もってけドロボー! 斉藤由多加の「頭のなか」。 |
第四回 スコア さて、第四回になりました 「中学生のためのゲームクリエーター講座」。 これまでは、スポーツからコンピューターゲームまで、 幅広い意味で「ゲーム」について見てきました。 今回からはすこし私の仕事である 「コンピューターゲーム」に 特化して話をすすめてゆきたいと思います。 ゲームとはかけひきのための言語である、 という話をしてきました。 また、よいゲームほど プレイヤーの人格が表れるという話もしました。 将棋やサッカーにおいてはかけひきの相手は明確です。 そこに表れる人格も誰のものか、もはっきりしています。 では、一人でプレイするコンピューターゲームは どうなのでしょうか? 「テトリス」や「マリオ」や「シムシティー」では 誰とかけひきしているのでしょうか? ここには誰の人格が投影されることになるのでしょうか?
ゲームをしていると、プレイヤーはあたかも、 自分の意思のまま、 自由に行動しているかのように感じます。 ことシミュレーションゲームでは顕著です。 では、こういうシミュレーション作品において クリエーターのメッセージは どこにあるというのでしょうか。 それは、実は、「枠組み」そのものに 込められているのです。 前回でいうと「道路」がそれにあたります。 私たちは日常道路を使用しています。 自由に利用しているが故に、 そこに誰かの意思が働いているなんてことを 考えることはありません。 しかし、水や空気のように当たり前すぎて 日常に気づく事はありませんが、 私たちの発想はこの枠組みによって 規定されているのです。 言い方を変えると、人は道を設計した人の 「見えざる手」に導かれているのです。 もうすこし現実的な話をしましょう。 税が変化すると人や企業の行動は著しく変化します。 「これから三年間はパソコンを買った支出は 全額経費として認めます」 なんて発表があると、税金が安くなるので 企業はその年にパソコンを積極的に買うようになります。 人はより得な方向に向かうのです。 企業も人も、自由に営んでいますが、 実は「全国的にIT化を促進しましょう」という国からの メッセージだったりします。 ゲームを通じてのメッセージの送り方は この「見えざる手」によるメッセージと同じです。
シムシティーというゲームは シミュレーションのお手本ともいうべき名作です。 自分の好きなように街をデザインして、 どれだけ人口が増えるかを試すゲームです。 プレイヤーの収入源は税金となります。 なにもない土地のどこに工業地帯を作るか、 どこを住宅地にするかはプレイヤー次第です。 お金がほしい人は工業地帯をどんどんと増やします。 すると工業地帯によって住環境が悪化し 人口は減ってゆきます。 悪化した住環境を改善するには・・・・? その答えは「公園をつくってやる」ことです。 直接的に利益にはつながらないが、 公園によってその地域はすこしづつうるおいはじめます。 人口が増えればやがて その資金は取り戻せますから。 このゲームのプレイヤーたちは やがて口々にこういい始めます。 「環境がわるくなったら公園を作ればいいのさ」と。 この言葉こそウィル・ライト (シムシティーの作者)からの メッセージなのです。 ゲームのクリエーターによるメッセージというのは、 実は画面内から発せられるものではありません。 プレイヤーが自分の意思で語るものです。 そのために彼らが働きかけるべきは プレイヤーの脳裏なのです。
どんなゲームにもスコアがあります。 人はより高いスコアへ向かって あの手この手とチャレンジしてきます。 自由気ままにプレイしながら、 いつしか自分の言葉で クリエーターのメッセージを語り始める、 それがゲーム表現です。 受験の丸暗記のように強引なやり方ではなく、 納得して自分の言葉で語るようになる、 このスマートさ故に私は このシミュレーションという分野に惹かれています。 ゲームのクリエーターが制定する「スコア」。 これこそが、このゲーム価値観の源泉となります。 むろん、この設定がユーザーに受け入れられないと、 ゲームというのはプレイすらしてもらえません。 プレイされないゲームは どんなメディアより無力なものです。 スコア選びからクリエーターの意思表示の 第一歩は始められるのです。
さて、冒頭にありました、 「プレイヤーは誰とかけひきしているのか」 という命題の答えです。 それはクリエーターではありません。 敵キャラでもありません。 それは自分自身なのです。 疑似世界というクリエーターの作り出した 手のひらの上で邁進しながら、 実はそこに映し出された自分自身と競っているのです。 ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ 私はテトリスが大好きなのですが、 最近攻略の方法がずいぶんと変わってきました。 長い棒を待っての「一発逆転」を 狙わなくなってきたのです。 そうさせているのは、 まぎれもなく40代になった自分自身だと思っています。 |
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2004-08-05-THU
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