堀尾 |
と、きょう用意した模型はこの3つでしたが、
大丈夫でしょうか。 |
── |
はい、たいへんおもしろかったです。
ありがとうございました。
‥‥で、あの、堀尾さん、
舞台美術のことで質問したかったことが
あったのですが。 |
堀尾 |
はい、なんでしょう? |
── |
三谷幸喜さんの『決闘! 高田馬場』を観たとき、
あ、あの作品も堀尾さんですよね。 |
堀尾 |
ご覧になりましたか。
そうですね、あれも舞台美術をやりました。 |
── |
あのお芝居の中で、
こう、なんと言ったらいいんでしょう‥‥
幕が、舞台を左右に移動する幕が
随所に出てきましたよね。 |
堀尾 |
はい、使いました。 |
── |
読者に伝えるのがちょっと難しいんですが、
どう言ったらいいんでしょう‥‥。 |
堀尾 |
つまり‥‥ちょっとみなさんの名刺を
使わせていただきますね。
こう、舞台の右から左に幕がサーッと通り抜けて、
幕が抜けると、
その裏に役者がいて芝居が続いていくという。 |
── |
そうです、それです。
それがスピーディーに何度も繰り返されて、
どんどん場面が変わっていくんですよね。 |
堀尾 |
これは、「ブレヒト幕」っていうんです。 |
── |
ああ、そういう用語があるんですね。
ブレヒトという人が考案したんでしょうか。 |
堀尾 |
そうですね、
ベルトルト・ブレヒトという
ドイツの演出家がやりはじめたと言われてます。 |
── |
わりと昔からあった手法だと。 |
堀尾 |
そうですね、これまでもいろんなかたちで
使われてきた演出だと思います。 |
── |
(笑)三谷さんに、これを提案されたわけですね。 |
堀尾 |
たいてい、提案は同意されますから(笑)。
三谷さんだけじゃなく、野田秀樹さんも
これで釣れてるんです。
「釣る」ということばは
あまり良い響きではないですね。
すみません、野田さん、三谷さん。 |
── |
野田さんもですか‥‥
あ、言われてみれば、
『罪と罰』では同じ原理の幕があったような。 |
堀尾 |
そうそう、あったでしょ?
あれもブレヒト幕のひとつです。
野田さんの場合はメタモルフォーゼというね、
物を見なして、別の物に変身させるわけですから、
ブレヒト幕が動いて、生きてるようになるんです。 |
── |
三谷さんの舞台とはぜんぜんちがう雰囲気で。 |
堀尾 |
はい、演出家さんは、進化させるのです。
あるいはいろいろと試して「思い込む」んですね。 |
── |
思い込む。 |
堀尾 |
思い込みの芸術ですから、舞台は。
ぼくと演出家が「夢」を見ようと言い、
演出家は自分の演出を「そう見える」と思い込み、
最終的にはお客さんもその舞台を観て、
ここちよく思い込んで騙される、と。 |
── |
なるほど‥‥ここちよく騙される。
ところで堀尾さんは、
年に何作ぐらい舞台美術を手がけるんですか? |
堀尾 |
そうですね、新作は10本くらいでしょうか。
再演が5本くらい。 |
── |
年に15本。
月に1本以上ですね。
棚には舞台の図面があんなにたくさん‥‥。
このお部屋では、主に図面を?
|
堀尾 |
そうですね、
あ、じゃあ、作業場のほうにもいってみます?
|
── |
え? いいんですか? |
堀尾 |
かまいませんよ、散らかってますけど。
行きましょう(立ち上がる)。 |
── |
はい(ついていく)。
あ、『キル』の図面が‥‥。
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堀尾 |
作業は1階なので(移動しつつ)。
階段気をつけてください。 |
── |
はい(移動しつつ)、
あ、朝日舞台芸術賞の賞状が‥‥。
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堀尾 |
(扉を開け)こんなところなんです。
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── |
わああああ‥‥。
まさに、現場ですねえ。 |
堀尾 |
とっちらかってるでしょう?
下におりましょう(移動)。 |
── |
はい(ついていく)。 |
堀尾 |
まあ、こんなね、普通の作業場ですよ。
|
── |
はああ〜、ここで。
こういう場所で。
こうした使い込まれた道具で。
あのすごい舞台がつくられていたのですね。 |
堀尾 |
そんな、特別なものはべつにないですが。 |
── |
きょうはたくさんの貴重なものを、
ほんとうにありがとうございました。 |
堀尾 |
こんなんでよかったですかね(笑)。 |
── |
もちろんです。
舞台の裏側をこういうかたちで紹介できて、
読者もよろこんでくれると思います。 |
堀尾 |
そうですか。
それならうれしいんですが。 |
── |
これからは、舞台を観るときには
チラシやパンフレットの「舞台美術」を
注意して見ようと思いました。
堀尾幸男さんのお名前を探すようにします。 |
堀尾 |
ありがとうございます(笑)。 |
── |
ちなみに、この先の大きな舞台は何か? |
堀尾 |
夏に『五右衛門ロック』があります。 |
── |
あ、新感線の!
『五右衛門ロック』はぼくらも紹介したんです。
制作発表にいってきました。 |
堀尾 |
そうでしたか。 |
── |
かならず観にいきますので、
舞台美術、たのしみにしています。
あの‥‥思いきり、騙してください! |
堀尾 |
(笑)わかりました。
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(おわり) |