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▲突然、セーターをめくって
「ほぼ日ハラマキ」を見せるアンリさん。 |
糸井 |
あ、それ、見たことあるよ(笑)。
もう一回見せて、あの人担当だから。
はははは。
風邪ひいてるしね、びっくりした。
ぼくらの仕事の中で、
アンリさんの、そういう隠さない驚きを
感じたケースが一回あって、それは、
「シルク・ドゥ・ソレイユ」っていう
サーカスのグループなんです。
彼らの練習風景から、工場から、
全部見学したんですけど、
まったく隠さないんですよ。
どこで、だれに話を訊いてもいいですよ、
っていう取材だった。
これは、「おまえにできるはずない」っていう
自信でもあるんですね。 |
アンリ |
ファンタスティコ(すばらしい)!
例えば、ここ、ヴィジェーヴァノというところは、
靴の職人ですとか、手工芸の職人たちが
いっぱいいるんですけど、
ぼくがまずショックを受けたのは、
やはり、みんな、上手な職人さんですとか、
そういう人たちは、自分のテクニックを隠す。
で、ぼくは、最初のころ、
それにショックを受けたことを覚えてます。
だから、昔からのそういう職人は、
ぼくとは、まるっきり正反対の文化を
持っているのかもしれません。 |
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糸井 |
例えば、サーカスの技術なんかでも、
クラウン、ピエロですね、
ピエロの練習っていうのを覗いたりすると、
帽子を落として拾うってことだけを、
ずーっとやってるんですね。
彼が、何してるかっていうのを
言葉で説明することは簡単にできるんだけど、
身体で、帽子を落として拾うっていうのを
おもしろく表現するためには、言葉じゃない。
身体しか知らないことがあるから、
できるまでくりかえすんです。
こういうことでしょ、って、わかっても、
誰もできないことなんですよ。 |
アンリ |
たしかに。
それに、また、おかしく人を笑わせるってことは
繊細な人しかできないので、
やはり、そういう積み重ねが必要なんでしょうね。 |
糸井 |
似たような話ばっかり、
ぐるぐる回ってるんですけど。
まるごと全部を発表しても、誰にも真似できないもの。
そういうものを大事にしたい、と思うんです。
その一方で、ぼくらのやってる連載の中で、
「LIFE」っていう料理のコンテンツがあるんですが、
それは、このレシピの数字の通りにつくれば
おんなじものができますよ、っていうことを、
紹介するページなんです。
それは、じぶんなりの加減をしないでください。
全部このレシピ通りにつくって、
あとで、またつくるときにでも、
自分なりに直してください、って。
この通りにつくったら、必ずおいしくできます、
っていうふうにしてるんですね。
一見、矛盾するようだけど、
作る側と、食べる側、使う側が、
両方が幸せになるようにって考えたときには、
真似できないものと、真似してもらうものと、
両方の仕事が、ぼくらの中にあるんで、
おんなじ「ほぼ日」の中でも、
真逆なんだよなぁって、思いながら、
今日はここで、お話を聞いてるんです(笑)。 |
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アンリ |
たしかに、たしかに。
とてもいい考えだと思います。
なぜかっていうと、最初はレシピを真似して、
そのあとに、これがしょっぱいから、
ぼくは甘いのがいいっていうことで、
それぞれの好みっていうことを発見することも
いいことだと思うので。 |
糸井 |
アンリさんの、職人さんの育て方も
そんなようなことなのかな。 |
アンリ |
それはもちろんそうです。
ぼくは、専門の学校にも行ったことがなくて、
鞄の職人さんになる学校に行ったこともないし、
はさみの持ち方ですとか、
針を使っての縫い方っていうのも
学校に行ってならったことはないです。 |
糸井 |
あー、そうか。 |
アンリ |
工場の中に、
アレッシオという男の子が働いているんですけど、
その子のご両親っていうのは、
小さな靴の工場を持っています。
やはり、ヴィジェーヴァノの家庭っていうのは、
そういうふうに、親から伝わっていく家業、
みたいな文化があるので、たぶん、
そういう人たちから、ぼくは学ぶこともあります。 |
▲革職人二代目のアレッシオ |
糸井 |
逆にね。うーんなるほど‥‥。
話題をちょっと手帳に戻すと、
この手帳っていうのは、
見た目、ブックのようだけど、そうじゃないでしょう。
でも、1年間使うと
その人だけの一冊の本になるんですよね。
1年つきあうと、翌年には、自分のことを書いた、
「自分の本」ができてるっていうことになってる。
その本が、アンリさんのカバーと一緒になるわけでしょう。
もう、とてもたのしみです。 |
アンリ |
この「ほぼ日」の手帳は、やはり、365日なので、
日常使うものです。 |
糸井 |
うん、そうです。 |
アンリ |
例えば、日記のように、
今日は、あ、バター買うの忘れたから
主人に怒られる、ってことを書いてもいいし、
あと、600枚、ひとつひとつちがうので、
みんなそれぞれ中身もひとつひとつちがう
っていうのが、とてもいい「結婚」のようです。 |
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糸井 |
「結婚」ですね。
その意味でも、だから、
「VOLUME」
(ボリューム:書物の「巻」「冊」などの意)
というタイトルがとっても
びったりだなぁと。 |
アンリ |
魔法の言葉だと思います。
「VOLUME」は。
言葉の発音も、飛ぶ感じで。 |
糸井 |
ああ、ヴォリュウ〜ム。 |
一同 |
(笑) |
糸井 |
いつ、思いついたんですか? |
アンリ |
もうこの名前をつけないといけないってときに。 |
糸井 |
最後に。 |
アンリ |
ひらめいた。 |
糸井 |
最後ですか。 |
アンリ |
できあがってからです。 |
糸井 |
できあがってから、ね。
やっぱりねぇ。 |
アンリ |
もちろん、そんな、
ペッ、って考えたんじゃなくて、 |
糸井 |
ペッ、でもいいってば(笑)。 |
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アンリ |
じゃなくて、考えて、
どれがいいだろう、どれがいいだろうって
考えて、もうこれしかないっていう。 |
糸井 |
うん、いい名前だよね。
とてもいい名前だと思います。
ぼくはそういう仕事をしてたこともあるんで、
名前をつけたりするような(笑)。
力強くて。
なんて言うんだろう、動きも感じるし、
そして知的です。 |
アンリ |
チェルトベーネ。 |
糸井 |
コピーライターになれると思います(笑)。 |
アンリ |
はははは。 |
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糸井 |
コピー、教えられないですが、なかなか(笑)。
言葉がちがうからね。
いやー、ありがとうございました。
きっと、これを手にした人たちが
みんな、この話と共に喜ぶでしょう。 |
アンリ |
もちろんそうでありたいですけど。
でも、ぼくの方がお礼を言いたいです。
糸井さんはじめみなさん、
こちらまで、遠いイタリアの田舎まで、
いらっしゃっていただいて、
ぼくたちの工房を見て、
感激していただけるってことは、
ぼくにとっては、それが一番ありがたいと
思っています。
〈つづきます。〉 |
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