楽しきこともなき人生に、 いかがですか、ご馳走は。  堺雅人さんと、満腹ごはん。
第4回 そういう子が育ってるんだ。
「兄やん」役の高良健吾(こうらけんご)が
よく脱ぐし、よく脱がされるし。
糸井 あ、「電話の人」だ。
(笑)あの人の弱っぽさ、よかったね。
実はものすごく強いんですけど。
腕相撲で一番強かったんじゃないかな、
みんなの中で。
糸井 あ、そうなんだ。すごいなぁ。
でも弱っぽいですよね。
高良君の弱芸(よわげい)はすごいですよ。
『蟹工船』でも弱っぽい役をやってて。
糸井 そうなんだ。見事だねぇ。
あと、尾崎豊歌いながら
お風呂入ってた人。
髭がモジャモジャの博士みたいな人。
はいはいはい、「主任」の古舘寛治さん。
糸井 あの人も、すごかったね。
歌詞がすげえなと思ってて。
(笑)まずそこに惹かれたんですか。
糸井 珍しく言葉が立つ場所だから、
歌詞がすごく重要なのって
あそこぐらいしかないじゃないですか。
で、すっごくいいなと思って、
後でプログラム見たら、尾崎豊だった。
ガラス割るやつですからね。
そうですね。
糸井 で、あいつ、そうですよね。
あいつ、そうです。言われてみれば、そうだ。
糸井 あいつ、尾崎豊ですよね。
そうですね、そうだ。
糸井 尾崎がモジャモジャしたっていうことですよね。
モジャモジャした尾崎が、
みんなのガラスを割って回ってた。
ものすごくいいんですよ、そういう小さいとこが。
そうだ、言われてみれば。
でも、その歌は指定されてて、
ずっと練習してたって言ってました。
糸井 そうだろうな(笑)、うまかったもん。
いや、もうそういうね、
1個ずつがもうよくて。
顔つきまでよかった、いろんな人たち。
(笑)。
糸井 堺くんの子どもの役の子の顔とかさ。
天才なんです。
小野花梨さんというんです。
天才なんですよ。
糸井 やっぱり。
榑谷 殴るシーン、すごい痛そうでしたね。
あ、痛かった、痛かった!
糸井 思い切りいいですよね。
あそこで思い切り相手を殴れるかどうかで
役者の器って決まると思うんですね。
糸井 大竹しのぶを感じるよね。
ああいう思い切りのところもよかったし、
控えめな芝居もよかった。
電話で、自分だと気づいていないお父さんに
さいごまで隠して、
微妙な表情をするシーンがあったでしょう。
そういう時って、どのくらいの分量の
芝居をしたらいいかって、悩まない?
あれ、誰でも悩むと思うよ。
どのくらい「お父さんわかってるのかしら」にするのか。
ああ、なるほど、なるほど。
糸井 それを、結果は私が全部決めるから、
みたいな顔してたじゃないですか。
かっこいいなぁー。
あの年(小野花梨さんは1998年生まれ)で、
時々、試し打ちしてくるんですよ。
こっちの反応を伺いに。
糸井 ああ、そう!
脚本外の台詞っていうのはあるんですか。
それはほとんどないですね。
でも生瀬さんはわりかし野放しにしてたかな。
それから、きたろうさん・・・・、
この2人がね、遊びたがるんですよ。
で、2人でやっぱり抑制されてて、
全体を見てもいました。
さらに、豊原さんを入れたその3人には、
この映画は、負ってるところが多いですよね。
糸井 その人たちがしないんだったら、
ぼくもしません、みたいなところがあるよね。
そうです、そうです。
でも、ほとんどアドリブはないと思いましたよ、
これはね。
糸井 堺さん自身はどうだったんですか。
アドリブは、なかったです。
今回は、本当に
人の芝居見てるっていうのが多かったから。
ただ、ただ観察してる。
糸井 ああ、そんな役でもあるよね。
主役は堺雅人なのに、
じつは、誰でもないですよね。
そうです、そうです。
そこがおもしろいところ。
一幕もののお芝居で言ったら、
なんだかよくわからないけど、
あんまりライトも当たらないまま、
ずっとそこにいる人みたいな感じの
イメージなんですよ。
ぼくの役は。
糸井 そうですよね。
いやあ、この映画に関しては
いくらでも語れるんだけれど、
監督に感心したのが、まずは、あるな。
「そういう子が育ってるんだ」
っていう嬉しさですよ。
32歳って言ったらさ、
堺くんよりいくつも若いでしょ?
4つ下ですね。
糸井 4つ。すごいよね。
でも、糸井さんの「品」っていう言葉で、
ああ、そういうことなんだなって。
それは料理だけじゃなくて、
作る映画だけじゃなくて、
いろんなことに言えるかもしれないですよ。
糸井 うんうんうん。
わかりやすくないっていうか。
糸井 心はちゃんと込められているんだから、
わかってもらえなくてもいいんだ、
あるいは、ありがとうって
言ってくれなくてもいいんだっていう
満足感が品だと思うんですよね。
それをできる人たちが、
やっぱり世の中には結構いてさ。
全部言葉にしたり、
目立つようにしたり、
忘れてると思ったらわざわざ突っ込みを入れて、
もう1回言わせたり、
そういう、悪い意味での
テレビ的なものっていう時代が、
もしかしたら終われるかな。
それがうれしいですよね。
今しゃべってることだって、
「ここはどうしておもしろいかって言うとね」って、
もっとくどくだって言えますよね。
でも、これでいいや、
そのまま出しちゃえばっていうのも、
ぼくらのスタンスとしてはそこがやりたいんですよね。
で、そういうチルドレンが
やっぱり世の中にいるもんだなと思ってさ。
太字にしない強さ。
そうですね、太字にしない。
糸井 ぼくらも勿論テクニックとして、
いっぱい太字使って客を呼んどいてから
静かにしゃべるとかね、いろんなことはしますよ。
(笑)。
糸井 だけど、こんだけのスケールのものを
任された映画監督に、そういう品があって、
その品にその出演者たちがちゃんと、
「じゃあ、ぼくもそれで仕上げましょう」って、
なんか素晴らしいティーパーティーができました、
みたいなね。
うんうん。
糸井 飯島さんもそうなんですよ。
飯島さんも、
「聞いてくれるんだったら、言いますけどね」
みたいなところがあって。
なるほど。
糸井 でも、「実は」っていうのを言わせると言うんです。
それが好きですよね。


(つづきます)

2009-08-20-THU


(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN