのこと)がさらに全部 「うまいうまくない」じゃないところで書き通した。 |
---|---|
ハルノ | 私の文は父の元ネタエッセイが あったからこそ書けるんだと思います。 漠然と食について書けと言われても無理。 |
糸井 | うーん、そうかもね。 |
ハルノ | 私、まぁ、料理が上手っていわれるんですが、 なんで上手なのか、わからないんですよ。 ネットのレシピの女王みたいな奥さんのように、 巻いたり、工夫したソースかけたり、 中に詰めものしたり、 そういうことは一切しないし。 |
糸井 | うん、してないね。 |
ハルノ | それでいて「めんつゆを使って簡単に」とか、 その手のこともしないわけです。 |
糸井 | しない、うん。 |
ハルノ | とにかく、手に入る、できる限りいい素材を ちゃんと手順通りにていねいにつくる。 それ以外なんにもしてない。 |
糸井 | 料理を習った憶えはないでしょ? |
ハルノ | ないですね。 ただ、どこかでなにかを食べて その味を憶えて再現するのが ちょっとだけ得意かもしれないです。 |
糸井 | それは‥‥両親にない要素ですね。 |
ハルノ | ない要素です。 妹も、ないんですよ。 |
糸井 | だけど妹は、食べものについて、 名言がひとつあるんだよ。 「どんなまずいものにも、うまいものの要素が入ってる」 っていうの。 たとえばまずい餃子の中には、 うまい餃子がちょっと入ってる。 |
ハルノ | たしかに当たってる(笑)。 まぁ、あの人もちゃんと味はわかるわけだし、 家庭の料理も、子どものお弁当も 自分でちゃんとつくります。 |
糸井 | 子どもというのは不思議だよね、 子どもというのはなんだったんだろう、 「お父さんがなにを失敗したか」を 研究することだったんでしょうか。 |
ハルノ | 父と母、両方の失敗から学んだんだと思います。 |
糸井 | きれいなだけの料理をつくる、食に興味のない母と、 すっごく食い意地は張ってるけれども、 それをうまくつくることの、まぁ、叶わぬ‥‥ |
ハルノ | そう(笑)。できない、父とね。 |
糸井 | どっちもまちがってる。 |
ハルノ | そう、まちがってる(笑)。 あのふたりも、お互いに 反面教師だったんでしょうね。 |
糸井 | 反面というか、側面教師みたいな感じだね。 さわちゃんの書いた、本の解説が、 吉本さんの文より長いかのような すごいボリュームなんだけど、 さわちゃんのお料理もこうですよね。 |
ハルノ | だいたいそんな感じですね。 |
糸井 | ね。もういいのかなと思ったら、 まだ出ますよ、みたいな。 |
ハルノ | (笑) |
糸井 | さわちゃんの料理、質が低くないから、 どこで終わってもいいんですよ。 だけど、みんな腹いっぱいになったときに 「いま半分ぐらい」とか言われると。 |
ハルノ | まぁ、往々にしてそうだったね。 |
糸井 | ひとつ憶えてることがあって‥‥ さわちゃんにリクエストして よくつくってもらったのが、 ささみでバターを巻くフライ。 |
ハルノ | はい、あの恐ろしいやつですね。 |
糸井 | 「カロリーというものはこれだ!」 というやつです。あれはキエフの料理? |
ハルノ | キエフですね。 常温のバターに、こまかぁく刻んだパセリを たっぷり入れて、ささみで挟むんですよ。 それをフライにします。 |
糸井 | ささみそのものは脂っけのない、 ぼそぼそしたものだから、 それをバターで埋め合わせるのはわかるんだけど、 入れる分量が、すごいよね。 |
ハルノ | そうですね。 ささみひとつにつき、何グラムくらいだろう? ま、かたまり3個分ぐらい挟むわけです。 |
糸井 | 噛んだときに、ジュースのように バターが出てくる。 それが油で揚げられてるわけですから。 |
ハルノ | 恐ろしい料理ですね。 |
糸井 | ぼくね、あれを4本ぐらい食べた憶えあるんですよ。 不思議と食えちゃうんだよねぇ。 |
ハルノ | あのパセリの感じのおかげで 意外と食べられるんです。 |
糸井 | そうなんですかね。‥‥食べたいなぁ。 |
ハルノ | (笑) |
糸井 | うまいんだよ。 さわちゃんに、どっかのところで ゴマすってつくってもらえばいいんだな。 あれは外側をカリンと香ばしくしないと おもしろくないんだよね。 |
ハルノ | そう。しかも、じぶじぶ揚げてたら 爆発して中からバターが出てきちゃうんですよ。 だから、やっぱり高温で、 意外なくらいサラッと揚げないといけません。 |
糸井 | (しみじみと)あれは、うまいんだよ。 バターだから、そのまま食っても ある程度の塩味があるし、 ソースかけてもうまいんだよね。 そんで、あいだあいだに野菜を食うの。 ささみフライだけじゃもたないから、 息つぎをするように野菜を食って、 また復活して「もう1本食おうかなぁ」って気分になる。 しかも、いちど噛むと、食べ残しできない。 バターが漏れてくるからね。 |
ハルノ | さっさと食べてもらわないと。 |
糸井 | さわちゃんは、煮物でも、 おおぶりにどかーんと持ってきて、 みんなに「食えないよ」と思わせるのに、 いつのまにかなくなるんです。 さわちゃん、ひとりで食事するときはどうなの? |
ハルノ | 自分ひとりだと、パン1枚で サンドイッチつくったりする。 私はね、もう食べられないんです。 最近とみに、ほんとに申し訳ないぐらい、食べられない。 だからつくるのも、自分のためだけだと嫌なんです。 ほんとに食欲ないときは、 出汁をちゃんととったにゅうめんでも食べたいなぁ、と 思うんだけど、 出汁をちゃんととるってなかなか大変なんですよね。 めんつゆでいいか、っていうとそれも嫌。 だから、結局食べないとか、そういうことになる。 |
糸井 | 出汁は、いい昆布を水の中にぽんと入れて、 冷蔵庫で24時間置くといいよ。 |
ハルノ | あ、出汁は私もそのやり方でとってます。 |
(つづきます) 2013-05-10-FRI 画:ハルノ宵子 |