糸井 飯島さん、家庭料理のふりしてるけど、
なんて言うんだろう。
男の料理なんだなぁ。
ばなな 男の料理ですよ。うん。
糸井 究極のおいしいものって
家庭料理だって結論を、ぼく、
去年ぐらいに出たんですよ。
たとえば宮廷料理っていうのも、
宮廷の家庭料理だし、
家族に食わせるとか、
知り合いに最高の材料で
単価関係なく食わせるのが、
一番うまいんだから、
必ず家庭料理に行くんだっていう結論が出て。
で、『LIFE』って、
ある意味では、究極の家庭料理のある道を
ひとつ、出したんだろうかね。
ばなな 家庭料理をほんとうに上手な人が
ちゃんと考えてつくったらっていうのは、
いままでもあったはずなんで。
それともまたちがうんですよ。
糸井 そうか。
じつは一回、この本をつくるにあたって、
料理の本をつくるプロに頼んだの。
ところがいろいろ話してたら、
それじゃいわゆる料理本になっちゃうなと思って、
悪いけど、もう一回戻すわ、
って言って、全員素人で始めたんだよ。
ばなな いや、でも、そこで戻せたのはすごいですね。
わたしだったらもしかしたら、
そのまま行っちゃったかも。
断りきれなくて。
糸井 あれはね、勇気がいったよ。
頼んだのも自分なんだから。
飯島 そうなんですよね。
ばなな それはすごい英断でしたね。
わたし、ここに、
ちょうど撮影した終わった頃来たら
ヌードの撮影してる現場にすごく似てました。
一同 (笑)
飯島 あははは。
恥ずかしいですね。
ばなな なかなか見れない人の
ヌードを撮影してるところみたいで、
ギラギラギラっとしたすごい緊張感があって、
「いいのかな?!」とか思って。
糸井 わかるわかるわかる。
撮影に遅れてきたときに、その匂いがする。
あのね、わきあいあいなんだけど、
緊張感があるの。
ばなな 食べたい気持ちも出てたんじゃないかな。
ヌードと同じで(笑)。
糸井 オレは好きなんだ! みたいな。
ばなな 食べられないんだろうか、
でも、終わったら食べれる、みたいな、
そういうせめぎ合いの心が
すごい伝わってきて。
飯島 料理の撮影って、ほんとにおいしさの
タイミングが難しいんです。
熱いものは、熱ければ熱いほど乾きやすいんで、
湯気で飛んでいっちゃうんですよ。
さっきまで、つやつやでおいしそうなのに、
表面が乾いてきたみたいになっちゃう。
ほんとは、ぬるくつくって、
湯気とか出さなければ、もっと、
ずっとつやつやずっと長持ちできるんですけど、
『LIFE』は、ちゃんとできたての湯気とかも
写真にしてもらってるんで。
糸井 写真を撮ってる大江さん、
いままでにも料理の本をつくってるはずだから、
こういうもんじゃないよって
言いたかったと思うんだよね。
たぶん、カメラマンとしては、
こんな条件でオレにやらせるのかよ
っていうくらい、
全部、飯島さん中心だったはずなんですよ。
もっと明かりくれだのなんだの、
一言も言わずに。
平気で、へっちゃらな顔して、
飯島さんがつくってるところを
くーって寄って、撮ってた。
ばなな うん。
糸井 あれ、自分を曲げたと思うんだよ。
たいへんな何かをしたんだよね。
このあいだ大江さんに訊いたら
「あれはドキュメンタリーです」って。
ばなな すごい、わりきって!
ほぼ日 単行本の扉写真にするくらいの料理の撮影は、
すべてをセッティングして、
ライティングもしっかりして、
料理なしでポラロイドで撮影して構図を決めて、
撮るものなんだそうです。
でも、『LIFE』は、
一瞬が勝負なので、その撮り方はできなくて。
糸井 頭使ったのは、その瞬間ですよね。
たいへんだったな。
「手で持って」とかっていうの
「ほぼ日」のみんなが持ったりしてるの。
ふつうは手タレとかが持つんだよ。
ばなな はははは。
ほぼ日 お正月にゆーないとさんが
爪を牛の模様にしてきたときだけは
NGにしました。
出ちゃいかんと。
糸井 はははは。
ばなな はははは。
糸井 本のデザインも、いろいろ考えたよね。
ほぼ日 今回、最初、「ほぼ日」と同じように
横組でつくったラフを見て、
糸井さんが「縦書きを見てみたい」って
言ったんですよ。
ばなな ああ!
