メイキング・オブ・VOLUME(ボリューム)  アンリさんの手帳カバーができるまでの物語です。
 
プロローグ アンリさんとの再会。 ー青山にてー

※対談の中、話し手で出てくるフミコさんは、
 アンリさんの奥さんで、アンリさんの仕事の
 大事なパートナーでもあります。
 今回、通訳もご協力していただきました。
 そして、ユマくんは、6歳のむすこさんです。
 
〈このプロローグは、
 今年の6月に東京・青山で収録しました。〉

糸井 今日、ここで、
アンリさんにまたお会いできて、
ほんとうにうれしいです。
しかも、ほぼ日手帳のカバーを
作ってもらえることになって‥‥。
いつかできればいいなぁと、
遠い目標みたいに思っていたことが、
ほんとにできるんだ、って。
実は、自分で、ちょっとね、
呆気にとられてるんですよ(笑)。
フミコ 私がアンリに、糸井さんが、
アンリの手帳カバーができないかって、
おっしゃってくださってるって
話しを伝えたところ、
たぶん、何て言うんでしょ。
以前お会いしていなかったら、
きっと、ちょっとこういうお話しは、
難しかったと思うんですけど、
でも、一度お会いして、もうアンリも、
糸井さんのこと大ファンになって、
で、ああ、もう絶対やりたいって
いうふうに言ってたので。
糸井 そうですかー。うれしいなあ。
フミコ もうぜひ、絶対やりたい、やりたいって。
ほんとは、こういうのはやってないんですよね。
お店ではお断りし続けていた感じなので。
今までで初めてみたいです。
糸井 いや、今でもね、こうして打ち合わせしてても
信じられないくらい。
ありがとうございます。
アンリ その前に、ぼくのほうからお礼を言いたいです。
あの、去年、「ほぼ日刊イトイ新聞」で、
すごく素敵なインタビュー記事を載せていただいて。
もう、あの、ぼくはすごくそれがありがたかったです。
こんなちっぽけなぼくが、ああいう公の場に、
ぼくのちっぽけな言葉が載るってことは、
ありがたいことです。
糸井 譲り合っててもしょうがないんだけど(笑)。
そうですか、うれしいです。ぼくらも。
あのインタビュー記事は、
作品だけ見てたんじゃ分からないアンリさんのことを、
やっぱりもっと知りたくなるんで。
あの、何て言うんだろう、選手のこと知りたがる
サッカーファンみたいなものですから。
アンリ あと、日常品は、毎日毎日使うものなので。
やっぱり、ああ、この人が作ったんだ、
っていうものを使うことによって、
何かきっと、そのものを使うたびに、
そういうことが思い出されるっていうことは、
ぼくにとっては、それはうれしいことです。 
糸井 ああ、そうですね。
前にも言ったかもしれないんですけど、
1点だけ作る美術品と大量生産の品物と、
その間がずいぶん遠いんですね。
で、アンリさんの作るものっていうのは、
その間のところにあって、
美術品とか工芸品とか、「作品」っていうのに
近いものだと思うんです。
とても貴重なんだけれど、
それは、誰もが手に入れられるっていう‥‥もの。
こういうの、とってもいい時代だなあと思うんです。
それをお手伝いできたら、
すごくうれしいです。
アンリ あの、こういうような、何て言うんでしょう、
物と物とのコミュニケーションって
いうことかもしれないんですけれども、
やっぱりそれが、ぼくにとっては、
心と心のコミュニケーションに
変化していくっていうことが、とても大切です。
糸井 それがよく伝わってきます。
1つだけ、一生に1つだけ作ったものじゃ、
1人にしか届かないんで、
そういうのもぼく、ちょっと残念なんですよ。
アンリ あと、見てるだけの「モノ」と、やっぱり、
使って分かるっていう「モノ」の違い、
というのは、あります。
糸井 あの、みんなが、
便利か、便利じゃないか、
っていうことばっかり、
ものを作るときに言うじゃないですか。
で、正直に言って、
アンリさんが作るものは
便利じゃないと(笑)。
フミコ もう確かに、それは(笑)。
糸井 でも、そんなことを忘れさせてくれるのが、
アンリさんの力だと思うんですよね。
アンリ じゃ、そのメッセージを受け取らさせて
いただきましたので、もっと、次から、
もっともっと不便な物を。(笑)
糸井 それは困るなー(笑)。
アンリ それは冗談で、でも、それを励みに
もっと便利な物も作っていきます。
最後に締めてますから。
糸井 みんな、たとえばブレスレットが、
なにかにとって都合がいいかっていったら
なにも便利なんかないんだし、
ネックレスだって、それでなにか、
特別いいことがあるかどうかってことも、
分かりゃしないんだけど、
ほしいし、買うじゃないですか。
フミコ はい。
糸井 それはもう、宗教とかにも近いようなもので、
心の欲しがるものだから、
体が欲しがるものと違うんだと思うんですよね。
その、心が欲しがるものを、
アンリさんは作ってるんだと思うんですよね。
アンリ エネルギーをいただける言葉です。
糸井 そうですか。それが枯渇してないっていう、
枯れてないのが、同い年としてもうれしいんですよ。

