SAITO
もってけドロボー!
斉藤由多加の「頭のなか」。

第1回 「シーマン2」スタートしております


「ほぼ日」読者の皆さん、ご無沙汰しております。
今回より、斉藤由多加の「もってけドロボー!」の
連載が再開します。
ほぼ10日間隔で、およそ10回ほどの連載として
書いてゆく予定です。
どうぞよろしくおねがいします。

ま、そもそも私の連載は断続的です。
その理由を先に書かせていただくと、
私のような商業ゲームクリエーターというのは、
日々ゲームのことばかり考えているわけでして、
そのアイデアの変遷ぶりを開発と並行して紹介するのが、
まちがえなく一番面白いに決まっている。
にもかかわらず、
それをリアルタイムに書くことができない。
いや、業務的にそれが許されない。
何年もかかるゲーム制作は、
途中でネタを明かしてしまうことがタブーなんですね。

過去は、そのネタ帳みたいなことを
写真とともに書いていたのですが、
最近は外に出ることがまるでない。
ほとんど半径2km以内にこもりがちです。
ですから、タイミングが来たときに、
新作についてまとめてどーんと書く形になってしまう。
残念ですが、いたしかたないと思っています。
読者のみなさんごめんなさい。

で、ご推察のとおり、
こうやって連載を再開するということは、
新作がいよいよ、という時期にさしかかっていることを
意味します。
正直まだ完成とは程遠い状況なんですけどね。

シーマン2は人面魚じゃありません。

さて、今回の新作とは「シーマン2」です。
この名を聞くと、たくさんの人が
「また人面魚のゲームか!?」と思われるでしょう。
僕はかなりあまのじゃくな人間なので、
人からそう思われると
逆にそれを裏切ってやろうとはりきってしまう性分です。
今年9月のゲームショウのセガブースで初公開した
「シーマン2」のサブタイトル名は
〜北京原人育成キット〜
となっておりますが、
その名のとおりまったく新しいことにチャレンジし‥‥、
そしてかなり苦労してきました。
いまもそれは続いています。
海外のメディアが「なんだ、こりゃ」と
報じたことも併せてご報告しますが‥‥。

▽私たちがゲームショー用に制作した紹介ビデオはコレです▽
(画面をクリックしてください)
(c)Vivarium Inc 1998-2006
 
「シーマン2」、広報によっては
昨年あたりから作り始めたかのように
発表されているタイトルなんですが、
本当のことをいうと本格的な開発にはいってから
かれこれ4年目になります。
人工発話の基礎開発をいれると7年です。
いうまでもなく、もっと早く発売される
予定のタイトルでした。
スタッフは疲弊し、予算はとうに底をつき、
会社はその次のタイトルの契約をして
資金つなぎをしている有様です。

▽現在開発が進んでいる育成キットの画面です▽
(c)Vivarium Inc 1998-2006

なんで、こんな困難なことに
挑んでしまったのだろう‥‥といつも後悔しますけれど、
今回のタイトルこそはその典型かもしれません。
自分でやっている会社のことだから
上司に怒られることはないけれど、
ずっしりときびしい現実が
中小企業の社長の肩にのしかかってきています。
今回の連載は、そんな苦労談を交えて、
「ゲーム新作の苦労」を語って生きたいと思っています。

なぜ苦労談から紹介するのか?
いまのゲームが、あたらしい機軸に
チャレンジしなくなったことが
同業者としてはそれがいささか淋しいからです。
他社のゲームは、
CGや有名タレントとのタイアップには予算をかけますが、
企画には保守的です。
実は、昨今のゲームはこの「企画」がとてもつまらない。

あたらしい企画を考えるというのは、
実に地味で忍耐とリスクが伴う仕事です。
私たちのように独立系の小さな会社は、
幸いなことに自分のすきなように
企画をすることができますが、
同時に、物理的な障害が多い。
それを含めて乗り越えなければならない。
ぜんぜんファンタジックではないけれど、
いやかっこわるいけれど、
ゲームづくりの楽しさ、モノづくりの楽しさは
そこにあるのではないか、と思う次第です。
それを紹介しよう、と決心したのが今回です。

これから(変わるかもしれませんが)
次のような構成でいこうと思っております。

第1回 スタートしております(今回です)
第2回 ヒットの続編はいやなもの
第3回 北京原人にした意味と理由
第4回 プレイ世界観について
第5回 音声認識のどこがいいのか
第6回 ゲームであること、ないこと
第7回 人の思考の限界と立体的ドキュメント
第8回 このゲームのウリはなにかというと
第9回 未定(状況による)
第10回 未定(状況による)

ということで、どうぞ、よろしく。

斉藤由多加さんへの激励や感想などは、
メールの表題に「齋藤由多加さんへ」と書いて、
postman@1101.comに送ってください。

2006-10-30-MON

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