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糸井 |
伊勢えびのフライっていうのはすごいシンボルで、
あれは、非・品(ひ・ひん)が
行き過ぎた形ですよね。 |
堺 |
そうですよね。 |
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糸井 |
「伊勢えびと言えば」って言って、
山奥でも伊勢えび出しちゃうじゃないですか。
あれが非・品ですよね。
でも、伊勢えびのおいしさっていうのは
どうしてもメモリーに残っちゃうから、
「うわあ、伊勢えび!」って言って、
腐っても伊勢えびなんです。
伊勢えびって名前だけでおいしい。
で、エビって言ったらフライですから、
「フライで」って言っちゃって、
欲望のままにエクスクラメーションの塊
みたいなものをぶつけたら、ああなるわけですよね。
あれ、もう1回裏を返すと、
あれはあれで旨いんじゃない? |
堺 |
あれね、旨かった。 |
糸井 |
でしょう? |
堺 |
衣少し厚めにして、ポコッとなってて。
そしてあのソースが旨かったです。
あれ、本当に海老の頭のみそを
ソースに生かしてるんです。 |
榑谷 |
堺さんが「おはよう」って現場に入ったときに
「伊勢海老のミソを入れたら
すごくおいしい
タルタルソースが出来たんです!」
と声をかけて、堺さんに味見してもらったら
堺さんが「おいしい!」と
おっしゃってくださって。 |
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糸井 |
うれしいよね、そういうのね。
あんなふうにね、
グルッと回って、知ってて下品をやる、
っていうやり方もあるんですよ。
堺くんがあんなに泣いたのも、
あれは伊勢えびフライですよ。 |
堺 |
うん、うん、うん。
表現形式としてはそうですよね。 |
糸井 |
10秒以上やらないでください、
みたいなところはもしかしたらあるかもしれないのを、
「止まらないんだもん」っていうのは、
あれは伊勢えびのフライ。
で、結局それはおいしかったわけで。
お客さんもそれは楽しめましたよね。
すっばらいしい時代が来たなあと思って。
生卵かけご飯が流行ったじゃないですか。
あれって、もとをただすと、
多分『美味しんぼ』の海原雄山のモデルになった── |
堺 |
魯山人(北大路魯山人)? |
糸井 |
魯山人。
貧乏の極みからああなった人ですから。 |
堺 |
魯山人ってそうなんですか。 |
糸井 |
覚えていったものですよ、全部ね。
で、卵かけご飯はすごいっていうことを、
美食の世界であてつけがましく言った。
まあ、強がったわけですよね。
で、それは、一部のそういう趣味を
おもしろいと思う人の間に伝わっていって、
緒形拳さんがそれを食べた席にね、
ぼく、いたことがあるです。
それは、きざなものでもあるんだけれど、
やっぱり感動させるんですよね。
で、卵かけご飯がおいしいんだっていうのは、
どこかのところでみんな気付くんですよね。 |
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堺 |
(笑)はい。 |
糸井 |
米がおいしく炊けてて、
卵黄でご飯食べるわけだから、
これはものすごく旨いですよ。
で、安いから下に見られてるものを、
高い安い関係なく「これは旨いよね」って
もう1回言える場所にみんな行くんです。
必ずきっと。
あてつけがましくなく卵かけご飯が
食べられる時が多分来るんですよ。 |
堺 |
身の丈にあった卵かけご飯が。 |
糸井 |
そう(笑)。
隣にフォアグラがあろうが、
ふぐがあろうが、伊勢えびがあろうが、
卵かけご飯を並べることができるっていうのは、
やっぱり豊かさのひとつのシンボルで。 |
堺 |
そうでしょうね。うんうんうん。 |
糸井 |
で──、こんなに長くしゃべった挙句に
言うのは変なんだけど、
卵かけご飯に何の罪もないんだよね。 |
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堺 |
なるほど。 |
糸井 |
だから、これが
コンテンツっていうもんだと思うんだよ。 |
堺 |
うん、うん。それはその上に行こうが、
下に行こうがっていうことですよね。 |
糸井 |
そう。関係性で全部変わるんですよ。
緒形さんのやった卵かけご飯、
魯山人のやった卵かけご飯、
俺がやっと発見した卵かけご飯、
他に知らない卵かけご飯、
それから、思い出したのは、
祇園の舞妓さんが、
「1人で卵かけご飯が1人分食べたい」
って言って泣きそうな顔したのを、
俺、覚えてるんですよ。
置屋にいる、すごくケチな女将さんの所の
不細工な舞妓さんが。 |
堺 |
不細工な、はい。 |
糸井 |
「私は、1個の卵かけご飯を食べたい」
って言ったんですよ。
1個まるごとをね。
分けるんじゃなくてね。 |
堺 |
それは何年前ですか。 |
糸井 |
15年ぐらい前。 |
堺 |
そんなに最近の話? |
糸井 |
最近なんです。
躾っていうのとケチが掛け算になって。 |
堺 |
(笑)怖いですね、×(かける)京都で。 |
糸井 |
冷蔵庫にはいっぱいあるのに
食べさせてくれないっていうのを、
お客さんに愚痴ってたんです。 |
堺 |
(笑)それも、まあ、
ろくな芸子さんじゃない。 |
糸井 |
そう、だから、
もう完璧にどっちもどっちで。
そこにある卵かけご飯も、
全部同じものですよ。 |
堺 |
そうですね。 |
糸井 |
で、関係性だけが違うわけですよね。
そこに、なんか一番いい関係を結んでるのを、
「あ、いいなあ」って言う。 |
堺 |
それはあれですか、泳いでるマグロは
「マグロが旨い」って知ってるかっていう話と。 |
糸井 |
似てますよね。 |
堺 |
ていうことですよね。
(笑)うん。卵かけご飯ね。
あれ、なんであんなにおいしいんでしょうね。 |
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糸井 |
で、ほかの例えばイクラだとか、
魚卵系のものを噛み締めて食べてると、
卵かけご飯の味になるんですよね。 |
堺 |
なるなる。なる。 |
糸井 |
「てぇことは!」って気付くんですよ、ある時。 |
堺 |
(笑)「全ての味は卵かけご飯に通ず」みたいな? |
糸井 |
で、それを飯島さんなんかはプロだから、
料理の先にいる化学者みたいな人と
対談とかし始めるわけですよ。
「どうしておいしいんでしょうね」っていうのと。
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(つづきます) |