ほぼ日 で、縦組をつくったら、
こっちのほうが『LIFE』っぽいし、
そして、写真とキャプションが、
縦のほうがいっぱい入れられたんです。
糸井 それ不思議だったんだよね。
ほぼ日 そうなんですよ。
横だと2列にすると、1行が短くなって、
すごく窮屈になってしまって。
糸井 「見てみたい」って言ったときの心を
ちょっと思い出すと、
インターネットじゃなく、したかったの。
ばなな ああー。
それをそのまま
本にしたみたいな感じじゃなくて。
糸井 うん。
昔からあった本みたいに
したかったって気持ちがある。
あと、タイトルを『LIFE』にするって言ったとき、
みんなが「いいんじゃない!」って言ったんだよね。
ほぼ日 そうですね。
最初は、『かもめとめがねのごはん本』
って仮のタイトルで始めました。
でも、それは、飯島さんを知らせるにはいいけれど、
映画に頼りすぎな感じがしていて。
飯島 でも、それじゃなくなって、うれしかったです。
私のことを紹介していただくときって、
ずっとそういう感じだったんで、
あえて糸井さんが、
それを思いっきり出すのはあんまりかっこよくない、
みたいな感じで言ってくださったときには、
うれしかったんです。
糸井 一回、飯島さんと思いっきり話しちゃって
かっこつけちゃった方が、
中が本音でできるなと思ったんです。
ばなな すごい。
なるほど、いろんな考えが。
糸井 あったんだね。
ばなな あったんだね。
糸井 あと帯も、料理変えたんだよね。
ほぼ日 最初は生姜焼きとか、から揚げとかを
前に持って行ったんですけど、
「おむすびじゃない?!」って、
ほぼ同時に全員が言いだして。
糸井 あと帯の文章に、
「とても具体的な」って一言を
最後に足したの。
楽しかったね。
このくらいになると、
できたって喜びがあるからね。
取材や撮影、本をつくってるときは、
もっと苦しいとは言わないけど、
必死だったよね。
ほぼ日 最初の形を決めるのが一番大変でしたよね。
最初、話が盛りあがって、
シチュエーションごとに出演者とロケ地を決めようとか。
「おとうさんの、ナポリタン。」なら、
ほんとにお父さんにつくってもらう写真を撮ろうとか。
考えすぎちゃっていたんです、最初。
ばなな ああー。
ほぼ日 それを戻してくれたのは
ご意見番として入ってくださった、
文筆家の清野恵里子さん。
『樋口可南子きものまわり』を書いた方です。
その清野さんが、
「この企画は、シチュエーションを決めて料理をする、
 ということだけちゃんと活かせばいいんだから、
 よくばりすぎると後が大変だよ」って。
糸井 その通りだよね。
ばなな ためになるなぁ。
ほぼ日 で、ああそっか、って、
飯島さんのアトリエで
取材も撮影も全部やろう、
自分たちでやろうって、
こうなったんですよね。
飯島 そうですね。
糸井 あと、単行本にするときに、
1個ずつストーリをつくろうとか
言ってたんだよ。
それはオレ書くよ! とか言って。
その仕事してみたかったの、ちょっと。
でも、それはちがうって途中でわかって。
ばなな 引き返せる力がすごいですね。
糸井 しょっちゅうだよ。
うちは、それ慣れてる。
ばなな すばらしい会社だ。
ほぼ日 それはすごいと思ってないです。
引き返すのが当たり前の会社。
糸井 おれたち、
引き返すっていうことのプロだね。
ばなな うん。
なかなかできない。
一番できないこと。
糸井 オレの性格だ(笑)。
やったこと無駄にするの平気だよね。
ほぼ日 全然平気です。
ばなな (みんなに)よかったですね、いい会社だ。
糸井 最初に、シチュエーションで料理をつくろうと
言ったときのエッセンスは残してるから。
だって、説明抜きで
あのナポリタンをポンと出すと、
「麺ののびてるナポリタンを料理本に出す」
ことになるんだよ。やっぱり難しい。
でも「おとうさんの」っていうとOKになる。
ばなな はい。
糸井 そういうことは、けっこうやってますよ。
ばなな その方がいい。
そっかぁ!
あと、やっぱり、台所に持って入る本だから、
あんまり字があると読んじゃったりする。
わかんなくなっちゃう。
ほぼ日 シロ(本の空白のこと)を
コラムで埋めるというようなことも、
やめましたもんね。
シロって、
実用書をつくったことがある身には、
気になるんです、実は。
ばなな 白いって印象はないけどね。
ほぼ日 それが、心配で心配で。
もうちょっと写真大きくして
白いところ埋める? とか。
でも、やらなかったですね。
でも、みんなに訊いたら全然平気って言う。
そうか、平気か、と。
糸井 なるほどね。
色校(本をつくる最後の段階の校正)も、
いつまででもやってるんだよ。
飯島 「ほぼ日」での連載のときから、
もっと確実においしくつくれる分量や手順の
見直しをしたものですから‥‥。
糸井 そんな本に、まほちゃんが
スッと乗ってくれたのもうれしかった。
ばなな 食いしん坊だからですよ。
糸井 2巻もつくりますよ。
ばなな たのしみにしてます。
飯島 プリンができましたよ。
糸井 おおっ!
ばなな おおおおっ!!
糸井 さ、食べようか。
まほちゃん、きょうはありがとうございました。
ばなな こちらこそありがとうございました。
飯島 またぜひ遊びにいらしてください。
ばなな それはもう、ぜひ。
糸井 オレも。
(よしもとばななさんとの対談は、
 これにて最終回です。
 そして飯島さんと『LIFE』チームは、
 2巻の制作に向けて、
 取材・撮影をすすめているところです!
 そちらも、どうぞ、楽しみにしていてくださいね。
 御愛読、ありがとうございました。)

2009-05-29-FRI


(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN