もってけドロボー! 斉藤由多加の「頭のなか」。 |
大玉完成報告──その1 目玉のある風景 以前にご紹介した「大玉」の開発がやっとおわりました。 「本当に完成するのか」というお声も 各地からいただいていたようですが、 苦労の末に出来たタイトルというのは どれもかわいいものです。 こちらの読者の皆さんにも、 連載で期待させるだけさせておいて ずいぶんとお待たせいたしました。 2006年3月に世界同時期発売となりますので 乞うご期待!‥‥となったものですから、 日本語版がおわったと思ったら、 次は英語版、フランス語版など、 関係者一同音声認識と引き続き格闘しておる次第です。 あ、ちなみに各メーカーから 次世代機のうわさがちらちらと聞こえてくる昨今ですが、 この「大玉」は任天堂ゲームキューブで動くソフトです。 とてもいいマシンだと思っています。 はい、宣伝はここまで‥‥。
さて、このタイトル、完成するまでに ゲームデザイン面で実に紆余曲折がありました。 自分で企画しておいてこういうのも気が引けますが、 すごく企画者泣かせといいましょうか、 極めて難易度の高い仕事でした。 動きが複雑で企画書上で シミュレートできない要素が多すぎる。 「大玉」の工程を通じてゲームの教本が 一冊書けるのではないか、という皮肉が出るくらい、 チームは何度も大変な問題にぶつかったのですが、 今日は文章で説明しやすいその一つの例を ご紹介することにしましょう。 (「大玉」というタイトルそのものについての紹介は こちらをご覧ください) 写真は2004年5月にロスアンゼルスの展示会に 出展したときのバージョンです。 このタイトルというのは人格をもった兵の群集と 一人の武将(プレイヤー)との確執を 表現したかったのですが、 展示会場でのテスト展示を見ていて、 どうもなにかが足りない、という事実に気づいたのです。 わらわらと動く兵たちの行動はとてもよく出来ており、 ゲームもそれなりに面白いのですが、 いまひとつ散漫な印象が拭えない。 で「足りないものはなにか?」 ということになるわけですが、 今回のケースはゲームプレイの中心となる 「目玉」ではないか、と考えてみました。 あくまでこのゲームの主役は 「武将にふりまわされて犠牲になってゆく兵たち」 という企画主旨でしたから、 それ以上の要素を入れることを私は避けてきたのですが、 兵たちを主役にしようとするがあまり、 プレイの中心となる絶対的なアイテムを 欠いているのではないか、 その結果プレイヤーは 意識をどこに集中していいのか わからないのではないか、と。 もっと強い引力をもつアイテムを 視覚的に表現してプレイヤーを導けないか、 という点に問題を置いてみることにしたのです。 続いて次の写真は翌2005年の 展示会に出展したバージョンです。 このときのバージョンではゲームの中心に 「つりがね衆」という目玉をいれました。 画面中心で釣鐘をかついでいるのがそれで、 いわば兵たちの象徴です。
彼らを玉と兵で護衛しながらゴールまで導いてやる、 という設定にゲームを変更し、 付随する要素(兵の行動や地形、イベント)も 変えました。アメリカンフットボールでいう 「ボール」にあたるものを設定し それを軸としてプレイを明確に 表現しなおそうという試みでした。 中心となるアイテムを「つりがね」にした理由は、 以前にも書きましたが 玉でヒットするといい音がしてイベントが起きる、 つまり目玉としてより強力にさせるためです。 もうすでにこの「ほぼ日」では紹介済みですが、 今年のE3ではこの目玉を来場者に 視覚的に印象付けようと 本物の梵鐘を富山県高岡市の職人さんに オリジナルでつくってもらい、 ロスアンジェルスの会場まで輸送展示しました。 手短に書きましたがこれらのおかげで このゲームにはかなり強力な引力をもつアイテムが プレイヤーをひっばるようになり、 「ユニークな戦国ゲーム」は、 「おもしろいゲーム」(任天堂社内での評価表現) と変化してくれました。 見慣れた自分自身に不足している 要素を見つけるということは難しいことですが、 とても重要なことだといつも思います。 ゲームの開発というのは 多くのスタッフによって行われるもので、 鉄道の敷設ににて日々ゆっくりと進んでゆきます。 ですので方針変更の決断もタイミングを失いがちです。 こんなに巨大な実物の梵鐘をわざわざ作った理由は、 いま思うと自分自身を含む開発チーム全体の 意識を変える引力が必要だったからかもしれません‥‥。 (つづく) 追伸 本プロジェクトメンバーとして活躍いただいた 任天堂の柴田力さんが発売を待たずして 11月7日急逝されました。 スタッフ一同心よりご冥福をお祈り申し上げます。 |
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2005-11-11-FRI
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