堀尾 |
きょうお見せするように用意したのは、
あと、これですね。
オペラの舞台の模型。
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── |
なるほどお‥‥。
やはり野田さんの舞台美術とは
かなり雰囲気がちがいますね |
堀尾 |
ええ。‥‥でも、こういう、オペラにはみなさん、
あまり興味がないかもしれませんね(笑)。 |
── |
いやいや、そんなことは。
たしかにぼくらは機会がなくて、
本格的なオペラを観たことはありません。
でも、興味はあります。 |
堀尾 |
そうですか。
では、簡単に説明しましょう。
これは、ワーグナーの
『さまよえるオランダ人』という作品です。 |
── |
ワーグナー。
たしかドイツの人ですよね。 |
堀尾 |
ええ、ドイツの有名な作曲家です。 |
── |
この舞台も新国立劇場で? |
堀尾 |
はい。
派手なところからお見せしますね。
この模型、電動で動くんです。
いきますよ。
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── |
はい。 |
堀尾 |
(スイッチを押す)
ジジジ‥‥。 |
── |
おお。
ジジジジジ‥‥。
おおお。
ジジジジジ、ジ。 |
堀尾 |
ラストシーンにこうやって、
三角形の背景が持ち上がって──
三角形は船の舳先(へさき)です。
その船首に女性が立ち、
舞台の上空(たかみ)から奈落(ならく)まで
一気に船ごと沈むという演出。
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── |
やはり、この人形が定規になりますね。
舞台がいかに大きいかがわかります。 |
堀尾 |
そう、わかるんですよ、いろいろ。
たとえばこの舞台のかたちは
プロセニアムアーチというんですけど‥‥。
あ、プロセニアムは額縁という意味です。
円形とかのステージじゃなくて、
額縁の絵のように切り取ってみせる
舞台のつくりかたで。
‥‥なんだか、どんどん専門的になってますね。
まあいいや、話しちゃえ(笑)。 |
── |
はい、ぜひ(笑)。 |
堀尾 |
プロセニアムだと、客席から見きれてしまうものが
いろいろ出てくるんですよ。
それが模型で見るとよくわかる。
ああ、ここは見えちゃうから文字(もんじ)で
隠さないとだめだ、とか。
文字っていうのは、隠すための布ですね。 |
── |
なるほど。 |
堀尾 |
とまあ、模型というのは、
そういうのを確認するためにっていうのと
あとはやっぱり、演出家を騙すために(笑)。 |
── |
(笑) |
堀尾 |
やりたいことがあるときには、
「ここがこうなるから大丈夫」と言えるし、
やりたくないことがあるときには、
「やめましょう」って言うんじゃなくて、
模型を見せて、
「ぼくはべつにやりたくなくはない。
あなたのためには、むしろやりたい。
でも、ほらね、物理的に無理なんですよ」って、
そのへんは、年取るとうまくなるんです(笑)。 |
── |
(笑)でも、そうはおっしゃいますが、
この『さまよえるオランダ人』も、
かなりいろいろな装置をつくられてますよね。 |
堀尾 |
それはもちろん。
基本的に作るのは好きですから。 |
── |
下にも装置がありますが。
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堀尾 |
この下の部分は奈落です
客席からは見えない部分で。
そこに大道具が置いてあるんです。 |
── |
ならくの底の、「ならく」ですね。
丸い大道具は、船の舵(かじ)でしょうか? |
堀尾 |
『さまよえるオランダ人』は、
幽霊船が海をさまよう話なので、
舵は道具として出てきます。
でも、下にある大道具は、糸車なんですよ。
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── |
ほんとだ。
形は似てますが、これは糸を紡ぐ紡ぎ車ですね。 |
堀尾 |
ひとつだけ、舵の形をした糸車があるでしょう。 |
── |
はい、あります。 |
堀尾 |
ここがまた嘘でして、騙すんですけど(笑)、
ラストに船が来ると、
こう、上からこの、家の枠がおりてくるんです。
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── |
おおー。 |
堀尾 |
そうすると、舞台が「部屋」になる。
そこに糸車が並んで、役者たちが回すんですね。
つまり、
みんながそれぞれの人生を歩んでいるんだ、
それぞれが自分の船の舵をとって、
人生を紡いでいくんだ、と。
まあ、そういうこじつけをやるんですよ(笑)。 |
── |
なるほどー。 |
堀尾 |
このくらいでやめときましょう。
オペラの話になると、長くなるんで(笑)。
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── |
興味深いお話でした。
ぼくらがオペラを観たことがあれば
もっと深いお話ができたのでしょうが‥‥。 |
堀尾 |
ちょっと敷き居が高いですからね、オペラは。
入場料も高いし。 |
── |
はい、正直たしかに、
そういう印象はあるかもしれません。 |
堀尾 |
弁護士とか建築家とか教諭とか、
いわゆるインテリの芸術っていうイメージが
ありますよね。 |
── |
ええ。 |
堀尾 |
でもぼくは、豆腐屋の息子ですが
オペラを観ますし、創ってもいます。 |
── |
なるほど、
本来はだれでも楽しめる舞台だから、
もっと気軽にオペラを観たほうがいいと。 |
堀尾 |
いや、
オペラは、ちょっと勉強して観たほうがいいです。
古典のものは歌舞伎なんかでもそうですが、
様式美が入るので、その基本とか、
おおまかな物語の流れとか、
そういうのを知ってると、
「ああ、ここはこう演出したのか」という
たのしみがあるんです。 |
── |
それを知らないと、
「きれいだなー」で終わってしまうと。 |
堀尾 |
それでもいいんですけどね。
でもせっかくですから、ちょっと勉強して、
ついでにちょっとおしゃれもしてですね(笑)。
そのうえで気軽に観にいくといいですよね。 |
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(つづきます) |