楽しきこともなき人生に、 いかがですか、ご馳走は。  堺雅人さんと、満腹ごはん。
糸井 『南極料理人』、おもしろかった!
ありがとうございます。
飯島 おもしろかったですね。
糸井さんがご覧になるって聞いて、
俺、その日は、仕事が手につかなくて。
「今観てるのかな」って。
一同 (笑)。
糸井 じつは俺も心配で。
だって、つまらなかったら、
堺くんに会うのに、たいへんだもの。
よかった、本当によかった。
糸井 よかったね。
「今日のダーリン」で、
「品がある」って書いてくださって。


・『南極料理人』という映画の試写に行ってきました。
 飯島奈美さんが料理のコーディネーターだし、
 堺雅人さんが主演だし、そのふたりには明日会うし、
 おもしろくなかったらどうしよう、と心配でした。
 で、結果、心配どころか、実におもしろかった。
 いやぁ、『色即ぜねれーしょん』もそうだったけれど、
 品のいい映画なんですよね。
 いずれ、またたっぷり語ることになりそうです。
(糸井重里の書いた6月11日の「今日のダーリン」より)

糸井 品がある。
あのね、野心がないんですよ。
野心が。
糸井 映画に。
うんうんうんうんうん。
糸井 で、野心って何かって言ったら、
「当てよう!」っていうのも野心ですよね。
で、ゼロであるはずがないんですよ。
でも、その野心を
「当てるために何すればいいの」っていう
材料を見える形で出されちゃったら、
それはもうだめですよね。
つまり、こうすれば男は喜ぶんだよ、
っていうのと同じじゃないですか。
で、それは品がないですよね。
だけど、自然に色っぽい人っていうのは
品がありますよね。
だから、「当てよう!」がない。
それから、「誰に褒められよう」がわからない。
はぁ〜。
糸井 例えば、外国の審査員に
褒められようっていう作り方もある。
それから、映画会社のプロデューサーに
褒められようっていうのもある。
それから、業界のあの辺の人とか、
きっとあの人が褒めるといいねっていう人は、
世の中にはいっぱいいるんだろうと思うんですよ。
で、そこを当てにしてない(笑)。
(笑)うん。
糸井 見栄を張って乗せたものがないんですよ、
一つも。
たくさんの人が見てくれたらいいんだけど、
ここまでしかできませんけどって。
はぁー。
糸井 『南極料理人』には、
泣かせる場所っていうのは何回かあるんだけど、
「ここで泣かせて、
 これを予告編に使おう」
みたいなふうにはなってなくて。
なってないですね。そうですね。
糸井 予告編って迫力のあるシーンだとか、
いかにもおもしろいシーンをつなぐから、
予告編の編集者は、
ちょっと大変だったんじゃないかな。
そうすると、この『南極料理人』のよさは
現れないと思うんで。
現れないところにしか、いいとこ、ないから。
なるほど。
糸井 だから、いいんだよ。
それが、品のいいということで、
それはちょうど同じ時期に観た
田口トモロヲの映画『色即ぜねれいしょん』と
同じだったんですよ。
『南極料理人』の沖田修一監督について、
付け焼刃で調べたら、
あの味をずっと出してきた人なんだね。
そうですね。
糸井 あの監督がいて、
飯島さんがいて、
あの変な味を監督させようと思った
プロデューサーがいて。
で、キャストはちゃんと
芝居できる人に控えめにやらせよう。
そういうことだよね。
飯島 あのシーン、おもしろかったですね、
堺さんが南極に行く辞令を受けて
「家族と相談させてください」って言う。
(笑)あそこは、
わかりやすい掛け合いなんですよね。
糸井 あれが一番濃いぐらいだよね。
そうですね。あれが一番わかりやすいですよね。
糸井 あれ以外はさ、
小さな伏線の張り方とかあるじゃないですか。
その小さな伏線にしても、
もっと、「ここ見てね」っていう使い方もあるのに、
全然、しないじゃない。
しないんですよ。
料理番組じゃないけど、
料理の物語って、『かもめ食堂』もそうですけど、
行く着く所は1個だなっていう気がするんですよね。
それは「おいしいものをみんなで食べると楽しいね」
っていう、ただそれだけのこと。
それを、手を変え、品を変え、やってて。
『南極料理人』も印象深いのは
結局そういうエピソードだったり。
糸井 そうだね。
生瀬さんの奥さんだとか、
きたろうさんのラーメンだったりとか、
全部そうなんですけど、
1個1個のエピソードを手抜きせずに
全部、作ってる感じがして。
糸井 つまり、ホテルものなんですよ。
三谷幸喜さんが、
『THE 有頂天ホテル』ってやったのって、
ホテルから出ないで、
芝居の形で映画を作れるじゃないですか。
南極の観測地ってホテルなんですよ、あれは。
なるほど、なるほど。
糸井 で、そう考えると、欲かいて
あそこに外部を放り込んでみたいとか、
悲しいところで泣かしてみたいとか、
変な色気が出るところが何回もあるんですよね。
それをね、抑えて抑えて(笑)。
抑えてますよね。それは照れなのかな、どうなのかな。
糸井 照れなのかもしれない。
だから、そんな男と一緒になったらダメだと思うよ。
この監督は、結婚するにはよくない。
ええっ(笑)? ああ、そうですか。
糸井 どこかで無理にでも
こっちに行けって言ってくれないと、
結婚生活は成り立たない。
でも、映画はできたんだよね。
(笑)きたろうさんにしても、ぼくにしても、
わかりやすくしたがるところがあって、
多分、真ん中をうまく捉えたのかなっていう気が。
糸井 なるほどね。芝居したくて
手ぐすね引いてる人をね。
「タイチョー」役のきたろうさんは
特にそうでしたね。
糸井 集めたんですよね。
で、それを集めて、あんなに芝居させないって。
(笑)そうですね。
糸井 芝居って、お前がするんだったら、
俺もするぞ、みたいなことでしょ?
先輩たちはそうでしたね。
きたろうさん、
気象学者役の生瀬勝久さんは、
なんかもうずっと見ておきたかったですね。
糸井 そうだよね。
お医者さんを演った
豊原功補さんも、やっぱりすごくこう、
味のあるお芝居されるから。
本当ね、皆さんね、濃い。
糸井 で、どこっていう何かを絶対してないですよね。
『南極料理人』の役者たちには
この監督の野球をしよう、みたいなところが
ありましたね。

(つづきます)

2009-08-18-TUE


(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN