もってけドロボー! 斉藤由多加の「頭のなか」。 |
第6回 テレビと御茶の間の間をとり持つ もう一つのキャラクター 宝田明さんという俳優さんがいらっしゃいます。 今回の「シーマン2」では、前回の細川俊之さんにかわり、 この宝田明さんにナレーションをお願いしました。
ご存知のとおり、分岐がたくさん発生するものですから、 宝田さんとご一緒させていただいた録音作業は、 相当数を数えます。 なぜこのゲームは、 オープニング・ナレーションを入れるのか、 というそもそもの話を今回はご紹介することにします。
話は1999年の春にさかのぼります。 東京ゲームショウで人面魚のソフトを初出展するにあたり、 なにか配布物を配ろうという話が 発売元のセガさんとの間で持ち上がりました。 そこでデモソフトにアイデアを巡らせてみた。 でもデモソフトのよくないところは、中途半端なこと。 映画の予告編に似て、映画館で観ているうちにはいいが、 自宅に持ち帰って何回も見ているうちに、 うんざりして飽きてしまう。 これでは何のために配布するのかわからない。 で、考えたのが、時限装置つきデモソフト。 期限を過ぎると「あと二日です」とか 「今日で最後ですよ」とか 「しつこいですね、あなた。 もういいかげん期限をすぎてますから‥‥」 なんて日替わりで喋ってくれる ソフトだったらカワイくていいな、と。 ま、付属マイクが未発売だったので、 このアイデアはボツになりましたが、 この「日替わりでしゃべってくれる」というアイデアは 内蔵時計を備えているゲーム機でないとできない。 Nintendo64の世代のゲーム機では できないことだったんです。 ドリームキャストは時計だけでなく 内部に自動でゲーム履歴を記録するという 不思議な仕様を備えていましたから、もってこいでした。 「あなた、バーチャファイターなんかやってたんですか?」とね。
任天堂製のゲームの特徴を一つ挙げるとすれば、 わかりにくいことを「教えてくれること」と、 うまく出来たら「誉めてくれること」です。 ゲームとは学習のプロセスととても似ています。 ですから「おしえる」と「誉める」こと、 これは、新しいゲームの文法を伝える上で とても大切なことです。 ところが、「水槽」や「無人島」という シーマンの育成閉鎖空間では、 その役を担うキャラがゲーム内にいない。 それで、先のデモのアイデアを オープニングにいれることにしたのです。 登場キャラとは別にナレーターを冒頭に登場させることで、 ゲームの進行はぐっと立体的になることが判明しました。 なにせ、ゲームは“架空”、ユーザーは“現実”、 という異空間にそれぞれいるわけです。 ナレーターはその間を取り持つことが出来る存在です。 ついでに、「教えてくれる」「誉めてくれる」に加えて、 「叱ってくれる」という要素も入れてみました。 ニュース番組のように、 「おはようございます。一日ぶりですね。 シーマンは餓死寸前ですが昨日はどうしていたのですか? 育成をサボってはいけませんよ。 さて今日は秋分の日です‥‥」 なんて挨拶セリフを、ユーザーの個別事情や ヒントを織り交ぜて始まるものなんて例がありませんでした。
この効果は絶大だったようです。 このオープニングはいろいろなテレビ番組で パロディのネタにされていました。 大御所俳優に生声で誉められたり叱られる、 という経験はとっても奇妙な体験だったということでしょう。 多くのゲームは声優さんに声をお願いすることが 多いようですが私はあえて「俳優さん」にお願いします。 この違いは何かというと、 私は細川俊之さん、大滝秀治さん、宝田明さん、 といった方々は存在が顔として知られている、 ということなんですね。 しかもユーザーとはひとまわりもふたまわりも年齢が上です。 これはどういうことかというと、 風貌を含めてその人となりがわかっているということ。 先生のように「怒られたい」とか、 たまには逆に「イジってみたい」と思うような方々なんです。 ご本人から叱られてしまいそうですが。
こんな舞台俳優の方々は、皆さん声がとてもステキです。 カツゼツがいいとかとそういうことではなくて、 間の息遣いとか、セリフのメロディー付けとかが 絶妙なんです。ですから私はいつも本録音とは別に、 作品の世界観を語っていただき CDなどにまとめるのですけれど、 今回も、宝田さんの朗読でCDを作ってみました。 「シーマン2」の予約特典として配布される プレミアムCDなのですが、 せっかくつくったものなのでその一部をご紹介します。 ■サンプル1「二つの木箱」 ■サンプル2「アダムとイブ」 こんな不思議な朗読CD、 もしお気に召していただけたなら、 どうぞこちらで手に入れてくださると光栄です!! (つづく) |
2007-10-02-TUE