▲突然、麻の袋から、何かを出そうとするアンリさん。

▲中から出てきたのは、なんとアンリ・シリーズの手帳カバー!
糸井 何だ、何だ。おー、ほーほーほー、おおー。



おー、見ちゃうねえ。
あー、あ、もうあったんですか!
ほぼ日 知りませんでした。
糸井 へえー(笑)、そうだよね。
こういうことになるんだ‥‥そうかぁ。
アンリ そうですね。
糸井 いやあ、分かるなあ、
つくってる気持ちが分かるんだよね(笑)。
面白いなあ。わあー。
フミコ 5色のカラーカード、で、こちらが刺繍です。




糸井 ああ、そう、いやあ、色、どれもいいね。
ああ、刺繍もかわいいね。
うれしいなあ。どうも。
フミコ 「CUOIO(クオイオ)」っていうのは、
イタリア語で、革っていう意味なんです。
糸井 あ、やっぱり。
ここ、バタフライストッパーもしおりも
同じ、共革なんですよね。
だから、彼(カバー)は同じ人なんですよね、全部。
同じ人っていうか、同じ牛なんですよね。
アンリ 同じ子ですね。(笑)
糸井 同じ子。そういうことだと思うんだ。
この糸は違うあれなんですね?
アンリ 糸はこれは麻糸ですね。
麻糸に蝋引きしたものです。
糸井 あ、麻でしたか。
アンリ これはアンティークです。
トンボ玉と言って、練りガラスで、
昔からあるものです。
糸井 へぇー。
アンリ トンボ玉はアンティークなので、
1個1個が違う色になります。
糸井 そうですね。
いや、これ、実は、
ぼくらが普段作ってる手帳のカバーと
矛盾するんですよ、ほんとはね。
でも、これがね、バーンと人の心を
かっさらっていっちゃうんですよ、嵐のように。
面白いなあ、こういう仕事はいいね。
人がぱっと触って喜ぶんだもんな。
これは、VOLUME?
アンリ 製品名です。この手帳カバーの名前です。
VOLUME(ボリューム)っていうのは、
フランス語の俗語で、
「本」ていう意味でもあります。
糸井 俗語で、ボリュームって本なんですか。
意表をついたね。へえ。

(手帳本体を)はめてもいい?
アンリ はい、どうぞ。
糸井 テスト。テスト、テスト。





おー!
ほぼ日 わあー。感動します。かわいい。
アンリ カワイイ。(日本語で)
糸井 かわいいは覚えてる。
いや、かわいい。ほんとにかわいい。
イタリア語で何て言うんだろうね、
その、かわいいっていうのは。
こういうときのかわいいは。
フミコ えーっと、かわいい、いっぱいありますよね。
カリーナ、そう、カリーナ。
アンリ ベッロ。
フミコ フランス語だったら、セ・ジョリーノ、ジョリ。
いっぱいあるんですよね。かわいいっていうのは。
セ・ボン、セ・ボンていうのも。
もうすごい、すーっごいいっぱいありますね。
糸井 それをだから全部、「かわいい」で。
フミコ 「かわいい」の他にありますか?
糸井 「かわいい」はね、もう何でも入れちゃうから、
いい言葉なの。中にいっぱい含んでるから、
おっきいんだよね。
アンリ あ、あと、ぼくたちのように、
この革は、年が経てば経つほど
とーってもいい味が出てきます、と。
若いうちは全然よくないかもしれないけど、
年をとると、とても素敵な、
いい年のとり方になりますので。
その人の癖によって光沢が出てきたり、
キズが出てきたりっていうのがあります。
糸井 へえー、たまんないね。
これ、社内が欲しがるのが困りそうだなぁ(笑)。
いや、どうもありがとうございました。
アンリ ありがとうございました。
糸井 いや、ほんとに、イタリアに行ける日を。
さぞかし明るい場所でしょう。
アンリ もう大変光栄ですので、ぜひいらしてください。
糸井 いかにも明るそうなイメージがあるんで。
フミコ 明るいですよ、イタリアは。
糸井 それを見たいなあと思ってて。
アンリ ぜひ、いらしてください。
糸井 ありがとうございます。
じゃ、今度は、イタリアで(笑)。



〈つづきます〉
 
協力:Henry Cuir 青山本店
2009-11-30-MON
 
(c) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN